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歌川国芳の男前な浮世絵《誠忠義士伝》…東京国立博物館

今回は昨年末に東京国立博物館(トーハク)で見た、浮世絵師・歌川国芳(くによし)さんの《誠忠義士伝》をnoteします。なぜ今さら? な感じなのですが、どうしてもnoteしておきたいと思いつつ、年末に見たのでnoteする間もなく年末年始の休館に入ってしまったので(そのまま展示替え)、どうしよ? と思いつつ、こんな時期になってしまいました。

タイトルを見ればなんとなく分かりますが、「忠臣蔵」を題材にしたものです。弘化4年(1847年)に発表された人気浮世絵シリーズで、事実、トーハクに限らず様々な博物館や美術館に所蔵されています。

ただし「忠臣蔵」って、「三国志」や「西遊記」などと同じように、実際にあった話を原型が分からないほどに盛りに盛った話……と、わたしは認識しています。今回の《誠忠義士伝》も、そんな盛り盛りされた歌舞伎の演目「仮名手本忠臣蔵」に登場する義士47人に、塩谷判官など3人を加えた50人が描かれています。また、もとは1枚に1人が描かれているのですが、トーハクのは、紙が繋げられて巻子本になっています。

大星由良之助良雄 (大石内蔵助良雄)

《誠忠義士伝》を読むと「大星由良之助(おおぼし ゆらのすけ)」とか「塩谷判官高貞(えんや はんがん)」なんていう聞き慣れない名前が記されています。これは当時、「赤穂浪士による仇討ち」は、幕府が禁忌(タブー)としていた雰囲気があったこともあり、歌舞伎などで上演する時には「大石内蔵助良雄」を「大星由良之助良雄」としたり、実名を伏していたんですね……バレバレですけどね。

もし幕府が本気で「禁忌」にしていたのなら、こんな小細工を許すわけもないので、実際には、こうしたことに幕府が目くじらを立てることはなかったような気もします。これをもって「江戸時代は言論統制が敷かれていた」とするのは無理があるでしょうね。むしろ、今のテレビドラマでもよくある「実話に基づくフィクション」であり「登場人物の名前などは実在しません」ということだったんじゃないかと思います。

塩谷判官高貞(赤穂藩藩主・浅野内匠頭長矩)

また近年は、浪人となった赤穂のリストラ武士たちが、生活費に困ってやむにやまれず討ち入りをした…つまりは主君への忠誠心から仇討ちしたわけではない…といったストーリーの『忠臣蔵』もあります。でもそうなると、完全に犯罪者の思考ですよね。そうしたテロリスト四十七士のストーリーが、江戸時代に万が一に歌舞伎や講談、浮世絵などで大人気になってしまっていたら……それこそ幕府は怒っただろうなと。

でも歌舞伎の演目としての『仮名手本忠臣蔵』は(すべて観たり読んだりしたことありませんけど……)、君主への忠誠と仇討ちという主題を通して、江戸幕府の公認学問(道徳)である「朱子学」が重視する、君臣関係(忠義)の概念を強調しているんですよね。

色々と朱子学との矛盾も指摘されているようですけれど、みんなの心に残っているのは、我欲を捨ててまで貫き通した、美しい忠義心ですよね。幕府としても、その点に関しては大衆が感動してくれるのは良いことだったはずです。それに確か「仇討ち」という“概念”自体は、当時は違法ではなかったはず(もちろん今は違法です)……まぁいろいろな手続きを経ての適法だった気がするので、実際の吉良邸討ち入りは「急襲」しているのでいずれにしても違法だとは思いますけどね。

まぁなにはともあれ、歌川国芳さんの絵が、力強く躍動感に溢れていて、細部までしっかり書き込むことでの実存感も凄いですね。例えば現在の歌舞伎公演用のPRポスターとして、顔を現在の役者に変えたら使えそうです。

ということで今回のnoteは以上です。トーハクでは毎年11月〜12月の総合文化展(所蔵品点)で、「忠臣蔵」を画題とした浮世絵がずらぁ〜〜〜っと並びます。また近々観られるのではないかと思います。けど、トーハクのは巻子本なのでね……おそらく毎回同じ(大石内蔵助が描かれている)部分を見ることになるのではないかなというのが心配なポイントです。

■参考サイトや文献

《誠忠義士伝》は、多く現存しているため、様々な博物館や美術館で見られます。今回、参考にしたり「今度読んでみよ」と思ったりした博物館・美術館のWebサイトを載せておきます。

富士美術館(画像データがきれい)

https://www.fujibi.or.jp/collection/overview/search-results/?k=%E8%AA%A0%E5%BF%A0%E7%BE%A9%E5%A3%AB%E4%BC%9D&db=artwork

豊国三代の《誠忠義士伝》

トーハク蔵に《誠忠義士伝》を寄贈した高橋寧さんとは何者なのか? と思って調べてみましたが、確証が得られませんでした。最も有力なのが、中央義士会の理事だったという方かなと。

芸能学会 編『芸能』33(12)(394),芸能発行所,1991-12. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2276683 (参照 2025-02-14)

中央義士会の理事だった方かも。

高橋博信さんという浮世絵コレクター&研究者の方は、歌川国貞を中心とするコレクションを、北海道立近代美術館に寄贈されています。

慶應義塾の塾長だった高橋誠一郎さんも、多くのコレクションを同大に寄贈しています。「高橋」さんつながりということで載せておきます。『浮世絵随想』なんかは、読んだら面白そう。

『高橋誠一郎コレクション浮世絵名作展』,慶応義塾,c1983. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12425880

高橋誠一郎 著『浮世絵随想』,中央公論美術出版,1966. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2509444


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かわかわ
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