江戸時代の図譜と岡本秋暉の《四季花鳥図屏風》
東京国立博物館(トーハク)では、昨年(2023年6月頃)、『虫譜づくりの舞台裏』という特集が組まれていました。虫の図譜についての特集です。その展示内容自体がとても興味深いものだったのですが、展示室にあった「江戸時代の博物図譜関係人物年表」は、見ているだけで面白いものでした。
博物図譜づくりが江戸時代に入って急に盛んになったのかは分かりません。もしかすると西洋の博物ブームのようなものがシルクロードを通って中国に伝わり、そこから日本へ入ってきたのが安土桃山時代や江戸時代初期だったのかもしれません。
とにかく日本では江戸時代に多くの図譜が作られました。そして上の人物年表を見ていて面白いのが、この中に多くの武士階級……しかも殿様=藩主たちが多く含まれていることです。加賀藩主の前田綱紀、高松藩主の松平頼恭、福岡藩主の細川重賢、薩摩藩主の島津重豪、長嶋藩主の増山雪斎、堅田藩主の堀田正敦、富山藩主の前田利保と、人物年表に挙げられている1/3の人が、どこかの藩主です。
この中に『集古十種』を編纂させたり、オランダの植物学者ドドネウスが書いた『草木譜 CRVYDT-BOECK』の翻訳本『ドドネウス草木譜』を作らせた、白河→桑名藩主の松平定信が入っていないことからも、この年表がごく一部を挙げているだけということが分かります。
■図譜のような写実的な屏風
で、なんで思い出したかといえば、現在トーハクの「屏風と襖絵」の部屋に展示されている、伊藤若冲の《松梅群鶏図屏風》や岡本秋暉の《四季花鳥図屏風》を見たからです。
伊藤若冲《松梅群鶏図屏風》については先日noteしましたが、鶏の絵を得意とした絵師です。たくさんの鶏を自宅で飼って、その姿を写生していったと言われていますよね。鶏は飼っていたものを写生していましたが、皇居三の丸尚蔵館蔵の《動植綵絵》のいくつかは、図譜を見て書いたものだろうと推測できます。
一方の岡本秋暉さんは、孔雀を得意としていたそうです……って、伊藤若冲の孔雀も素晴らしいですけどね。その岡本秋暉の《四季花鳥図屏風》を見ていきましょう。これ、鳥と草木の図譜から、それぞれ画題をピックアップして屏風用に構成し直したんじゃないか? というほどリアル……写実的なんですよ。
実は岡本秋暉が、鳥類を写生したスケッチ帳が、同じくトーハクに所蔵されています。このスケッチ帳があっての《四季花鳥図屏風》だということがよくわかります。
《四季花鳥図屏風》は、現在、伊藤若冲の《松梅群鶏図屏風》と同じ部屋の隣にに展示されているのですが……もしかすると伊藤若冲よりも人気かもしれないくらいに、多くの観覧者が岡本秋暉の作品に見入っていました。
■かわいいフクロウが記録された『鳥譜』
図譜の話をしたので、現在、トーハクの「図譜コーナー」に展示されているものもnoteしておきます。今展示されているのは、冒頭で記した博物図譜関連の人物年表にも登場する、近江の堅田藩の藩主・堀田正敦がつくらせた鳥(禽)の図鑑です。
彼は、このほかにも「江戸時代最大の鳥類図鑑といわれる『観文禽譜』を作成した人物」と、解説パネルに紹介されていますが、彼の興味は鳥にとどまらなかったのか、幕府がつくった武家系図『寛政重修諸家譜』の編纂者でもあります。
そして最も目が離せなかったのが、下のふくろう。
こんなふくろう……いるんですかね? でも図譜ですから、実際にいるんでしょう。