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江戸時代中期の画壇を盛り上げた与謝蕪村・池大雅と円山応挙・呉春がトーハクに集結

たいそうなタイトルを付けてみましたが、与謝蕪村・池大雅と円山応挙・呉春の作品が、揃って展示されることが、それほど珍しいことなのか分かりません。

ともかく、東京国立博物館東博=トーハクでは、本館2階の屏風と襖の室(7室)に与謝蕪村・池大雅と円山応挙を並べて、真逆に位置する国宝室(2室)に呉春を掛けています。

トーハク本館の2階のフロアガイド。屏風室(7室)はマップの左上。国宝室(2室)は右下

■池大雅の大作《西湖春景銭塘せんとう観潮図かんちょうず

本館8室から眺めた池大雅の『西湖春景銭塘せんとう観潮図かんちょうず

この7室の手前の8室から見る屏風絵が好きです。今回は池大雅の『西湖春景銭塘せんとう観潮図かんちょうず』。このくらいの距離がちょうどよいのか、特に向かって右側の右隻うせきの奥行き感を、すごく感じられました。屏風の向こう側にど〜ん! と空間が広がっているような錯覚が……。気のせいでしょうかね……。

解説パネルによれば、右側の右隻うせきに描かれているのが西湖で、当時の知識人であれば「ああ、西湖なんだね」と分かるくらいに有名な湖だとのこと。対して左側の左隻させきには銭塘江せんとうこうの河口が描かれているそう。つまり中国の浙江せっこう省杭州にある2つの景勝地が、左右に描かれています。

ふぅ……パソコンで地名の漢字を変換するのも大変ですが、この絵を理解するのも、そうとう修行が必要だということは分かりました。

池大雅の画号の一つ「霞樵かんしょう」の落款
かわいらしい家が描かれています(右隻の部分)
左隻させきの半分近くを、ほぼ空白にするという大胆?な構図ですね。こうした思い切ったことは、巨匠だけが許される感じがしますし、きっと(ほぼ)空白にすることで、全体のバランスが取れているってことなのでしょう(美術の門外漢には分かりませんが…)
点(ドット)で描く点描てんびょうのような書き方だなぁと思って調べてみたら、水墨画には「水墨の点を集合させて表現する米点法」というのがあるそうです。池大雅のこの絵が、米点法なのかは分かりませんが、特に珍しい描き方ではないようです
解説パネルには、中国浙江省杭州にある2つの景勝地を描いているとのみ書かれていますが、池大雅の中では、この絵にもなにかストーリーがあるのでしょうか。この絵に描かれている3人は、何を話しているのか……「景色がいいねぇ」とでも言っているんですかね

さて、屏風室7室に入って左側には、与謝蕪村ぶそんの『山野行楽図屏風』が掛かっています。これは前回記しましたが、改めて見ると、1回めよりも良い絵なのかもしれないな……と思いはじめています。いや、評価の高い絵なので、良いはずなんですよね。ただ、教養が足りない私には、その良さが分かりづらいのでしょう。

与謝蕪村ぶそんの『山野行楽図屏風』
『山野行楽図屏風』右隻の部分。馬に乗ったおじいさんと月
『山野行楽図屏風』(部分)。おじいさんにググッと寄って見てみると、少し微笑んでいるように思えます。やっぱり行楽に来ているんでしょうか。それにしても、行楽へ出かけるほど裕福な感じもしませんが……
『山野行楽図屏風』の左隻では、4人の老人が若い人たちに引っ張られながら山道を歩いています。これはそのうちの3人。前回見た時は、夜逃げでもしているんじゃないかと感じましたが、表情にそれほど逼迫した感じはないので……やはり行楽へ出かけてきたのでしょうか……
若者に背負われて……今回気がついたのですが、これは川を渡っているんですね。こちらの背負われた老人も、背負っている若者も、表情がほがらかです

屏風室の7室に掛かっているもう一つは、円山応挙『朝顔狗子図杉戸あさがおくしずすぎと』です。これは大人気で、足を止めて、長く見つめている特に女性が、跡を絶ちません。

屏風室(7室)。左から与謝蕪村、池大雅、円山応挙

■呉春作品は、師匠たちに並び国宝に指定されるか?

国宝室とも別称されるトーハクの2室は、普段は名前の通り、国宝が展示されています。現在は国宝を年末の特別展に集中させるため(スケジュール調整のため)に、この2室では「未来の国宝」と題して、トーハク所蔵の国宝以外の逸品を展示しています。

<2022年9月3日>現在は、呉春の『山水図屏風』が展示されています。

呉春の『山水図屏風』

解説パネルによれば、呉春ごしゅんは、与謝蕪村に俳諧と絵画を学び、蕪村の没後は円山応挙に師事し、後に京都画壇を代表する四条派を確立したといいます。

そして『山水図屏風』は、ちょうど与謝蕪村に絵画を学んだ後、円山応挙に師事する前の、30代の「池田時代」と呼ばれた頃の作品だと考えられているそうです。

トーハクの担当研究員の大橋美織さんは、解説パネルの中で「高士こうしや農夫が山間を歩み行く風景が、細かく柔らかな線とリズミカルな墨点、淡い色彩によって描かれています」と記しています。

高士や農夫というのが、これでしょうか。馬の傍らにいる農夫(?)が、「えっと…なんかようですか?」と訊ねるように、こちら(観覧者)を見つめているのが印象的です

数カ月前に見たときは、その良さが分かりませんでしたが、今回改めて『山水図屏風』を見ると、国宝室という場所が良かったこともあり、なんだか良い作品に見えてきました。

「細かく柔らかい線で」風景が描かれているのが分かります
松のような木が「淡い色彩によって描かれて」いるのも分かります

う〜ん……こうしてじっくりと見てみると、たしかに「うまい!」と思いました。

できれば、なぜ(トーハクの中の)「未来の国宝」に指定したのか、その理由を聞きたいところです。もしこれが誰もが感じる傑作であるなら、とうの昔に国宝に指定されていたでしょう。ただ、そこまでではない……という評価だと思うんですよね。

また『山水図屏風』は、呉春の池田時代の作品とのこと。円山応挙に師事して、画風を一変させる前の作品です。もし呉春の作品が国宝に選ばれるとしたら、応挙に師事した後に、円山派とも異なる「四条派」という独自の路線を確立した際の作品がふさわしいのだと思います。

その作品を、私は知らないし、おそらく過去に見たこともありません。今後、見られるのを楽しみにしておきたいと思います。




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