肥満になるのはなぜ
今回のテーマは肥満です。
私は食べ過ぎればすぐに太り、食事を減らせば体重はすぐに減るタイプです。なので、日々食欲を理性で抑え、毎朝体重計に乗り、健康にも美容にも悪い肥満を予防しています。
患者さんの中には、食事を制限し運動をしても体重が減らない、瘦せにくいタイプの人もいます。また、元々太りにくいタイプだった人が、チョコレート・クッキー・ケーキ・ポテトチップスなどのお菓子やパスタ・ラーメンなどの高カロリー食品を、少量ずつでも長年食べ続けてきた結果、お尻や太もも、下腹などの部分太りが進行し、食事を制限しても痩せないという人もいます。
このような、痩せやすい人と瘦せにくい人、太りやすい人と太りにくい人の違いはなんでしょうか?
今回は、東洋医学の観点から肥満について考えてみましょう。
聞き慣れない用語が多く出てきますので、一つ一つ用語を説明しながら解説しますね。
人類の進化は飢餓との戦い
私たち人類進化の歴史は、飢餓との戦いでした。自然環境に左右される生活の中、いつ食事を摂れるかわらなかったので、手に入れた食料をできるだけたくさん食べて、栄養を体に溜め込もうとしました。
進化の過程で溜め込み遺伝子を持った人類は、時代を経て徐々に食料を安定して手に入れることができるようになり、さらに現代の飽食時代を生きるようになりました。すると今度は、食べ過ぎにより様々な病気が引き起こされるようになってしまったのです。
太る原因には、まず第1にこのような背景があることを理解してください。
脾虚(ひきょ)と胃実熱(いじつねつ)
脾虚:脾に力がなく消化吸収が上手くできないことを漢方では「脾虚」と言います。このタイプの人は、食べたものがスムーズに消化・吸収されるはたらきが弱いため、下痢しやすく、疲れやすくて顔色が悪い。また、食が細いので太りにくく、瘦せやすい体質の人です。
胃実熱:一方で、胃に力があり早食いで、あまり噛まずに飲み込むことができ、満腹でも詰め込める別腹のできる人。特に冬でもアイスコーヒーや冷たいビールを好む人は、熱エネルギーが胃で過剰になっているので、食べてもすぐに空腹になりついつい食べ過ぎてしまいます。このような人を「胃実熱」タイプと言います。たくさん食べて胃に仕事をさせることで、胃の過剰なエネルギーを消費し、胃がクールダウンして落ち着いてすっきりするのです。
脾虚で太れない人は、口中で溶けて飲み込みやすいケーキやチョコレート、クッキーなどの甘くて柔らかい高栄養のお菓子類を好みます。三度の食事が少量であっても、間食に甘い菓子類を食べ、脾胃の消化吸収能力以上に摂取しがちです。
このような食生活を長く続けていると、消化・吸収されずに残った食物が、脾や小腸、大腸(消化器)に残り、食滞や宿便や痰飲(たんいん)という体内のヌルヌル・ベタベタの病理産物を生じます。
痰飲という肥満の原因物質
痰飲は、食べたものが気血(エネルギーと営養)に変わる事を妨げます。さらに痰飲が足の太陰脾経(たいいんひけい)という脾と接続する経絡(けいらく)=「気血の流れる経路」の通る下腹や太ももの内側に集まり、部分太りを生じます。
臓腑(ぞうふ)や経絡に残った痰飲は、西洋医学的に考えると、中性脂肪・コレステロールのような病理産物です。
胃実の人も食欲にまかせて食べ過ぎると、脾の消化吸収のはたらきが追いつかず、食べたものが痰飲としてため込まれることになります。
飽食時代に生活する私達は、本来、一日の活動に必要な気血を生成するだけの食事を摂れば良いのです。しかし、生活が便利になり、日常的に多くの人が運動不足で、仕事も椅子に座ったパソコン業務などの場合は、一日の活動に必要なエネルギーの消費は大変少なくてすみます。
運動不足でありながら高栄養の食品を過剰に摂取していると、行き場のなくなった栄養は消費されずに痰飲を発生させます。
痰飲は、一度でも臓腑や組織や経絡に停滞すると、ヌルヌル・ベタベタとして粘着性が強いため、簡単には取り除けません。
つまり、一度太ると痩せにくい肥満の原因は、粘着性の痰飲が多く発生して滞り、代謝障害を引き起こしているからなのです。
痰飲による肥満の人の特徴
一度太ると痩せにくい痰飲による部分太りや肥満の人には、次のような症状がみられます。
○雨の降り始めや梅雨時には、体が重だるくなり頭重や眠気が現れる。また、古傷や術後の部位も雨による湿度の上昇の影響を受け、重痛を発症する。
○朝起きが普段から辛いが、雨の日は特に起きられない。
○食後にだるく眠くなる。食べ過ぎや高栄養の食品を摂取すると特に眠くなる。
○風邪でもなく、タバコも吸わないのに、ヌルヌル・ベタベタの痰が喉に絡み、歯みがき時に吐き出すことがよくある。
漢方の助けでより快適な生活を
肥満による様々な症状で悩んでいる方は、ほんの少し漢方薬の助けを借りるだけで、快適な生活に戻れます。
一例を挙げると、脾虚の人は、消化吸収しやすい高栄養の菓子や、パスタ・ラーメンなど味の濃いものを好んで食べる傾向がありますが、漢方の治療を始めると、それまで平気で食べていたものを、「少し食べただけで不快」と訴えはじめる事が珍しくありません。
これは症状が改善され、臓腑がしっかりと本来の働きを取り戻し、消化器の力に応じた食事の嗜好に変わったということです。
このように様々な不調やトラブルをかかえ肥満に苦しんでいる方、漢方の力を借りて、本来の内臓のはたらきを取り戻してませんか?
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