雪国エレジー/連載エッセイ vol.14
※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「ほねっこくらぶ通信 vol.16(2003年4月)」掲載(原文ママ)。
風薫る春である。
雪深い北国に生きている我々にとって、心躍る季節の到来。
日差しに紛れた太陽の香りと、これ以上ない勢いで映える新緑の輝き。
ああ、やっと来てくれたのだね。
本当に待っていたよ。
待ち望んでいたよ。
なにせ、今年の冬は私にとって大変なものだったのだから…。
事件は、まだ道路に雪が押し固められていた頃に起きた。
その日、私は患者さんの予約を入れなかった。
何故ならば、私事で非常に恐縮であるが、今度県央部に新しい院を作る為の下見をするべく、何とか日程を調節して、1日空けていたからである。
幸いな事に、空は朝から晴れ上がっている。
午前中の早い時間に事務仕事を済ませ、私は着替えをする為に、1度アパートへと戻った。
すぐ出発できるよう玄関先に車を停め、急ぎ足で室内へ。
身支度を整え、持っていく物を揃えていると…。
「ズドドドドドド」
玄関の方角から凄まじい音と衝撃が伝わってきた。
「ヤバイ」
私はそこで起きた事を瞬時に連想した。
そう、朝から太陽に照らされて緩んだ屋根の上の雪が、その重みに耐え切れず落下したに違いなかった。
そしてその着地点となる場所には…。
私は恐る恐る外を伺った。
まず目に飛び込んできたのは、ボンネットの様子であった。
若干の凹みがある。
これ位であればさして気にならないし、修理したとしても、それなりで済むであろう。
一息ついた私を、妙な違和感が襲った。
何かが変だ。
私の目がそれまで視野の片隅で捉えていたものに焦点を合わせ始めた。
なんと、先程までは無かったはずの雪が、あり得ない位に車の屋根へと積もっていたのだ。
「落ち着け」
自らにそう言い聞かせ、取り敢えず私はこのデンジャラスゾーンから車を退避させる事にした。
ロックを解いて、シートに滑り込む。
すると、頭が何かにつっかえている。
「座高が伸びたのかな~」
現実逃避しながら運転し、駐車場へ入れ、雪を払い落とした我が車の屋根は変わり果てた姿となっていた。
折から降り始めたみぞれが「そこ」に溜まっていく様は、まるで噴火の後にできる火口湖を思わせる静寂をたたえていた。
高額の見積書に泣く泣くサインをし、私は愛車の帰還を待った。
これ位で厄落としになるなら安いものだと自分を慰めながら…。
しかし、これは更なる悲劇のホンの序章にすぎなかったことを私は後から知ることになるのだが、スペースの都合上、今回はここまで。
結論だけ言えば、奇跡的に私は怪我もなく、こうしてエッセイを書けている。
何があったか興味のある方は、後ほど直接尋ねて頂きたい。
そして私は、度重なるトラブルに落ち込む事無く、どこかで「おいしい」と思える自分を発見する度に、粘り強い雪国人の排し難いDNAを自身の血流に感じるのであった。
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