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非日常をボ~っと過ごす/連載エッセイ vol.129

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「姿勢ッコくらぶ通信 vol.131(2022年・第4号)」掲載(原文ママ)。

気分転換には、「非日常」を経験することが有効……このストレスに溢れる現代社会を生き抜くコツとして、以前からよく言われていることである。

心身に疲労を感じると、人はついつい引き籠りがちになるところ。
しかしそこで敢えて外へ出て、「日常」とは違う環境に身を置くことで、ある意味「攻めの姿勢」で半強制的にリフレッシュを図る……という考え方だ。

しかしながら今は、遠出自体がなかなか難しいご時世。
だからといって非日常体験をあきらめなければならないのかと言えば然に非ず。

近年注目される概念として、「ステイケーション(staycation)」というものがある。

これは、滞在を意味する「ステイ(stay)」と、休暇を意味する「バケーション(vacation)」を組み合わせた造語で、休暇を旅行に行って過ごすのではなく、近場で過ごすという意味。

イギリスでは、EUを離脱したことで自国通貨の価値が下がり、遠出のハードルが上がったところに、このコロナ禍の状況が重なったことで、改めて脚光を浴びているとのこと。

つまり、気分転換のための非日常に大切なのは、「距離」という物理的なものだけではなく、「初体験」という心理的なものも等しく……いやそれ以上に重要なことのようだ。

そんな訳で、本来は出不精な私自身、このコロナ禍以降は特に、時間が作れそうなときは敢えて、行ったことのない場所や食事処を選んで出向くようにしている。
初体験による半強制的な気分転換を求めて……。

さて先日、2カ月振りに休息日を1日だけ設けることができた。

ここのところ、いつもの店舗での活動や、セミナー講師としての業務に加えて、公的な某所に提出する、まとまった解説文書を作成するという、少々大きな案件を抱えていたのであるが、それもひと段落。

その週末には、本通信表面にある大規模講演会が迫っていたので、物理的に身体を休ませようかと思いはしたが、やはりこういう時こそ講義構成の閃きを求めていこうと車のハンドルを握った。

盛岡から雫石に抜け、西和賀を縦断する。
いわゆる「主要地方道」と呼ばれる「県道1号」で、繰り返しになるが出不精なワタクシ、恥ずかしながら初めて通るルートであった。

途中、思いのほか道の駅やコンビニが見当たらず、迫りくる尿意との緊迫した攻防もありながら、沢内エリアで恐らく冬場の除雪作業員の方が使えるように設置されたであろう公衆トイレで安堵に包まれつつ、目指したのは錦秋湖を一望できるテラスがあるカフェであった。

車載ナビによる「目的地周辺です」というザックリな案内を経て、目を凝らしつつ辿り着いた目的地は、営業開始時間から少し経過していたので、人気のテラス席が既に埋まっているのではないかと危惧したが、その日は生憎の霧雨だったため、幸いにも特等席をゲット。

屋根はついているので、時折強い風に煽られた細かな水滴を身体に浴びつつ、南部小麦を使用した生パスタやベーグルをモグモグ食みつつ、初めて眺める湖の大パノラマを前に、私は全力で……ぼ~っとしていた。

実はワタクシ、日常でもぼ~っとしてることが多い。

仕事でしか接点のない方には信じてもらえないことが多いが、普段は基本、無口である。

一説によると、このぼ~っとした状態は、脳内の「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)=スタンバイ状態」が活発に稼働しているらしく、この状態において、脳はこれからの自分の身に起こりうることをシミュレーションしたり、自分の過去の経験や記憶を整理・統合したりしているのだとか。

そんな訳で、1時間ほどぼ~っとした後、私は高速道路で帰路に就いた。

講演会前夜、午後8時。

運営責任者から今回のテーマを「健康長寿」にしてほしいとのリクエストが入った。
私が講師を務める講演会に参加したことのある方ならお分かりになるかと思うが、基本私の講演は、前半が「姿勢科学/姿勢調整の基礎知識」で、休憩後の後半は、その時に参加されている方の状況に合わせてテーマを設定する。

働き世代を対象にしたものであったり、子どもの発育に関するものであったり、スポーツパフォーマンスと障害予防についてであったり……。

もちろんその分、あらかじめ準備した決まりきった内容を話すわけではないので、講演する側として労力も大きくなるが、聞いている方の心を動かすためには、まずは話す側も(準備で焦りまくるという意味で)心が動いていることが大切。
「しゃべりは毎回全力投球」がモットーのワタクシ@講師なのである。

閑話休題。

さてそこから、講演に使えそうな手元の資料を集めたり探したりしつつ、長考に入る。
どのような構成にしたら、聞いている方にテーマが伝わるのだろうか……どうすれば、「いい勉強になりました」ではなく「今から行動を起こします」という気持ちになってもらえるか……他人事ではなく自分事として考えてもらうには……。

健康寿命……平均寿命との差をなくすのが理想よね……岩手の健康寿命は全国的にも最下位クラス……田舎だからと言って諦めたくないなぁ……田舎だからこそ、最下位クラスだからこそ、それをバネに意識を変えてコトを起こしたいなぁ……。

と、ここまで考えて私の脳裏に閃いたのは、先日のドライブで通った風景。

岩手にはあるじゃないか!!
……最も子どもが亡くなる寒村を返上して「全国初の乳児死亡率ゼロ」を達成した旧沢内村という実例が!!

そこから講演内容を作り込み、完成したのが講演会当日、午前5時。

その8時間後に始まった講演会の反応は……とっても上々!! 
多くの方が、更に学んでみたいとのことで、今度は丸1日を使った講習会へお申し込みをいただいた。
田舎だからこそ「姿勢科学の先進地域」を目指すと標榜している身として、本当嬉しい限りである。

そして今週末、その1日講習会がある、講師はもちろんワタクシ。

幸い今日は、半日ほど自由な時間が作れそうだ。
どこへ出かけよう。
どこで食べよう。
どこでぼ~っとしよう。


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