図書館、はじめました。/連載エッセイ vol.118
※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「姿勢ッコくらぶ通信 vol.120(2020年・第5号)」掲載(原文ママ)。
2ヵ月ほど前のことになるが、岩手が舞台の芥川賞受賞小説を原作とする映画のブルーレイを購入した。
地元を題材とした映像作品は(講演活動のネタにもなる意味から)一通り押さえるようにしているためで、特にその作品の熱烈なファン……という訳ではない。
むしろ、劇場で鑑賞した際、原作では「匂わせる」程度だったある要素が、割と全編にわたって打ち出されていたので、少々面喰ったりもした。
つまり、繰り返しになるが……その購入理由は「地元を舞台にした作品」という、それ以上でもそれ以下でもないものだったのである。
そんな訳で、あまり期待もせず、再度原作を読み直したうえで、仕事上がりの真夜中の自室にて上映開始。
やはり、初見同様、原作との差異や上記の演出が気になってしまう。
気になってしまう……気になってしまう……が、2時間を超える作品のエンドロールが終了した直後、私の指は、再度リモコンの「再生ボタン」を押していた。
そしてそのまた2時間後、夜明け近くの自室で私は思った。
「割と……いや、かなり好きかも。」
そもそも、この作品を演出する地元出身の監督は、評価の高いメジャー作品を数多く手掛けており、中でも興行収入的な代表作として挙げられる人気漫画原作のシリーズでは、そのアクションシーンに斬新な映画的表現を盛り込み、とかく批判の多い漫画実写化映画の中では、「ある意味、原作を超えた」という出色の評価を受けている方である。
今回の映画も、元々、「小編」ともいえる原作小説を、ただストーリーを追いかけただけでは、劇場公開作品になりえない。
その為、当然ながらそこに監督の「換骨奪胎」な表現は発生するし、その1つが上記の演出アプローチだったのであろう。
それが万人に許容される表現であったかどうかは別として、私はあくまで個人的に腑に落ちる思いであった。
ただ同時に、この作品の魅力は、もっと他の所にあるような気もしていた。
淡々とした日常描写。
それでいて全編に漂う不穏な空気。
そして投げっ放しにされたかのような結末と、継続していく生活……。
なんだろう、このクセになる感じ……。
それからほぼ毎晩の上映会を経て、ある夜、私ははたと気づいた。
この「読後感」……アニメーション映画の金字塔、「銀河鉄道の夜」にそっくりだ!!
(あくまでも個人の感想です。)
郷土が生んだ偉大な表現者である宮沢賢治の紡ぐ作品群は……不思議だらけである。
幼少時に、なんとなく手を伸ばしてみて……さっぱり意味がわからない。
大人になって、恐る恐る手を伸ばしてみて……やっぱり意味が分からない。
こんな感じで、私と同じような印象を持たれている方は多いのではないだろうか?
それでも「みちのく郷土を姿勢医学の先進地域へ」を標榜するワタクシ……地元にこだわる人間として諦める訳にはいかない。
何度もノックアウトされながら、関連書籍を読むうちに、ある研究者の言葉に思わず膝を打った。
「賢治さんの作品は、よくわからないという状況自体を楽しむのもまた魅力の1つである。」
そんな訳で……この映画の魅力の源泉を自分なりに解釈できたことに自己満足しつつ、今度は「銀河鉄道の夜」のDVDをデッキにセットする……う~ん……何度観ても、やっぱりよくわからん!!
でも、それがイイ!!
さて、ここまで書き連ねてきたところで、徐にインターネットを検索してみる。
この映画と名作アニメの類似性を指摘する記述は……どうやら見当たらない。
まぁ、とんだお門違いな解釈と言ってしまえば、その通りなのであろうが、少なくとも私個人は、なんだか得した気分でニヤニヤしている。
この心境を下支えしているものは何かというと……やはり「郷土」というキーワードなのであろう。
先人達のような偉大なものは残せないかもしれないが、姿勢医学を地元に浸透させる過程で、何かを郷土に残していきたい。
そのために、とりあえず郷土作品を漁った結果、たまたま今回の解釈に至ったのだと思う。
まさに偶然の至福感。
しかし考えてみれば、この岩手という地域は「田舎」という意味で「キャラ立ち」しているせいか、小説文学の分野はもちろん、サブカルチャー(大衆文化)の分野でも、なかなかな作品が粒揃っている。
映像作品で言えば、日本中数多ある「ローカルヒーロー」の中でも、10年に渡って新作を製作し続けているTVシリーズを、私は他に知らない(もちろん、DVD全巻所有!!)。
漫画作品でいえば、「北東北のM市ベッドタウン」に住む野鳥好きな作者によるエッセイ漫画のメジャー誌での連載は、既に15年を超えた(もちろん、コミック全巻所有!!)。
この他にも、まさに挙げればキリがないほど、岩手でのサブカル分野における郷土作品群は非常に熱いのである。
(ちなみに「知事監修」の地域振興漫画プロジェクトも10年継続……もちろんコチラも全巻所有!!)
ただ惜しむらくは……この事実を、一般県民はもちろん、なにより子ども達が理解できていないこと。
この「おいしい状況」が浸透すれば、もっと郷土に誇りを持てるだろうし、結果、そこで生まれ育つことの自己肯定感も増して、未来は明るくなるであろうに……。
そんな訳でワタクシ、「図書館」始めます。
場所は盛岡の店舗。
まずは商品棚の隣のスペースの目立つ中段に、「郷土ゆかりの漫画作品」。
手を伸ばしやすい「入門編」としては最適。
その上段には、「郷土ゆかりの文学作品」。
スタンダードよりも、できるだけ新しい作品を中心に。
棚の天板には、ミニイーゼルを立てて「院長のオススメ」。
自分もちゃんと読んでいることを何気にアピール。
そして待合の長椅子の下スペースには「郷土関連の出版物」。
こだわりの定期刊行タウン誌やお客様が執筆した書籍など。
名前は「岩手おあしも図書館」。
あしもと(足元=地元)を見直すことと、椅子下スペースを活用していることのダブルミーニング。
自分も駄洒落好きな年齢に差し掛かってきたのであろうか……まぁ、ご容赦いただきたい。
今日も来店した中学生が、「図書館」の漫画を手に取った。
そこからでいい。まずは郷土に興味を持ってくれれば。
そして少年少女よ……地元文化は案外、奥深いんだぜぇ!!
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