ネオンと蒼天のいない冬/連載エッセイ vol.121
※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「姿勢ッコくらぶ通信 vol.123(2021年・第2号)」掲載(原文ママ)。
「平常運転」な「いつも通り」に、提出締切をとうに過ぎながら、この原稿執筆に向かっている現在の日付は、既に3月下旬。
メディアでは、「史上最速」とも言われる桜前線の北上の模様が伝えられ、その「進軍」は、もはや白河の関を越えているのだとか。
もはや身も心も、到来する春を受け止める気マンマン状態ではある。
しかし、思い出してみるに、後半その厳しさが若干緩んだので、喉元過ぎればなんとやら的に印象が薄れかけてはいるが……今年の冬は……まさに「冬」だった。
県央の盛岡にて生まれ育ち、大学まで過ごした私は、教員採用に伴い、県南の花巻に居を移した。
その後、今の仕事をするようになってからも10年以上、彼の地に住み続けることとなったのだが、居住地を変えたことによって芽生えた心象は、『常に岩手山が見えていない日常というのは……なんだか落ち着かないなぁ』という啄木チックな想いと、『コッチはやっぱり雪が多いなぁ……でも気温はそこまででもないから、冬ニモマケズ』という賢治チックな思いであった。
そして故郷に帰還して丸5年となる今季は……寒くて雪深い、まさに往年の「ストロングスタイル」な冬が到来したのは、皆様もご存じの通りである。
そんな厳しい気候は、様々なアクシデントをもたらす……。
年が明けて、久々に出向いた盛岡の店舗では、前回退出時に元栓をしっかり占めていたにもかかわらず、若干の水道管凍結が認められ、水が出たら出たで、その水がシンクから溢れ出しそうになってから、はじめて排水溝まで凍っていることに気づき、大慌てで対応する私の背後にあるウォーターサーバーのボトルの水もまた、岩洞湖並みに氷結していた……。
大雪の日、仕事を終えて夜遅くに帰宅すると、駐車場は数十cmの積雪のため「進入不可」。
とりあえずの場所に車を退避させ、現在進行形で襲い掛かる冬の結晶を漕いで玄関からスノープッシャーを取り寄せ、一心不乱に雪を寄せていくが、今季の酷使に耐えかねたのであろう、積み上げようと先を持ち上げたその刹那、音もなくその柄が折れ曲がり、再起不能に。
このままでは翌日の出勤が叶わないと、再び車を走らせ、24時間営業のホームセンターへ駆け込むも、除雪用具は既に完売……。
仕方がないので、仕事場まで戻ってスコップを持ち、その日2度目の帰宅時に眼前へ広がった光景は、先程と寸分たがわぬ、積雪による進入不可の駐車場の姿であった……デジャヴ!?
スタッフが出入りする裏口側へ積もり重なった雪が全て落ちるような屋根構造になっている紫波の店舗では、その落雪のタイミング次第で、建物に入れなくなったり、逆に出られなくなったりするため、定期的に軒先の雪下ろしするのが必須。
その日も、軒下に立ち、プッシャーを頭上に掲げ、屋根からはみ出した積雪を突っつきながら、プチ雪下ろしを敢行するも、今季はその気温の低さから低層が完全に「氷化」しており、かなり強く押し上げても、地上に落ちてくる気配は皆無。
そこで私自身が膝を屈めてジャンプして、その勢いでプッシャーの先を「氷壁」へ押し付けると……僅かながらもひび割れが。
『勝機アリ』、私は柳下の蛙の如く、何度もジャンピングアタックを敢行するも、必死になるあまり忘れていたのである……足元の地面もまた、度重なる積雪圧雪の末、スケートリンク状になっていることを……。
ビョ~ン、ビョ~ン、ビョ~ォ~ン!!……ツルッ!!……ツルツルツル!!……ツルンッ!!……あ゛あ゛ぁぁ~~!!……ドデシィィィ~ン!!……。
店内にいたスタッフが、後日語るに、『屋根の積雪が一瞬にしてすべて落ちて地面を叩いたかのような重低音が響き渡った』とのこと。
アラフィフの本気の尻モチは……心と体に……痛かった。
こんな塩梅で、今冬起きたアクシデントを語れば、本当にキリがない。
渦中、常に頭に浮かんでいたのは『春よ来い……春よ来い……』という念仏のようなキーワード。
そして例年以上に厳しい冬を過ごす中で、例年以上に春が待ち遠しかった理由がもう1つ……。
それは今年、16年間続けていた、ラスベガス&ロサンゼルスへの研修ツアーが中止となってしまったこと。
いつもであれば……『今朝は寒いなぁ……でも、あと○○日でアメリカだから……眩くネオンと突き抜ける蒼天が待っているから……よし、今日も頑張ろう!!』だとか、『アメリカから戻って、もう○○日かぁ……向こうでやろうと心に決めたこと、どのくらいできているかなぁ……よし、今日も頑張ろう!!』という感じで、アメリカ研修を基準に、年間の目標を見定め、来たるべき北国の春を「迎撃」すべく、冬を乗り越えるのが、私にとって当たり前の「年中行事」であった。
しかし今年はソレがない。
正直、自分でもそんな心境になるのか予想もできず、モチベーション維持の面で、実はかなり心配もしていた。
確かに、本来であれば出発しているであろう日程の数週間前から、『今年はアメリカがないから……テンションが上がらないなぁ……』という日々が続いた。本来であれば滞在しているであろう日には、『よりによって、こんな日に吹雪かよ……』とめげてしまいそうにもなった。このまま自分の心は、春の陽気に自然解凍されるまで、シンシンと深く潜っていってしまうのだろうか……。
ところが……である。
本来であれば帰国しているであろう日程を迎えると……不思議なことに、気分が明らかに晴れやかとなっていくのを実感した!!
我ながら単純なものである。
恐らく、長らくこの時節に「外の風」を浴びて気分を一新するクセが、「バイオリズム」として、心と体に刻み付けられているのであろう。
勝手に「自家発電」して元気になってしまうのだから、「習慣」とは面白いものだ。
そこでこの現象を私は「アメリカ心身貯金」と名付けることにした。
この「予期していなかった貯金」がある限り、しばらくはテンション高く食いつないで行けそうである。
そしていつの日か、ネオンと蒼天の元、また大手を振って彼の地を闊歩するために……「アメリカ現金貯金」も今からしていかなければと心に誓うのであった。
YES!! WE CAN!!(←何代前のプレジデントだよっ!!笑)
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