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ひぁうぃごぅ~赤い追憶/連載エッセイ vol.115

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「姿勢ッコくらぶ通信 vol.117(2020年・第2号)」掲載(原文ママ)。

この原稿を書いているのは3月下旬。提出締切はとうに過ぎている。
今回ばかりは、なかなか書き始められなかった。

長年の読者の方であれば、春先は、恒例の「アメリカ研修ネタ」である事をご存じであろう。
今から約1ヵ月前、仲間達と笑顔で闊歩した、ラスベガスのネオンに照らされた大通りや、ロサンゼルスの海沿いの歩行者天国が、こんな事態になるとは、夢にも思わなかった。

「毎年同じ場所に行って、飽きない?」と、お客様からもよく質問される。

我々のような職種の人間にとって、「会計」という意味での「年度」は存在するが、「1年の区切り」という意味でのソレは、あまり意識しないように思う。
そんな継ぎ目のない日常の中、定期的に訪れる彼の地での日々が、私にとっての「非日常」であり「区切り」。
自分自身の「定点観測」の意味合いで、欠かせないのが「アメリカ研修」なのである。

この仕事を始めて20余年、初めて「県外出張のない月間」を過ごしているこの日々を、いつか「あんな事もあった」と振り返られる未来が訪れる事を信じて、筆を進めよう。

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「降雪」という前代未聞の異常気象に祟られた昨年とは打って変わって、好天に恵まれた今回のアメリカ研修。

現地到着日の全体ディナー後、セミナー関係者との打ち合わせを、今年は私が担当する事になったのだが、結果的に「セミナー前夜」の緊張感溢れる会場の雰囲気を体感できた事で、また違った目線を持てて新鮮であった。
そしてセミナー自体の様子は……通信表面をご確認いただきたい。

さて……ラスベガスは、カジノやショー、ショッピングといった「都市型観光」の側面が周知されがちであるが、一方、「砂漠のど真ん中に突如現れる街」としての面目躍如たる「大自然ツアー」も多数存在している。

しかも、それらの中には、早朝に出発して、昼頃には戻ってこられる「半日ツアー」というのも多数用意されており、我々のように仕事で彼の地へ滞在している人間にとっても、非常にありがたく魅力的な街でもあるのだ。

そして今回、出発前にPC画面とにらめっこをしながら選んだのが、「レッドロックキャニオン乗馬トレッキング」。

なんでも「ラスベガス中心部から30分程度で行ける『最も手軽な大自然スポット』であるレッドロックキャニオンを、可愛らしい馬に跨って行く、約2時間のトレッキング」だという。

ただ……唯一の不安といえば、そのツアーを企画しているのが、現地の旅行会社であるという事。
つまり、参加当日は、添乗員とやり取りする程度の軽い英語力が必要らしい。

サイトの口コミでは「難しい英語ではないので心配無用」と書き込まれてあったので、あまり深く考えず仲間達の分と合わせて申し込んだのだが……これが後程、幾度かの「赤い緊張」を生む事となる……。

当日早朝。

まずは……迎えの車が来ない。
前日、確認の電話をしたにも関わらず、予定時間を過ぎても現れない。

事前の案内には、「5分遅れたら事務所に連絡を」と書いてあるも、早朝である為、事務所はまだ開いていない。
意味がない。

待つ事、十数分。
やっと登場。
「ごめんごめん」と軽いノリ。
オ~ゥ……アメリカァ~ン!!

乗車し着席するなり、早口で捲くし立てられ、渡されたバインダーには大量のチェック項目。

つまり、大自然ツアーは多少の危険を伴うので、怪我をしても自己責任で訴えません……という事が、ありとあらゆる角度から項目として羅列され、詳細内容も理解できないまま、それらにイニシャル入りのチェックをひたすら入れさせられる東洋人の集団……オォ~ゥ……アメリカァァ~ン!!!!

そんな書類に翻弄されつつ、あっという間に馬たちが係留されている現地施設へ到着。

あっち行って荷物を置け、そっち行って待機しろ……予想以上に早口な英語に右往左往させられながら、「口コミの印象とは違うなぁ……」などと考えていた私の脳裏に1つの可能性が灯る……「オレ……ネイティブ並みに英語喋れるって勘違いされてねぇ?!」。

実は……前日に電話で参加確認する際、たまたま研修自体をサポートしてくれている日系旅行会社の方と一緒にいた為、厚意に甘えて、代理で電話して貰っていたのである……流暢な英語で……!! 

つまり私は、現地アメリカの旅行会社には「日本人だけど英語は普通にしゃべれる輩」とインプットされている可能性が高い訳で、それならば先程までの不親切にも感じられた対応も理解できる訳で……これは責任重大である!!

燃え尽きた焚火跡を囲んで、いよいよ乗馬の説明開始。

淀みのないクリアな英語で一通り話し終わると、「ハイ、通訳!!」とばかりにコチラを見てほほ笑む、カウボーイ&カウガールルックな添乗員。

いや……一文一文が長ぇよ、アンちゃんネエちゃん……。

しかしここで弱音を吐くわけにはいかない。なにせ2時間弱の長丁場。
途中、崖の脇をすり抜ける場所も多数あるという。

私の「オモシロ嗅覚」を信じて、一緒に申し込んだ仲間達の身に危険が生じてはいけない。
馬の操り方や危険への対処方法など、「馬に乗る上での注意点」を重点的に、そこだけは聞き逃すまいと、私は必死に耳を傾け、仲間達に説明した。

そう、馬に乗ってからの注意点「だけ」を何とか聞き取って……。

その後、いよいよ馬の選別。
参加者の身長と(憶測による)相性を考慮して、一人に一頭ずつあてがわれる。

私の相棒の名は「レッド」。
乗ってすぐは、いきなり水場に直行し動かなくなるなど、若干の不安を感じさせたが、以前ものの本で、「馬に乗るには信頼関係が重要」と読んだ事を思い出し、集合場所にそっぽ向くレッドの鬣をゆっくりと撫でながら話しかける。

「OK、レッド……いいコだね……そろそろ行くよ……
 HEY!! RED!! HERE WE GO!!」

そして彼のお腹を両踵でポンッと叩き、手綱を引くと、あら不思議、集合場所へと素直に歩き出した。
そして意外にも我々の相性は良かったらしく、未だ四苦八苦する他のチームを横目に、早くも「片手乗馬」を難なくこなし、悪戦苦闘する仲間達の姿を悠々とカメラに収めたりもできた。
これでもう少し練習すれば、快適な乗馬ライフ、決定だな!!

しかし、そんなドタバタな東洋人集団を率いるカウガールな添乗員は、自らも馬に跨り、徐にトレッキングコースへと進みだす。

戸惑う私は、最後尾にいるカウボーイな添乗員へと視線を走らせる。
すると彼は軽く頷いてこう言った……「HERE WE GO!!」 
エェ~!! 
事前練習……っちゅうか、トイレタイムもないのぉぉ~????

2時間後。雄大な景色を行く壮大なトレッキングを終え、相棒が水場に行くのより早く、赤信号な私が真っ先にトイレへ「HERE WE GO」したのは……内緒である。


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