コロッケナリ/連載エッセイ vol.15
※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「ほねっこくらぶ通信 vol.17(2003年6月)」掲載(原文ママ)。
何を隠そう、私は所謂「生粋のシティボーイ」である。
(うわ~死語だぁ~)
この場合の「シティ」とは、決して「町」という意味ではない。
あくまでも「街」という意味である。
つまり私はこれまで、「市」以外に生活及び活動の拠点を置いた事がないのである。
大学時代まで、私は実家のあるM市で暮らした。
将来は岩手の教員になるつもりであったから、郷里を出る気など更々無かったのである。
そして教員時代、私は配属されたH市に移り住んだ。
転校に憧れ続けた私にとって、初めての引越しであったが、元来出不精の為、教員を辞めた今となっても住まいは変わっていない。
そんな私がついに「郡」というものに拠点を置くことになりそうだ。
かねてからの懸案だった、新しく院を開く予定地が「S町」に決まったからである。
どのような経緯でS町に決まったかは、ここでは割愛させて頂く。
様々な縁あっての事だったが、予定地が決まって安心した反面、私は正直「郡」という響きに居心地の悪さを感じていたのも確かであった。
何しろ私は生粋のシティボーイである(なんか書けば書く程「俺は田舎のプレスリー」のフレーズが何処からか…)。
「素敵な郡ライフ」というものがなかなか思い描けなかったのである。
誤解を恐れずに言えば、正直「郡」を侮っていたのだ。
しかし、ふとした仕草一つで人は恋に落ちるように、そのような認識もまた何気ない一瞬に塗り替えられる。
予定地は旧国道沿いの少々うらびれた商店街の中にあった。
幸い銀行の支店は集中している為、その日も事務仕事を済ませ戻る途中、不意に視界に飛び込んできたのは、今では珍しくなってしまった量り売りの精肉店だった。
見れば手作りの惣菜もショーケースに並んでいる。
大型スーパーで育ってきた私にとって、それはひどく新鮮に映った。
誘われるように店内に入り、そして今時冷凍食品のラベルでしか拝めない正真正銘の「お肉屋さんのコロッケ」を数種類購入。
何かに急かされるように頬張った。
「カリッ」「モチモチ」「ムシャムシャ」「バクバクバク…」
コロッケ一つにドラマを体験したのは生まれて初めてのことだった。
コロッケを通して、この町に住む作り手や買い手の「人生」に触れた気がしたといったら大袈裟であろうか。
とにかく私はコロッケの味に、それを育む町の底力を感じ取ってしまったのだ。
恐るべし「町」…。
決して侮れぬ…。
こうして私の輝ける「素敵な郡ライフ」は始まりを告げたのだった。
まいう~。
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