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『魅惑の源氏物語』が、現代のオタクに刺さる【読書記録】

本書は、名古屋にある徳川美術館で2024年9月から11月にかけて開かれた秋季特別展「みやびの世界 魅惑の源氏物語」の図録である。私も実際にこの展示に足を運んだ。とてもよかった。
時間はかかったがようやく図録を読み終わったため、記録を残しておく。展示も良かったけど、図録もめっちゃ面白かった。

全体の印象としては、染み入るような面白さだ。面白いと言うより、興味深いかもしれない。知らない世界を知る喜びを感じることができた。源氏物語とその派生、それから作者である紫式部とその周辺人物にまつわる資料の説明が主な内容になる。
中でも読んでいて楽しかったところ、魅力的だったところを紹介する。



1 百人一首の解説があって面白い

平安時代のかな文字、筆でサラサラっと書いてあってかっこいい。けれど、達筆すぎて基本的には読めないものになっている。

だが、本書には、後ろの方に作品解説が載っている。これと照らし合わせながら読むことで、ムスカ大佐のように、「読める、読めるぞ……!」の状態になることができた。これが楽しかった。

しかも載っている題材が「百人一首」なので、義務教育で習う馴染み深い題材で、ますます楽しかった。学校では和歌の丸暗記で終わっていたものが、読んだ人物の説明もあり、理解が深まった。ちなみに、百人一首に掲載されている、紫式部が詠んだ和歌はこれ。

めくりあひて見しやそれともわかぬまに
雲かくれにし夜半の月かな

百人一首かるた

和歌には恋の詩が多いからこれも男女のエモい話だと先入観を持っていたのだが、普通に紫式部の女友達の話らしい。相手が忙しくてろくに話せず立ち去られた後の気持ちだそうだ。親近感が湧いた。

2 注釈書『湖月抄』を読みたくなった

源氏物語はざっくり1000年前に書かれており、もちろん現代人にとって大昔の話なのだが、昔の人にとっても昔の話だからそのまま読むのは難しいらしい。

例えば、平安時代のあと鎌倉時代、室町時代、安土桃山時代、江戸時代と続いていくが、これらの時代の人たちにとっても平安時代は数百年前で言葉が全く違う。
後年の人たちは注釈書というもので、源氏物語を読んだらしい。源氏物語の本文に注釈加え、読みやすくしたものだそうだ。

中でも江戸時代に発行された『湖月抄』という注釈書が有名で、説明のわかりやすさや読みやすい編集などで工夫をしており、令和の現代に発売されている源氏物語の基礎にもなっているそうだ。源氏物語は漫画で読んだ程度なので、ぜひ注釈書で全編通して読んでみたいと思った。

3 「源氏絵」というジャンルの存在

源氏物語の原本は紫式部が書いた文章なのだけど、挿絵がついたり能になったりと、いろいろな方面に派生していったそうだ。

なかでも、大勢の絵師が源氏物語のワンシーンを切り取って絵にしたことで「源氏絵」というジャンルができた。すごすぎる。

現代でも、人気の漫画やアニメにはファンが自主的に描いた二次創作イラストなどが存在するが、規模が違う。金ピカに塗られ、権力者に贈られ、挙げ句の果てには国宝に指定されているのだ。こういう、人間の情熱で生み出されたものって面白くて好きだ。

4 婉曲表現で特定の人物、場面を連想できる面白み

源氏物語の派生作品では、「扇に夕顔」のように直接的でない表現で特定の人物、場面を連想させることがある。これが面白い。

源氏物語の作中に、「夕顔」という女性が出てくる。健気で可愛くて、最後は可哀想な死に方をする人気ヒロインのような人物だ。彼女は初登場シーンで扇の上に夕顔の花を乗せた状態で現れる。

そのため、「扇」+「夕顔の花」だけで夕顔というキャラクターを表すモチーフになる。たとえ本人の名前や顔を出さずとも、これだけで伝わるのである。実際、三所物(刀剣に関連する部品)や、着物の柄で「扇」+「夕顔の花」の組み合わせがあるらしい。

現代のオタクにとっての「概念コーデ」に近いものを感じる。推しの色をインナーカラーに入れたり、つい推し概念っぽいシールを買ってしまったりするだろう。猫がモチーフのキャラを推す人が、猫グッズで身の回りを固めたりするだろう。
こういったオタクの奥ゆかしさはおそらくDNAに刻まれているのではないかと思う。

あと、源氏物語にまつわる概念で一番面白いのが源氏香だ。ともすればQRコードみたいな図形が源氏物語の各話に対応しているのだ。
興味があれば調べてみてほしい。

5 能や浮世絵など、たくさんの翻案と派生

源氏絵のところでも少し触れたが、源氏物語には数多くの派生作品がある。能や浮世絵など、格式張ったものから大衆向けまで、ありとあらゆる場に広がっている。中にはパロディ作品もあるという。面白そう。

ちなみに、『絶対可憐チルドレン』という漫画およびアニメをご存知だろうか。実は、キャラクターたちが源氏物語の登場人物をなぞったネーミングをしている。こういうのに気づけると、教養があるのって楽しいなと思える。教養はつまるところ、高尚な内輪ネタのことなので。

源氏物語に話を戻そう。多種多様なヒロインが出てくる恋愛ものと考えれば、たしかにいつの時代にもウケるような気がする。時代が時代なら、源氏物語ヒロインの人気投票とかあったかもしれない。歳上、歳下、ツンデレ、健気と、いろいろな属性が揃っている。

ちなみに私の推しヒロインは六条御息所です。
みなさんの推しヒロインも教えてね。

おわり

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