①ディーノ・ブッツァーティ『動物奇譚集』を読んで
初めてnote書きます。岡本です。
2024年現在大学の学部生でイタリア文学を専攻しています。
レポートや論文のような硬い表現も都度の脚注もなしに自由に読書感想文を書きたかったのでここに残していきます。
一読した感想:星新一かな?
『動物奇譚集』はブッツァーティが新聞に掲載した短編から動物が登場するものを集めたもので、一つ一つは3~5ページほどの短さでした。
作風としては星新一のショートショートにおける機会や宇宙人が動物に置き換わったような感じ。しゃべったり考えたりする動物が主人公もしくはキーパーソン(アニマル?)となって何か一事件起こるという構成のお話が多かったです。
大学教授ってすげえわ
私はこいつをとあるイメージ論の授業での発表に使いました。
テーマはズバリ「動物と怪物」。
『動物奇譚集』に犬猫のような実在する動物の話と恐竜や得体の知れない生物のような怪物の話があるのに注目して、それぞれどういう存在として描かれているのか考えました。
〜発表当日〜
僕「…古来より怪物は〜〜という目的で描かれており…、近代化に伴って…。そして『奇譚集』のテクストを見ると…。」
先生「文化的な源流を遡るのも良い方法だけど、例えばこの『ティラノサウルス・レックス』とかは1950年発表ってのもあって明らかに核兵器の寓意だよね。そういう同時代の背景も見たらいいんじゃない?」
僕「!!(たしかに!)」
先生「あとこの『ひとりぼっちの海蛇』とかは見るからにカフカ的だよね」
僕「??(カフカ読んだことない…)」
先生「興味深い作品の紹介だったと思います。発表ありがとうございました。」
僕「あ、ありがとうございました…。」
カフカは後日読んでみるとして、書かれた年と時代背景について注目するとたくさん発見がありました。やっぱ教授ってすげえわ。
社会情勢のアレゴリー
ブッツァーティの生きた時代の社会情勢を知るためのバイブルとしたのが伊藤武『イタリア現代史』。ここまで網羅的かつお手頃にイタリア現代史を学べるのは日本語だとこれくらいしかなさそう。
これで作品の書かれた時代のイタリア社会を見ると…
1950年『蠅』:シチリア島のハエの話。いくら退治しようとしても叶わず、特製の殺虫剤で撲滅したかと思いきや僅かな生き残りから殺虫剤に適応した個体がまた大繁殖してしまう。
↓
南部の厄介者のハエってマフィアのことか!
戦争以降農村地帯にとどまっていたマフィアが1950年の土地改革を契機に再び都市に進出してしまう、と。
こんな感じで色々寓意的な要素が見えてきて面白かったですね〜
最後に:ブッツァーティって何者?
以下にイタリア語版wikipediaのDino Buzzatiのページの冒頭を訳したものを載せます。
…肩書き多すぎませんか?
ジャーナリストであり幻想文学作家であり演出家でありetcのブッツァーティだからこそ、こんな感じで御伽噺のような世界観に不安な現実社会を溶かしこむことができたのだなあと思いました。
短編集なのであらすじとかには言及しませんでしたがとても面白くて手軽に読めるので是非手に取ってみてくださいな。