私が過去に唯一沼った男の話 ep2
私は現実に絶望していた。
何者にもなれない自分に絶望していた。
こなして生きる毎日に退屈だと嘆いていた。
何をしたいのか分からなかった。
hと出会った後も同じような出会いをいろんな男と繰り返していた。
名前も知らない。今思い返しても顔が思い出せない。
そんなどうでもいい夜を数え切れない程過ごした。
ふとスマホに目を向けると新着メッセージが届いている。
”来週空いてないの?ケーキでも食べようよ。”
記憶が薄れてきた頃にhからの誘いが来た。
同じ人と二回目会うことが苦手だった私だが、
なぜか気になって仕方なかった。
hとはそれの繰り返しだった。
会ってはくだらないことを話して
無駄に広いクイーンベットで何回も果てた。
意味もない時間がその時の私にはちょうど良く居心地がよかった。
気づいたらくせになっていた。
hはよく過去のことを聞いてきた。
家族のこと、仕事のこと、恋愛のこと。
私は全ての質問に答えた。
過去の記憶に引っ張られている私を見透かしていたのかもしれない。
親のせいにして踏み出せないこと、変われないこと、そんなような話をした気がする。
いつまでも親のせいにするなよ
頭がフリーズした。
なんなんだこいつ。と思った。
それと同時に、こんな正面から向き合ってくれる人いるんだ。
とも思った。
hはプライド高いくせにいつも悲しい目をしていて、
他人に干渉しない孤独な雰囲気を持った変な男だった。
だからびっくりした。そんなこと言えるんだ。
それから私はhのことをもっと知りたいと思ってしまった。
ここから、hの沼にハマりはじめてたんだと思う。
頻繁に会うようになり、お互いの価値観にたくさん触れた。
お互いの好きを共有して、世界を広げていった。
hはBUMP OF CHIKEN が好きでよくライブ映像を一緒に見た。
その度に藤原さんの愛を語るhを見るのが好きだった。
全く興味のなかったアニメもたくさん見るようになった。
きょんの最初のセリフを全部言えるんだと意気込んでたけど
全然言えてなかった。
気づいた時にはhの 好き が私の 好き にもなっていた。
タイムツリーを共有していつでも会えるようにしていたし
最寄りの定期まで買っていた。
どんどん心を開いてくれている実感が確かにあった。
それでも
付き合っている訳ではない私たちは
次の日のになるとまた違う誰かの愛を求めて彷徨った。
埋まらない穴を必死に埋めようとしていた。
そんな十八歳の秋を私は過ごしていた。
続く。