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「右回り思考」 と 「左回り思考」

はじめに

 みなさんは【周転円】というものを知っていますか。これは『天動説』の中に出てくる概念で、火星などの『逆行運動』を説明するために生み出されました。
 その図は『時計の構造』に酷似しています。時計は文字通り『時を計る』ために開発されたものですが、機械などない昔は『日時計』の影を見て時刻を見ていたのです。

 太陽の光が日時計の中心にある棒にあたり、影を生み出します。その影が太陽の運動に合わせ、ゆっくりと回っていきます。その影の動きが、時計の短針になり、長針や秒針が足されていきました。

 この世界は【回転】しています。地球の自転や、太陽系に属する惑星らの公転、さらには太陽系が属する天の川銀河そのものまで回っています。そして、この回転には『右回り』と『左回り』があります。

 しかし、実はどちらも同じ方向に回転しています。なぜそうなるのでしょうか。それでは、回転の旅に出発しましょう。




1. 真逆の言語

 日本式の会話方法は、欧米ではあまり好かれません。その理由は、

日本『起承転結』・・原因→結果
欧米『結論先行』・・結果→原因

 上記のような会話の形になっているからです。見事に『真逆』ですね。簡単な例として、A地点まで1時間で行けるはずなのに、1時間10分かかった時の、それぞれの話し方を見てみましょう。

日本型..

 [起] A地点まで車で1時間かかる予定でした。
 [承] α通りを通るはずでしたが工事中だったので、
 [転] 迂回してβ通りを通ってきました。
 [結] ですので、1時間10分かかりました。

欧米型..

 [Result] A地点まで車で1時間10分かかりました。
 [How] 迂回してβ通りを通ってきたのですが、
 [Reason] 理由はα通りが工事中だったからです。
 [Improvement] ですので、予定時間を変更しました。

 欧米の会話も日本語で書いていますが、実際の会話はもちろん英語になります。ここで質問ですが、どちらが「言い訳をしているな」と感じますか? 『理由』ではなく『言い訳』です。子供がするやつです。

 日本は『順序立て』て、説明します。始まりから何がどうなっていって結果につながったのかを説明します。しかし、【結論先行】型の欧米から見たら、「回りくどい」と感じるかもしれません。

 つまり、「先に言い訳から始めるな」と思うこともあるでしょう。

 欧米は『結果から逆算して』説明します。結果から時間を遡っていき、始まりをどう変更(改善)したのかを説明します。しかし【起承転結】型の日本から見たら、「ぐだぐだ長い」と感じるかもしれません。

 つまり、「後から言い訳を付け足すな」と思うこともあるでしょう。

 ここで言いたいことは、同じことを言っているはずなのに、話す順番で理由が言い訳に聞こえてしまうということです。
 2つを見比べてみて、どちらを「言い訳してる」と感じてもいいのですが、結局どちらも同じことを言っているのです。

 であるならば、『感じ方』は単に『言語(文化)の違い』でしかないのです。

 日本型だと『非主体的』に聞こえたりします。『自分が変えた』わけではなく、原因があって『変えざるを得なかった』と聞こえますね。受動的と言っても良いかもしれません。

 欧米型だと『主体的』です。原因があり『変えざるを得なかった』のは事実ですが、あくまで『自分が変えた』と認識しています。能動的に捉えている印象になります。

 言語の順番の他にも、非主体的に話す行為自体が原因で、理由が言い訳に聞こえたりします。自分は責任を負っていないかのような印象を与えるのです。
 逆に、主体的に話すことで、言い訳でも理由に聞こえたりします。自分が責任を負っている印象になるからです。


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2. I LOVE YOU  or  I YOU LOVE

 今では小学生どころか、幼稚園児でも分かるような例で恐縮ですが、日本では、

 私は あなたを 愛しています(I YOU LOVE)

と、言うのに対し欧米では、

 I LOVE YOU(私は 愛しています あなたを)

と言います。

 言語の違いが、順行なのか逆行なのか、回りくどいかぐだぐだ長いか、理由なのか言い訳なのかを決めているのです。
 そしてこの言語の違いこそ、【思考の反転】に結びついています。

 思考が反転したものとして、『天文学』を例に出しましょう。

 天文学は元々、『観測結果から理論を導き出す学問』でした。しかし、これが『理論から観測結果を予言する学問』に移り変わった出来事があります。

 それが【ブラックホール】です。

 ブラックホールは200年ほど前から、その存在を示唆する学者はいたのですが、なかなか真剣には考えられていませんでした。当時はまだ『観測結果から理論を導き出す』ことが当然でしたから、理論上(数式上)でその存在が示されていたとしても、実際の観測で見つかっていない以上、認めることは難しかったのだと思います。

 時は流れ、とある理論を使って『ブラックホールが存在する解』を発見したのがドイツの天文学者カール・シュヴァルツシルトです。

 シュバルツシルトが使った理論とは、アインシュタインの相対性理論です。これを使って『ブラックホール解』を出しました。それから「ブラックホールは存在するかしないか」の大論争になるのですが、結果はみなさんも知っての通り、『存在する』方が勝利します。

 しかし、このことにより本来『観測結果から理論を導き出す学問』だったものが、『理論から観測結果を予言する学問』に反転しました。

 ちなみに、アインシュタインは『時空は歪む』『重力波』など、自身の理論から数々の【予言】をしています。そして、尽く当たっています。『世紀の天才』たる所以ですね。

 さて、話を元に戻しますが、『思考』は時に【反転】することがあります。天文学の例をまとめると、

  x.. 観測結果から理論を導き出す → 結果から理論 → 結果から原因
  y.. 理論から観測結果を予言する → 理論から結果 → 原因から結果

 上記のようにまとめられると思います。

 ...おや?....何か『違和感』を覚えるのは私だけでしょうか。何かが【反転】しているように感じませんか..?

 違和感や何が反転しているかは、みなさんの判断に委ねます。

 そういえば、最近公開されたクリストファー・ノーラン監督の『TENET テネット』という映画が、時間の【順行】と【逆行】を扱った作品だそうです。

 過去から未来を予言する、未来から過去を導き出す。

 では、次の話にいきましょう。


http://fnorio.com/0015Classical_Astronomy1/Classical_Astronomy.htm



3. 整理してから話す日本、話しながら整理する欧米

 日本は、直接的な表現は好みません。『間接』的に表現しますので柔らかく、優しい印象になります。女性的と言ってもいいかもしれません。
 反面、何が言いたいのか『はっきりし辛い』ところがあります。ですので、『子供』には分かりにくいと思います。

 欧米は、曖昧な表現は好みません。『直接』的な表現で力強く、自信にあふれた印象になります。こちらは男性的ですね。
 反面、強引に感じられることがあり、他人の意見を無視しているように見えます。ですので、『大人』らしく思えないこともあります。

 日本には古来より、『空気を読む』『行間を読む』『心を読む』などの【見えないものを見る文化】があります。

 20年ほど前、見えないものを見ようとして望遠鏡を覗き込んだミュージシャンがいましたが、いやいや『天体観測』なら欧米も負けてないどころか先駆的です。欧米の文化の中にも【見えないものを見る文化】があるのです。

 日本は1つ1つ『丁寧・順番』に整理してから話します。原因から結果に向かって『厳密』に理解してもらいたいと思っているからです。しかし、真面目で厳密なのは良いことなのですが、どうしても遠回りになってしまいます。細部まで細かく言うので、【要点】が見えづらくなることもあるでしょう。

 欧米は整理は後回しにして、全体像を『大雑把』に捉えます。最終的にはミクロレベルまで細かく理解しますが、とっかかりとして視点を大きく見ます。初期段階では厳密さに欠けていても、要点を捉えてまとめる『要約力』に優れています。形式的な順番よりも、【要(かなめ)】となるものを優先して大事にします。

 日本が【原因から結果】に向かって話すのは、結果は「変えられないもの(修正できないもの)」として捉えているからです。『意志が固い』と言えますが、『頑固』とも言えます。ここは日本の方が男性的ですね。

 欧米が【結果から原因】に遡って話すのは、結果を「変えられるもの(改善できるもの)」として捉えているからです。『柔軟性がある』と言えますが、『優柔不断』とも言えます。女性的です。

 個人的な意見ですが、日本と欧米は『同じことを逆方向からやっている』気がしてなりません。結局、同じなんです。しかし、逆方向からやっているが故に相手を否定したり反発したり、争うこともあるでしょう。

 実際、日本とアメリカはその昔、戦争しています。かつては忌み嫌った相手かもしれませんが、70年以上の時が流れ、今では一番信頼できる国同士にまでなりました。

 国や人がお互いに理解し合うまでには、それなりに時間がかかるのでしょう。


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おわりに

 今回は『日本と欧米』を比べて、【真逆の思考回路】を説明しましたが、他にも

・男性思考と女性思考
・大人の解釈と子供の見方
・理系脳と文系脳

など、『』となるものを変えれば、日本人同士でもアメリカ人同士でも成り立つことはあると思います。

 社会は『多様化』が進んでいます。いろんな意見・考え方・価値観が出てくることは良いのですが、『なんでもあり』でいいというわけではありません。

 そこには一定の倫理観・良識・普遍的価値が必ず存在します。

 しかし、多様化を言い訳にして、そうしたものが失われていっているのかもしれません。目の前の出来事に気をとられ、『大切なもの』を見失わないようにしてください。

 冒頭で『右回り』と『左回り』は同じ方向に回転していると言いましたが、時計の針は右回りに回転しています。その時計を【裏】から見てください。実際には『盤』があるので、針は見えなくなりますが、針の動きを頭の中で再現することは容易いと思います。

 裏から見ると『左回り』になりますね。まるで、時間を逆行しているかのように見えます。

 『裏から見る』とは『逆方向から見る』ことです。

 あなたの周りにも、あなたの視点とは逆の方向から見ている人はいませんか..?


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*参考書籍*
 ・ゼロからわかるブラックホール  大須賀健
 ・巨大ブラックホールの謎  本間希樹
 ・時間とはなんだろう  松浦壮
                (いずれも講談社ブルーバックス新書)

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