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夏の「派手髪」大仕事

ここ数年 夏と言えば…
頭を悩ませる大仕事が一つある。

普段担当するお客様は 
基本的には大人がメインで

加工写真に踊らされたミーハー過ぎる若者とか
その感覚のまま大人やっちゃってる人とか

正直言ってめんどくさいし
やりたくないので笑

色んな手段をばら撒いて
来ないように仕向けてある。

わは(°▽°)

(いやだってプロデュース出来てなんぼでしょ)



基本的には
メンテ、ケア、予防や
心の開放、開拓に重きを置く 

大人が安心して髪を楽しめる
隠れ家的サロンでありたいからだ。


私の夏の大仕事とは

そんなクソ生意気な美容師としてのわがままを
許さないかのような
ハードル高めかつ強烈なものを作るある意味"修行"とも言える

とんでもない派手髪を作ること。


実は先程 
嬉しい報告が届きホッと安堵したことを機に

その大仕事をネタに
たぶんどこにも無いであろう
見たことない髪と
その仕事のほんの一部、数年分を書いていこうと思う。

ご興味あればぜひ。

※特殊な仕事です。
あくまでも普段はお品よく穏やかなデザインを作ります。


私の店の近くに 
大学病院と併設の医学部がある。

数年前のコロナ禍に店を移転オープンした年に

同年 その大学の一年生となった二人の学生が 年イチ大仕事の依頼主だ。

二人はバスケ部に所属で
遠方からこちらに来た為
一人暮らしの大学生だ。

初回からマイペースに話す私とすぐに打ち解け、
付き合いも5年目となる今では
私のことを"第二のお母さん"として扱ってくれる。

流行病の制限の中 
学校にも思うように行けず、
部活動も試合も 
恋も遊びもままならない苦しい胸の内や

医者になることへの希望や不安

それらに対し真面目かつ
ぶっ飛んだアドバイスをする私

ずいぶんと深くまで
普通の大人と話す以上に互いが刺激を受ける 
一生付き合おうと言い合うまでになった
稀な出会いと良い関係だ。

「〇〇さんと話すことが目的で来る」とほぼ毎月カットに来てくれる。


そんな彼らが三年生になった年
流行病の落ち着きと共に
ようやく念願の大きな大会が催されることが決まった。

ご存知の方もいるかも知れないけど
全国の医学部、各部活ごとに
東日本と西日本で分けた大きな大会があるそうだ。

こちら東側なのでその名も
「東医体」とういたい
   と呼ぶのだそう。

ちなみに暗黙のルールとして
普段病院実習がメインとなる学部ゆえその時ばかりは

髪をアホみたいにド派手にして出場する

というのが伝統なのだそう。

何度か担当してきた過去の当事者達からその大会の話は聞いていたし
控えめながらも(経費的にもかかる為)
一見さんを含め 
作った経験はある。


友達や息子と呼べる関係の彼らの
初の大舞台。

塞ぎながらも前向きに楽しみにしていたその大会に出ることを望む彼らのタイムリミットは大会再開年度から卒業までの4回しかなかった。


芋臭かった高校時代を忘れさせた、
髪型から一気に磨き上げた私に
案の定
二人は目をキラキラさせて

「すごい髪で出たい!!」

と言ってきた。


流行病の中 
店を立ち上げた私は
大学に行けなかった彼らの
モヤモヤに深く共感し

なんとか消化させてやろうじゃありませんか!

と気持ちに火がついた。

そこで改めて
その大会出場者をSNSで遡って調べると
奇抜であれど緑や赤青半々などの単色で
面白くもなんとも無い
そしてダサい(ごめんなさい)
ただの派手髪が多かった

そりゃ仕方ない、
中には飛び込みで来る一見さんもいるだろう。
学生だもの予算を渋ることもあるだろう。

美容師さんだって困るよね笑

ならば、と私は足繁く通ってくれる顧客である彼らに提案する。

夢と目標通り、初心忘れず
立派なホンモノの医者になることを約束してくれるなら
とんでもない特別価格で
とんでもないド派手にしてやるよと。

二人は再び目をキラキラさせて

「約束しますっ!!」

と即答し 契約は成立した。

それが後で自分で自分の首を絞める
悪魔の契約となるとは思いもせずに。


初年度 2022年

過去 飛び込みでも一見さんでも
その大会関係無く
豹柄やアイヌ刺青を模したデザイン他色々と
珍しいオーダーを頂く経験が周りよりも多かった。
(なんでもやってくれそうと言われることが多い)

そんな私は深く考えずに過去の経験を活かし、二人のデザインはすぐに決まった。

恋人が出来たばかりだと
浮かれぽんつくになっていた部長の彼はその浮き足だった心を表現する
ハートの豹柄、

相方は飄々としたキャラで冷静かつ実はお茶目だから、
「?マーク」入りのゼブラ柄。


数年間部屋に閉じ込められた彼らの
野生的パッションをアニマル柄で表現することにした。

バスケの試合でボールを持って走る時
後ろから攻める追っての心を撹乱するに一役かうのでは?と 
陰ながら試合に参加しようという私の思いをデザインに入れることを二人にプレゼンし、
即採用となったのがコレ。

手書き


予想通り 
久々の大きな大会参加者は
髪も控えめ単色が多かったそう。
狙い通り悪目立ちしたそうだ笑

如何なる形でも

どうせやるなら、ねぇ?

爪痕、残したいじゃない。


写真撮らせてと女の子から声を掛けられた〜♪と
鼻の下を伸ばしながら話す土産話を聞くのはなんだか
やり切った…と嬉しく感無量の思いだったし

ずいぶんと喜んでくれて試合のあとしばらくこのまま 
夏休みを過ごしてくれたそう。

コレで新幹線にのり実家に帰っても
ご両親に怒られなかったのは
救いだったし懐かしい笑い話だ。



しかし 数ヶ月後

"しまった…やり過ぎたか…"と

豹柄ゼブラ柄でインパクトを与え過ぎたことと

後先考えずに お客が喜ぶならとやってしまう

自分の全力投球グセを後悔することとなる。



2023年

先の三年生での初参加試合の成績は相当 悔しい思いがあった様で

翌年の大会へ繋がる試合のたびに
上位に食い込み 
チームとしても伸びていくのが楽しい最中の彼らは次、優勝を狙う様子だった。

来店するたび

「髪どうしよっかなぁ〜♪」

と まだ半年以上先の話なのに
キラッキラの目で私に何か求めてくるというプレッシャーをかけ続ける事となる。


うぅ…しまった…
奴らは6年間 学生なんだった…。

やっちまった…。

そしてゼブラ柄は次回の試合で引退する事を決め 学業に専念するのだそう。

最後だからと

「アフロにしてみたい…」と悩み出す。


次の試合の半年以上前から相談されるたび

マジでやめてくれー
ヽ( ̄д ̄;)ノ=3=3=3

私一人でアフロ?どーすんだ?
何時間かかるのよ?やだよ!と内心手を合わせて震えながら祈ったが


反面

"似合うだろうな"

"やらせてやりたいな" と

美容師としてのピュアな想いが私の中でせめぎ合う。

(*´ー`*) んーーーー。

分身の術、誰か教えて…。

もう一人はどうせ
ド派手にぶっ飛んだことを言うだろうからと諦め
覚悟だけは決めておく。


そうこうするうちにあっという間に一年が過ぎ
結局 アフロへの決心がついて
ご丁寧に頭を下げられたので
もちろん即快諾する。

作業自体は単調だ。

しかしこちらアフロ専門職人では無い為 長時間かかってしまう事と

二人の同時施術を一人で行う為4〜5時間経過の頃
集中力は切れると予想される為
「帰りたい」と文句を言わせてもらう許可を先にもらっておいた。

手仕事は始まったら最後、
終わらせるまで帰れない。


ただひたすらハリガネに5ミリ四方でとった髪を
ねじねじねじねじしながらさらにツイストさせてぐりっぐりに巻くだけだ。

伝わりますかしら?


書くと非常にシンプルだが

結果 220本?
多毛の彼に5時間張り付いてようやく巻終わり 
しかも一言も文句を言わずにやり遂げた。(口も開けなかった)
まさに地獄の修行だった。

ただし数本でも
練習してタイムを計り予想を立てなかった私が悪い。
3時間くらいでいけるっしょ、なんて読みが甘かった。

ちなみにもう一人同時ダブルブリーチしながらね。

↓決して偉そーにふんぞりかえってるのではなく、
私の手が届かないからお願いして低くなってくれている。

1本平均25回転、それを約220本
つまり5500回ほど
ねじねじし続けたら
指の皮は剥けました。


問題はもう一人の方だった。

それはある夜 
楽しみに行った焼肉で
さぁ 焼くぞ♪とワクワクしてる時スマホの通知が鳴り止まない。

不死鳥をテーマに行けますか?」と画像がバンバン送られてくる。


わぁ〜たぁ〜しぃ〜は〜
今、肉を焼くのに忙しいんじゃっ!!


と心の中で叫びつつ
目の前のカルビを見つめるも
数日後に控えた大仕事、
気になる案件ぶっちぎり一位だもんで

肉を焼きつつ
通知の止まらないスマホを開いて ギョッとした。


こんな感じともっと複雑なやつ10枚ほど

         検索から引用

お客様ですが、言うても良いですよねって事で思わず

「はぁ?アホか??」

と 
つい、申し上げたことをここで自白致します。

ついでに「ふざけんなよっ」とも言いながら 肉を焼きました。


デザインをどう頭に描くか?

躍動感と色の配置…
静止ではなく 
汗まみれの試合約1週間…

内心悪態をつきつつも私の頭の中は動き出す。

早々に切り上げて帰宅するやいなや
色鉛筆片手に
唸りながらイメージを書き起こす。

「色はカラフルで行きたいです!」と追加で来るメッセージを睨みつけて
無視しておいた。


そんなこんなで迎えた仕込み当日

二度目の夏の大仕事は
二人にはNetflixでドラマを観させて
(10話全部観た)

なんと殆ど手を止めず12時間かかるという謎の大仕事となった。

①ブリーチオンカラー+不死鳥お絵描き

②パーマ+ブリーチからのピンク希望


結果 ②は途中であえて半分の金髪パーマを気に入ったようで
ピンクはしないと言ってくれて
「パーマもほぐさないでそのまま行きたい」と神の声に聞こえた言葉は救いだった。
(まだお絵描き終わらぬ深夜1時、死んだ目をした私がそう言わせたんだと思うけど)

PM3:00開始で終了AM2:30
「二度とやらねー!」と叫んだ私に休憩と
多分罪はない


渾身のぶっ飛びド派手髪 無事終了。

翌日学校で試験だったそうだが
(再試になったそう)
会場でどよめきを浴びた不死鳥君、
目立つのが嬉しいのかLINEをしてきて

なんとバスケの試合は負けた。


なんのこっちゃ。

しかし同時に行われた

派手髪選手権とやらでなんと
"優勝"を決めたらしい。


担当美容師は私です😍


わーい やったね
(*´∀`)♪


(時給換算したら号泣レベル笑
二度とやらねー!!が報われた瞬間)




…とかなんとか言っちゃって。

2024年、
また今年も夏がやってきた。


やりますよ、

ええ喜んで(-_-)

しかも今年は 一人引退しておるからね、うんきっと楽勝。


そして私は学んだのだ。

君たちには来年があるでしょーが!!卒業の、引退の年だからって

どうせもっと
とんでもないこと言うんでしょうよ。

だから絶対に今年は
5時間以内で帰れるスタイルを作る!と決めていた。

予想通り スタイルの相談が始まると

コーンロウだとか
ドレッドだとか 
エクステだとか

好きなこと言い始める。


美容師全員がそれら出来る訳じゃないし
なんなら私はそれ出来ないし
(そーですよね?ほとんどの美容師さん?)

なにしろ

やりたくない!!
イヤだっ!!
やるなら来年だっ!!

と ゴネにゴネてデザインの主導権をもぎ取った。

「今年は部長職無いんで
 派手で面白く行きたいんですよね」
とのたまう彼にふざけて言ってみた。

来年(引退年)はそれなりにしたいだろうから
あえて今年は丸坊主で 
お絵描き(→入れたがる)部分は
ひらがなで名前にしとけば?


どんな反応するかと思えば

「え、それ良いですね!」


って おい。

本気なら良いかと思いつつ
昨年派手髪選手権優勝者としては

なんかそれダサい、イヤ笑

あーだこーだと打ち合わせ数分後
ライトなデザインで
カラフルに、と落ち着いた。


読んでてもつまんないだろうから先に仕上がり


背番号30番


何故か途中 引退した相方も差し入れと共に来店し
カメラマンとして加わり作業続行。

手書き一発勝負はいつも震える


イメトレ通りに…


一個 サイズと角度間違ったけど笑
当日は 
走ってるから大丈夫でしょう!と そのまま強引にやり抜く。

360度 どこから見ても同じが無い配置で
色を沢山使いたいと言うので
仕方なく塗っている(嘘)
仕上げ〜


名入れ案「ゆたか」は最後まで悩むも 
やっぱ カッコつけたいよね
合意のもと
ユニフォームの背番号で
お絵描き終了。

流し終えて鏡を見ると
目をまんまるくしてあちこちの角度から自分の姿を眺めて大騒ぎ。

若者二人がキャーキャー喜ぶ姿は
何度見てもプライスレスな嬉しい気分を味わえる。

普段の仕事ではやらないことだからこそ、
答えも正解もない訳だし

面白さと緊張感は別格で。


満面のクシャ笑顔、モザイクが勿体ない
いつも何故か数々のポージングを決める為
しばらく撮影会となる笑


最後はいつも三人で


引退した彼も長野県の会場へ行って応援するんだって。

気をつけて行ってこ〜い。


コレが今年の夏の大仕事。

5時間かからず終了できて
3年目の課題も無事クリア。


過去分合わせて書いたのは

今日こんな
とても嬉しいLINEが届いたから。

本当に優勝🏆決めてきた👀‼️


合間にスマホを見て

飛び上がるほど

嬉しかった。


そういえば

去年は思っても無いところで負けてしまって
悔しくて泣きながら朝まで飲んだと

早朝アフロから律儀に青春してるLINEが来たな。


そんな二人と写真でしか会ったことない部員のみんな。

念願の優勝、おめでとう!!
٩( 'ω' )و


ぶつくさ文句を言わせてくれる美容師に

仕事でこんな素晴らしい体験をさせてくれるなんて

やっぱり記念に残したいし

彼らの優勝も 
2番目の母としては自慢したい。

特に30番は
毎年怪我して挑む試合だったが
今年は無事に終えたようだ。

母さん安心って
こんな気分かぁー。


派手髪選手権…
あわよくば今年も賞取りたいなー。


送ったLINEはまだ既読がつかない。

きっとチーム全員でわいわい盛り上がっている証拠だと
なんだか嬉しくってふふってなった。



あと半月ほどしたら
元気よく扉を開けて

いつもと同じく
「こんにちはっ!」って来るはずだ。

おかえりぃ〜!といつも通りに迎える私は喜びに浸る間もなく

来年の希望
エクステ、コーンロウ、ドレッド…
デザイン候補の練習を始めることになるのかしらと
苦手中の苦手系を思い描き

もうすでに頭が痛くなってきた…


ええやりますとも


喜んで!!

\\\\٩( 'ω' )و ////



ある美容師の夏の思い出
大仕事の記録

最後までお付き合い頂きありがとうございました!


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