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小説|メルクリウスのデジタル庁の年末 第13話 土星(1)
「千佳さん、すみません。今よろしいでしょうか?」サトゥルーヌス・チームのサリからテレパシーが来た。
「はい、どうしました?」
「今、申請済の記録を処理しているんですけれど、3次元のバイブレーションのフォルダーがあって。テラの記録の様なんです。私がテラに転生していた時と同じようなバイブレーションで。ちょっと見ていただけませんか?」
私は一瞬狼狽した。魂の記憶の秘密を守るための申請をしたフォルダーは、その魂が生涯を終えた惑星のチームごとに割り振られるはずだ。先ほどの案件の様に、惑星間の転生者の記録なのだろうか。
「今そちらに行くね。もしかしたらパロルさんにお伺いするかもしれない」
私はサリのデスクへ行った。
「こちらです」サリが見せてくれたタブレットには、一つの新しいフォルダーがあった。右手をかざしてみると、確かに3次元のバイブレーションが感じられる。
「申請済のフォルダーだから、早く処理しないとだめですよね・・・一旦、フォルダーを強化して、中の情報を確認したほうがいいと思うんです。」サリはすこし焦ったように言う。
惑星間の転生回数が多いサリは、バイブレーションの違いをぴたりと言い当てられる才能が高く、みんなが一目置いている期待のホープだ。入庁3年目だが、フォルダーの処理をあっという間に覚え、仕事もとても速い。
「ちょっと待って。これは、惑星間の転生者の可能性があるよ。もしかしたらもっと稀なケースかもしれない。惑星間の転生回数が多いか、もしくはギャラクシー間の転生者の魂か。とにかく特殊なケースの可能性も見過ごせないよ。もしかしたら魂の記録一覧も確認しなければならなくなるかもしれない。まずはパロルさんに報告しよう」私はサリに伝えた。
「でも、申請済の魂だし、急がなければならない案件ですよ?これ、鍵もかけなければいけないし。重要だからお伺いしたのに。そのままにしておいていいんですか?」サリは続ける。どうしても納得がいかないようだ。
「魂の記録を出して検証したことはある?惑星間の転生回数が多ければ、一つの魂の記録であっても、異なったバイブレーションのフォルダーが沢山出てきてもおかしくないんだよ?それにコスモ以外のギャラクシーからの転生者であれば、これは私達やパロルさんではなくて、ラーさんまでエスカレーションさせなければならない案件かもしれない。そうなったときにあなた、自分で対処できる?」私は必至で説得した。
「・・・わかりました」
サリはさっそくシステム経由でパロルさんに報告を上げた。
パロルさんを筆頭としたサトゥールヌス・チームには、私の同期入庁のキアがいる。デスクが近いせいか、入超直後はついつい二人でテレパシーのおしゃべりをしてしまい、真面目で責任感の強いパロルさんから叱られることも度々あった。真面目で実直な人柄のサトゥルーヌスチームのデスク周りは明るい茶色で統一されており、落ち着いたなごみの雰囲気がある。
ほどなくして、私はサラさんからテレパシーを受け取った。
「千佳、ちょっといらっしゃい」
私がサラさんの所へ行くと、サラさんとパロルさんがこちらを見ていた。
「さっきサリから報告があがりました。サトゥルーヌスの魂のフォルダーで3次元のものがあって、フォルダーの強化依頼をしたのは、あなたの判断だったんですって?」パロルさんが言う。
「いいえ、違います。3次元のバイブレーションの魂のフォルダーがサトゥルーヌス・チームの記録に出てきたので、まずはパロルさんに報告をする様、サリに言いました」
パロルさんとサラさんが何かテレパシーを交わしている。
ほどなくしてサリが呼ばれた。パロルさんが続ける。
「サリ、報告を上げるときは、簡潔に用件だけを伝えるように。どのような経緯を経て結論に達したかまでは書く必要はありません。それに、どのような対処方が良いか、あなたの意見を書く必要もありません。こちらが混乱するだけです。千佳と相談した、と書き添えるだけで十分です。
グループソウルの記録はまだ作業したことがないでしょう?今回のようにフォルダーのバイブレーションに明らかな異常があった場合は、私たちか、サブリーダーにすぐに報告を入れること。スターシードである可能性もあるし、他のギャラクシーからの転生者である場合もある。どのような経緯でその魂が特殊なバイブレーションを持つようになったのかは、魂の記録を見ていかなければなりません。
そういう時は私たちに報告の上、閲覧すること。申請済の魂であればあるほど、中の情報は保護されるべき内容でしょう。報告をしなければ、あなたが無断で特殊な記録を閲覧したことになってしまいます。一人ですべて対処できるならいいけれど、あなたはまだそこまで対処できませんね?3次元のバイブレーションだったから千佳を頼ったのかもしれないけれど、まずはチームのサブリーダーないしは私達責任者に報告をして。」
サリはうつむいて、頷いた。報告書に何が書かれていたのかは知る由もないが、かなり長い文章を書いてしまったのだろう。パロルさんとサラさんが再度テレパシーを交わした後、サラさんが続けた。
「千佳、今テラチームが少し落ち着いているようだから、サリの作業を手伝ってあげてね。一旦、その魂の記録は外部から閲覧不可の状態にしておくので、そのまま一旦3次元で強化して、そのあと魂の記録一覧を確認すること。エスカレーションが必要なら、すぐにパロルに報告をして」
「承知しました。」
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私は自分の2つ目のタブレットをもって、サリのデスクまで自分の椅子を持って行った。
「さて、さっきのフォルダーを見ようね。他の惑星からの転生者のフォルダーの処理を扱ったことはある?」私はサリに尋ねた。
「メルクリウスの魂ならやったことはあります」サリが言った。
「4次元の魂なら経験があるんだね。それじゃ3次元の魂のフォルダーも扱ってみようか。サリの方がバイブレーションが細かいから、一旦このオニキスを使って作業してみて。フォルダーは3次元まで落として、強化していきましょう」
サリはフォルダーに右手をかざし、作業を始めた。
「サトゥルーヌスのフォルダーと比べて、すごく重量感が強いんですね。でも脆くてすぐちぎれてしまいそう」サリが心配そうに言う。
「脆いけれど大丈夫。オニキスのバイブレーションも使って、慎重に固めていってみて。」
サリは慎重に作業を進めていった。フォルダーは徐々に形が整ってきた。
「出来ました!」サリが大きな声を上げる。フォルダーはしっかりした形を整え、スクリーン上に姿を見せていた。私は自分のタブレットからも確認して、強度を確かめる。
「じゃあ、今パロルさんにフォルダーの閲覧許可をとるね。一緒に見てて」
私はサリに自分のタブレットを見せながら、社内共有システムからパロルさんに閲覧許可申請を上げた。「サトゥルーヌスの魂から3次元のバイブレーションを感知。念のため中の記録を閲覧したく、許可を願います。」
ほどなくして閲覧許可が下り、私たちはフォルダーを開けた。
しかし、出てきた3D 映像を見ると、サトゥルーヌスの青年の生涯だった。典型的な緑の髪とマゼンダ色の瞳、周囲の風景もテラとは全く違う風景だ。
時空を超えて移動ができるサトゥルーヌスの人々の記憶は、ある時点の記憶から、しょっちゅう過去や未来へと移動する。
テラの魂も、しょっちゅう過去や未来を思い出すことがあるが、サトゥルーヌスの魂の場合は物理的に過去や未来へと移動してしまう。時間軸の移動の記憶がテラの記録よりも鮮明なのだ。
フォルダーは人がその惑星で人生を終えて、エーテル体が身体を離れた時に自動生成されるもの。4次元のバイブレーションを持つサトゥルーヌスの人の記録が、3次元のバイブレーションを持ったフォルダーになるとは、通常では考えられない。
「これは、一度魂の記録を一覧で見た方がいいね。恐らく惑星間の転生の回数が多いのかもしれない」
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そこで、再度パロルさんに魂の記録の閲覧を申請する。「サトゥルーヌスの魂で3次元のバイブレーションのフォルダーあり。内容はサトゥルーヌスでの人生。惑星間の転生者の可能性があるため、魂の記録の閲覧を申請します」
事情を知ってか、こちらもすんなりと許可がおりた。
この魂も転生回数が非常に多い。しかし、タブレットのスクリーンをスクロールしていったが、近年ほとんどがサトゥルーヌスで転生をしている。
私は悩んだ。テラとサトゥルーヌス間を何度も転生しているならまだ理解ができるが、事情は違うようだ。
私はサトゥルーヌスチームのラージさんにテレパシーを送り、相談してみた。
「3次元のフォルダーだって?さっきサリに回した分にそれが入っていただって?いや、それはサリにはかわいそうことをしたなあ。僕の見落としだな。」
「今、一緒にフォルダーの中身と魂の記録の一覧を見た所です」
「うん、そこまでサリと見たなら、十分だ。申請の方法もサリと一緒にやったかい?」
「はい。社内共有システムの使い方と、スクリーンの閲覧まで一緒にやりました」
「すぐ行く。ちょっと待っててね」
(続く)
(これはフィクションです。出てくる人物は実際の人物とは一切関係がありません)