ヨーロッパ:夏の日のレモンのビール
イギリスで初めてパブという居酒屋に行ったとき、友人から「飲める方か」と聞かれた。あまりアルコールには強くないというと、「じゃあシャンディを頼もう」と言ってくれた。
初めて聞くシャンディという名前に、どんなものが出てくるのだろうとパブのカウンターの人の作業を眺めてみた。
まずはグラスにビールを半分ほど注ぎ、その後でレモン・ソーダ(確かセブン・アップだったと思う)を入れた。ビールが薄まって、薄黄色っぽい飲み物になった。席をとって座り早速試してみると、レモンの味とビールの味が程よく混ざって、なかなか美味しい。少し暑い日でもあったのでグラスが進み、一パイント(約五百cc)あったシャンディをあっという間に飲み干してしまい、かなり酔った記憶がある。
このシャンディはお酒に弱い人が飲むビールのカクテルの様なもの、と言われたのだが、夏の暑い日にはお勧めしたいカクテルでもある。レモン・ソーダの味と甘みがビールと程よく合い、すっきりとして飲みやすいビア・カクテルだった。
このシャンディは主に英国やヨーロッパ、オーストラリアやニュージーランド、南アフリカやカナダで飲まれるカクテルの一つと言われる。
イギリスでは、このシャンディという飲み物は十九世紀に出来たカクテルで、もともとはシャンディ・ガフと呼ばれていたそうだ。名前の由来は様々な説があるが、一説によるとこれはロンドンのスラングで、シャンディ(居酒屋)のガフ(水)というところから来ているようだ。当時はビールとジンジャーエールを混ぜていたようだ。(現在でもカリブ海地域ではジンジャーエールとビールを混ぜたシャンディが飲まれている)
イギリスのパブでオーダーするときは、ビールの種類をまず言う様で、「ラガー・シャンディ」といえばラガービールとレモン・ソーダのシャンディ、「ビター・シャンディ」といえばペール・エールとレモン・ソーダのシャンディが出される。
フランスにも同様のカクテルがあり、「パナシェ」と呼ばれている。ラガービールとソーダをミックスしたもので、冷たいビールとレモン・ソーダを混ぜ、冷えた状態で飲むものとされている。ポピュラーなカクテルで、スーパーマーケットなどで缶入りの製品を購入することができる。
このパナシェはどうやらドイツから来たビア・カクテルの様だ。ドイツの南部では「ラドラー」、北部では「アルスター・ヴァッサー」と呼ばれる、やはりビールをレモン・ソーダで割ったものだ。南部のラドラーは、一九二〇年代に生まれたカクテルで、「自転車」という意味があるそうだ。この名前の由来には、このカクテルが産まれたきっかけの逸話がある。
ある夏の日の事。ドイツの南部バイエルン州のある居酒屋に大勢の自転車に乗ったグループが現れた。驚いたことに、その日居酒屋には、自転車乗り達全員にいきわたるだけのビールが足りていなかった。機転の利く店主のフランツ・クサーヴァー・クーグラー氏は、黒ビールをラドラーのレモン・ソーダで割り、自転車乗りのグループにいきわたるように提供したとされる。現在、ドイツではこのビールのレモン・ソーダ割りは「ラドラー」の名前で商品化され、缶で買うことができるそうだ。
ドイツのラドラーは、イタリアにも伝わった。ドイツでこのカクテルが生まれた切っ掛けをリスペクトしてなのか、イタリアではこのカクテルを「ビチクレッタ(自転車)」と呼んでいるそうだ。イタリアではビールをレモン炭酸飲料のガッゾーサなどで割っているとのこと。また、イタリアのビチクレッタは、他のカクテルの名前でもあり、カンパリをワインとソーダで割ったものでもある。
スペインではクララという製品名呼ばれており、やはりビールをレモン・ソーダで割ったものとのこと。夏の定番カクテルになっているようだ。こちらもボトルで購入することができ、日本でも通信販売をやっている会社があるようだ。
スペインではレモンビールと呼ばれているようで、クララの他にも沢山の種類のレモンビールがある。プロカメラマン予約のTotteさんのブログに詳しく乗っている。色々な種類があり、とても美味しそうだ。
様々な国で楽しまれているこのビールとレモン・ソーダのビア・カクテルだが、特にヨーロッパ大陸では夏の飲み物として楽しまれているようだ。ドイツでできたラドラーの様にスポーツに関係するなど、夏の運動の後に冷えたラドラーやビチクレッタを飲めばさぞかし爽やかな気分になれるだろう。雰囲気としては日本のレモンサワーに似た感覚があるのではないだろうか。ウオッカや焼酎をレモンで割るではなく、ビールをレモン・ソーダで割る。少し甘くて冷たいこのカクテル、夏にぜひ試していただきたいお酒の一つだ。
レシピは以下の通り
エールやラガーなどを使えばイギリスのシャンディ風、もしくはドイツのラドラー風に、
ピルスナーやブロンド・ラガーなどの色の薄いビールで、ビール三分の二、ソーダを三分の一の割合で割ればフランス風に、
お好みの味と割合を探してみて欲しい。
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(出典と参考文献)
Shandygaff Cocktail Recipe (diffordsguide.com)
An Undiluted History Of 'Shandy' | Merriam-Webster
Panaché Cocktail Recipe (cookist.com)
ローマの下町テスタッチョでアペリティーボ | 古城と湖の町、イタリア ブラッチャーノ通信 (ameblo.jp)