ゲームを完成させるための秘訣は…好きの言語化にあり!?【受賞者ドキュメンタリー第10弾】【前編】
スライムを召喚する魔術師同士が腕前を競い合う、対戦型リアルタイムストラテジーが「Jelly Troops」だ。自分の魔術師を操作してマップを探検、あちこちの「小旗」や相手の陣地にある「大旗」を奪えば勝ちとなる。旗は自動で動くスライムに命じて運ばせなければならず、数が多いほど効率も上がる。しかし、あちこちにはスライムを攻撃する「ガーディアン」がいる上、マップはランダムで生成されるため、「してやられた!」というハプニングが起こる。スライムを増殖させるばかりでは勝てないし、妨害にかまけていると相手はスライムを増殖させて数の力で旗を運んでしまう。スライムという限られた人手を管理し、勝利に向けて適切に割り振っていく。マネジメントとアドリブが重要な作品なのだ。
そんな「Jelly Troops」を開発したのは、Nukenin合同会社のわけん氏。大手ゲーム会社を辞して独立し、絵に何が描かれているかを当てる「ネコの絵描きさん」や、あの大怪獣「ゴジラ」を題材としたストラテジー「ゴジラ ボクセルウォーズ」といった作品をリリースしつつ、「Jelly Troops」で賞を勝ち取った。氏が考えるインディーゲーム作りについて聞いていこう。
■更なる成長を求め、独立を志す
――まずは入賞おめでとうございます。入賞の感想を聞かせてください。
🔶わけん:入賞は嬉しいですね。僕はNukeninという一人会社でインディーゲームを作っていて、収益的に赤字になることが分かっていたような状態でした。入賞して開発支援金をもらえたおかげで赤字も縮小できましたし、開発のために人を雇えたので嬉しい限りです。実は他のコンテストには落選していたので、こっちもダメかなと思ったんですが、通ってありがたかったですね。
――「Jelly Troops」の開発体制はどのようになっているのでしょうか?
🔶わけん:アーティストの方3名、プログラマーとサウンドの方が1名ずつ、マーケッター兼広報の方が1名、ここに僕を加えた7名です。フルタイムで関わっているのは僕一人ですね。
――「GYAAR Studioインディーゲームコンテスト」への応募を決めたきっかけを教えてください。
🔶わけん:別のプロジェクトで仕事をお願いしていた「Electrogical」のkinjoさんが、前回のコンテストで入賞されていて、そのお話を聞いたのがきっかけでした。
――GYAAR Studioインディーゲームコンテストが回数を重ねていくごとに、こうした例も増えそうですね。わけんさんのビデオゲーム原体験について聞かせてください。
🔶わけん:小学校1年生の頃に好きだった女の子の家にファミコンがあり、「スーパーマリオブラザーズ」をプレイしたのが初めてだと思います。今となってはその子が好きだったのか、ゲームが好きだったのかはちょっと分からないですね。
自分でゲーム機を買ったのはその2年後で、機種はファミコンでした。ただ「ゲームは1日1時間、週に4時間まで」という決まりがあったので、思いっきりゲームをするというわけにはいきませんでしたが。
――1日1時間ではプレイできるジャンルも限られてきますね。
🔶わけん:そうなんです。「ファイナルファンタジーIII」の最終ダンジョンなんかは、途中にセーブポイントがないので時間が足りないんですよ(笑)。
――ゲーム開発を仕事にしようと考えたきっかけはどういったところなのでしょう?
🔶わけん:小さい頃はゲーム開発者じゃなくて漫画家になりたかったんです。でも漫画を描かないまま大学まで進んでしまい「このままだと普通のサラリーマンになってしまう」という危機感がありました。そこで、理系の知識を活かした仕事ということで、大学院ではコンピューターグラフィックスの研究室に進みました。その過程では、学生生活を通して人を楽しませることが好きなことに気付きました。部活は体育会系だったんですが、4年生になっても新人芸をやってた位ですから(笑)。そこで、ゲーム会社に就職することを決めたんです。
――入社後はどうでしたか?
🔶わけん:面白い人が多かったですね。様々な方と交流しながら会社の精神を身に付けていき、そしてゲーム作りの面白さも学ぶことができました。ただ、10年ほどいると仕事に飽きてしまったなと思う瞬間が増えてきたんですよね。
――仕事に飽きた、というのは具体的にどういった状態なのでしょう?
🔶わけん:大きい企業にいると、ゲームの一部分を担当することはあっても、自分のアイデアだけで作品を作ることはできません。ファミコンの当時は2~3ヶ月でゲームを作っていて、それがクリエイターの急成長に繋がっていたところはありますから、こうした経験を積みたかったんです。新しい刺激が欲しいということで、海外にも住みたかったですし。
――確かに、ゲームを1本仕上げることで開発者が急成長するというのは色々なところで指摘されていますね。海外ではいかがでしたか?
🔶わけん:半年くらいイギリスにホームステイしつつ語学留学をし、それから3ヶ月ほどかけて世界を一周するなど、色々な経験ができました。荷物がなくなったこともありましたし、ヨーロッパはスリが多くて大変でした。2回までは防げたんですが、3回目は複数人の犯行だったので、片方のポケットをブロックしていたらもう片方のポケットからスマホを盗まれてしまって。暗い港町を歩いているとたまたまホテルのような場所があり、そこでWi-Fiの電波を借りることで、予備のスマホでなんとか目的地の位置を確認できました。
――複数犯のスリというのは恐ろしいですね。危害を加えられなくて幸いでした。日本ではなかなかできないような経験も色々あったと思いますが、そこから学べたことはありますか?
🔶わけん:あんまりなかったんじゃないかと思っています。友だちからも「海外に行ってもあんまり変わってないね。以前にアマチュアのミュージカルに出た時の方が成長してたよ」って言われてしまって(笑)。
■まとめることと風呂敷を広げることのバランスを取り、手持ちの戦力を最大限に活かしたゲーム作りを進めて行く
――帰国後にゲーム開発を始められたわけですが、いかがでしたか?
🔶わけん:当時の感覚をあんまり思い出せないんですけど、「楽しい」と思ったこと、そして「自分が勤めていた会社は、すごいネームバリューを持っているんだな」と感じたことは覚えています。
というのも、自分が勤めていた会社はいわゆる大手だったんです。
開発者が集まるようなイベントに行っても、その大手で働いていたことを話すだけで、皆さんの信頼度がすごく高くなる感がありました。会社のネームバリューに助けられて生きてきたなとは思います。あとは、ゲーム開発で収益を上げるのはすごく難しいと感じたことを覚えていますね。
――「ネームバリューに助けられた」といわれますが、独立後はGoogle Play ベストオブ 2018のゲームインディー部門にて優秀賞を受賞した「ネコの絵描きさん」、「ゴジラ」のストラテジー「ゴジラ ボクセルウォーズ」など、着実に成果を挙げられている印象を受けます。
🔶わけん:最近、自分はゲームを完成させるのが得意だなと感じるようになりました。
――ゲームを完成させるのに大事なことはなんでしょう?
🔶わけん:短い時間でゲームをまとめることと、風呂敷を広げることのバランスを心がけながら作っています。風呂敷を広げすぎるとゲームは完成しませんし、かといってまったく広げないといいものはできませんから。
――インディーゲームでは「開発をスタートしたものの、完成させられない」という例も多いですから、そこでゲームをしっかりまとめる意識があるのは強いですね。
🔶わけん:1本のゲームを作るのに時間を掛けすぎてしまうと、その分トライアンドエラーできる試行回数が減ってしまいますから。自分の成長もすごく意識はしていて、ゲームを作り始めた頃は短いスパンで仕上げ、ノウハウを貯めていくことを考えていました。今もそうした所は考えています。ポッドキャスト(※)をやっているのも、そうした取り組みの一環ですし、ゲーム作りのノウハウを言語化してノートに残しておきたいです。
――「Jelly Troops」が現在の世界観に決まった経緯について教えていただけますか?
🔶わけん:基本的にはゲームメカニクス優先で考えていきました。ゲームを進めていく上では、プレイヤーの味方が増殖していくメカニクスが必要だったのに加え、彼らがやられた時に痕跡を残したかったんです。やられた痕跡がないと、フィールド上でガーディアンにやられた際、単に行方不明になりますから。とはいえ、血痕だとグロテスクになってしまうので、ポップな表現であることが必要でした。
――確かに、ガーディアンにやられた痕があると、ある程度相手の侵攻ルートや行動も推理できますからね。戦略を立てたり、自陣に攻め込まれたことを納得するためには重要なフィーチャーだと思います。
🔶わけん:ポップな表現で痕跡を残せ、増殖しても違和感がないモチーフであればスライムが丁度良いだろうということですね。その後、モンスターであるスライムを使役するならプレイヤーは魔法使いになるだろうし、第三勢力として敵味方の両方を邪魔する存在は石像のようなガーディアン。彼らが戦っている理由としては、スライムしか召喚できない魔法使いの村があり、勝者が尊敬されるスライムバトル的なもので競い合っているんじゃないだろうか……と、どんどん世界観ができあがっていきました。
――まずはゲームのメカニクスがあり、そこからビジュアルや世界観が作られていったわけですね。
🔶わけん:スライムなら細かく形を作る必要がないのも、インディーゲーム開発としては都合の良い点でした。ゲームの舞台が洞窟の中になっているのも同じ理由です。デザイナーさんやアーティストさんが沢山いれば、作り込んだモデルを沢山配置できますが、インディーゲーム開発としてはそうもいきません。そのため、ライティングを工夫してリッチな絵を作らなければならず、ライトを沢山置くには画面全体を暗くしなければならない……ということで洞窟になっているんです。
――スライムを増殖させたり、相手を妨害したりと色々な操作が少ないボタンでこなせるのが印象的でした。従来型のリアルタイムストラテジーですと、ショートカットを覚えて素早く正確に操作するという側面が強かったですが、そうした部分も解決されているのが面白かったです。
(後編へ続く…)
※『後編』では、「わけんさんが考える理想のチームとは?」「自分が本当に作りたいものを見つける方法」等をお話いただきました!