背水の陣で挑んだ渾身の一作が見事入賞!【受賞者ドキュメンタリー第9弾】後編
※こちらの記事は『後編』になります。
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■人生に無駄な経験はない。変わる環境の中で夢を追い続け、長編ゲームの完成を目指す
――「GYAAR Studioインディーゲームコンテスト」では受賞者サポートとして各種イベントへの出展も行われます。ユーザーからのフィードバックがゲームに反映されたところはありますか?
🔸ガンジー:ダンジョンにマップができたのは、フィードバックのおかげです。当初はマップという概念が無く、双六のようにマスを前へ前へと進んでいくものでした。
でも、イベントで海外のユーザーさんから「ミニマップがあったら、ダンジョンの中を探索している感覚が出るよね」というご意見をいただきました。その通りですし、何より自分が遊んでいてワクワクできるだろうから、絶対これはやらないといけないと思ったんです。
――ご自身が遊んで面白い、というのがポイントですね。
🔸ガンジー:「自分ではない何者か」をイメージしてゲームを作るのは難しいですからね。自分も初期作品では「自分ではない何者か」として、スマートフォンでゲームを遊ぶカジュアル層を想定して開発していたのは確かです。
ただ、「Algolemeth」に取りかかる少し前辺りから考え方を改め、まずは自分をターゲットにし、自分が面白いと思えるかどうかを重視するようにしました。自分の好きなものをそのゲームの中に盛り込み、共感してくれる方が他にいればいいな、というスタンスにしたんです。
――イベント出展で、自分のゲームに熱中しているユーザーさんを見ていかがですか?
🔸ガンジー:受賞者サポートとしてgamescom(※)にも出展できたのですが、10歳にもならないくらいの女の子がシステムを理解して遊んでくれたことがありました。イベント出展をしないと分からないことでしたね。
「Algolemeth」の面白さについては確信を持って作っているというわけではなく、模索しながらの作業でした。でも、イベントでは「面白かったです」といってくれる方が本当にいっぱいいらっしゃるんですね。そう言っていただけるのであれば、それを信じてゲームを作らなければ、という気持ちになります。
――Supercell(※)のオフィスツアーも行われましたが、いかがでしたか?
🔸ガンジー:Supercellの皆さんは自社が作っているゲームへの愛情がとても強い人たちでした。皆さんにゲーム作りについて話を聞く機会もありましたが、そこでは「たとえゲームをキルすることになったとしても、クオリティバーを非常に高く保つ」ことの大切さを説いておられたのが印象的でしたね。
――ゲームをキルするというのは、開発を止めるということでしょうか?
🔸ガンジー:そうです。通常こうした判断は上層部が下しますが、Supercellさんでは開発チーム自らが「このまま開発を続けてリソースを消費し続けるのは、Supercellのためにならない」と決断をすることがあるそうです。その際は決断できた自分たちを誇りに思って拍手をし、シャンパンを開けたりもすると聞きました。こうした決断ができるから、厳選されたタイトルのそれぞれがしっかりと売上を出している現在があるわけですね。
――社員の一人一人が会社全体を考え、客観的な視点で評価を下す。その上で決断できた自分たちを称え、新たな出発へと繋げていく。
🔸ガンジー:自分のような個人開発者にも役立つ考え方だと思います。実際、自分もゲームをキルすることがありますし、その時は精神的なダメージを受けてなかなか立ち直れなかったりします。そうした時、プロジェクトを止めることは恥ずかしくないという気持ちを持っておくのは、すごく役に立つような気がします。
――特に日本人は失敗を重く考えがちな側面もありますからね。
🔸ガンジー:世の中では「ゲームは完成させないと意味がない」といわれることもあります。でも、途中でキルしたプロジェクトにしても、プログラミングのスキルや経験が上がるなど、プラスにはなっています。途中で止めることを悪いことだと思わなくてもいいんじゃないかと思いました。
――ツアーの期間は一週間あったそうですから、結構長いですよね。
🔸ガンジー:自由時間もあって、「サマーロード」(※)を作っているリビルドゲームスのお二人と仲良くなることができました。一緒にヘルシンキやケルンのゲームショップを巡り、とても楽しかったですね。
――同じインディーゲーム開発者の仲間ができたわけですね。
🔸ガンジー:ずっと一人でゲームを作り続けていたので、他の開発者と交流できるのはありがたいです。
インディーゲームを作っている方って、それぞれ考え方が全然違うんですよ。自分のゲームを売ることやゲームで食べていくことを模索されている方や、自分と同じように本業の傍ら開発を進めている方など、色々なスタンスがあるので、刺激になりますね。あとは、コンテスト受賞者は自分と同年代の方が多いので、ゲームの話が合ったりしてすごく楽しいです。
――インディーゲーム開発のスタンスも様々だと思います。ガンジーさんはゲーム開発専業から兼業へとシフトされたわけですが、兼業体制にメリットはありますか?
🔸ガンジー:ありますね。専業だとゲームだけで食べていくことになり、売れないと困ります。もし私だったら売れ線の、置きに行ったゲームを作ろうとしてしまうかもしれません。でも、兼業だと他に収入源があるからこそチャレンジができるというところはあると思います。
――誰もが最初に出したゲームでいきなり上手くいくわけではないし、本業があることで発想にも幅が出てくる。
🔸ガンジー:売れ筋のタイトルには腕利きのクリエイターや会社がひしめいています。だから売れ筋の中だけで戦っていくのはとても辛いですが、そこをちょっと離れたところでチャレンジできるのは大きなメリットだと思います。また、個人的には、色々な経験をしている方がゲーム開発に活かしやすいとは思います。その上で、ゲームに対する深い愛があれば理想的ですね。
――GYAAR Studioインディーゲームコンテストに今後期待したいサポートはありますか?
🔸ガンジー:継続的に相談できるような方がいると嬉しいですね。
試遊会だと初対面の方が多く、フィードバックも第一印象としてのものがメインになります。開発者側も、試遊会の出展用ビルドを作る上では初めて遊んだときの印象を良くするための努力になりがちです。そこで、作品を深く知った上でフィードバックをくれる編集者的な人や、悩みを気軽に相談できるメンター的な人がいれば、もっとゲームも良くなるんじゃないかと思いますね。
今特にデザイナーさんや音楽関係の方を探すのに苦労をしているのですが、そういう方経由で探せると安心ですし、ありがたい存在になるんじゃないかと。
――今回「Algolemeth」の開発で目指すのはどういったところでしょうか。
🔸ガンジー:これまではシンプルなゲームばかり作ってきたので、お金をいただいて長い時間遊んでもらえ、ちゃんと面白かったと思ってもらえるゲームを作ることが大前提になります。そのために、まずはしっかりと完成させたいという気持ちがあります。自分の中で面白いと思えるものを提供するという考え方は、多分今後も変わらないんじゃないかと思いますね。
――様々な変転の中で得た、自分の面白さを優先するというスタンスで、これまでに経験の無い長編ゲームの開発に挑んでいくわけですね。ガンジーさんからインディーゲームを作っている人たちに向けて、一言コメントをお願いできますか?
🔸ガンジー:自分がコメントというのもちょっとおこがましいですが……開発する上では、締め切りや目標を定めるのがいいんじゃないかと思います。
オンライン応募のコンテストなら資料とビルドだけがあればいいですから、応募してみるのもいいかも知れませんね。受賞できなくて落ち込んだりすることはあるかも知れませんが、応募=自分が開発してきたことの進捗状況を出すと捉えた上で、モチベーションアップの手段として使っていくのもアリなんじゃないでしょうか。
――コンテスト応募という締め切りを決めることで、開発にもメリハリがつく。
🔸ガンジー:ゲームを作る上では、他の人とは違ったパーソナルな経験やエピソードをゲームにできないかと考えてみるのが面白いんじゃないかと思います。
私にはゲーム業界で働いた経験もありませんし、ゲーム作りの勉強を始めたのが28歳、コンテストに応募したのも37歳というかなり遅いタイミングでした。その間もずっとゲームを作り続けていたわけではなく、時には開発を止めたり、それでも続けたいと思って再開したりといった繰り返しでした。でも、継続していたことでプログラミングの腕が上がって「Algolemeth」も作れたので、続けることは大事だと思いました。
自分は過去に資金も尽き、ほとんど外にも出ないような暮らしをしていました。同じような状況に置かれている方もおられるかもしれませんが、継続的な努力をしていればちゃんと結果が得られますし、自分にとっての転機はフードデリバリーというゲーム開発に関係ない仕事でした。だから、自分くらいの年齢の方でゲームを作りたいと思っている人がおられるなら、今からスタートしても遅くないと思います。自分も「Algolemeth」が完成するまで努力を続け、ゲーム業界の経験が無くても、何歳からでも面白いゲームを作れるんだということを証明したいですね。
――人生で無駄な経験はない。とにかく継続することが大事なわけですね。ありがとうございました。
Steamストア:Algolemeth