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『Algolemeth』背水の陣で挑んだ渾身の一作が見事入賞!【受賞者ドキュメンタリー第9弾】前編

■ガンジー
物心ついたときからファミコンで毎日遊び、驚きや感動を与えるゲームを自分も作りたいと幼少期から考えていた。一度は一般のIT企業に入社し6年間働いたが、ゲーム開発の夢を実現するために退職し、独学でゲーム開発の勉強を開始。7年間の活動期間を経て、安定した環境を維持するため兼業で活動を継続することを選択。現在はVRアプリ開発企業で会社員として働きながら、Algolemethの開発に取り組んでいる。

「全自動ダンジョンRPG」と銘打たれた「Algolemeth」は、RPGにプログラミングの要素を組み合わせた、ユニークなゲームデザインが特徴である。
プレイヤーは魔法の自動人形「ゴーレム」をダンジョンに送り込み、戦闘や探索をさせる。しかし、当初ゴーレムには「ランダムに敵を攻撃する」など単純な命令しか組み込まれていないため、強敵に勝つのは難しい。
敵を倒すと様々な命令が手に入る。これを上手く組み合わせることで「味方のHPが低い場合は回復し、そうでないなら自分の身を守る」など、状況に応じた複雑な戦略をプログラミングできるのだ。

実はこの「Algolemeth」、前回の「第1回GYAAR Studioインディーゲームコンテスト」に応募されたが、惜しくも落選している。しかし、その際のフィードバックを活かして再挑戦し、見事入賞をつかみ取った。

本作を開発するMedium-Rare Gamesは、ガンジー氏一人のチームだ。氏はゲームを作る夢を捨てきれず、脱サラして独学での開発を続けることに。途中資金が尽きてしまい、フードデリバリーで開発費を稼いでいた時期があった。
そうした中、ゲーム開発を諦める前に、自分の中にある一番面白いアイデアを形にしようということでスタートしたのが「Algolemeth」だ。
苦難の中で開発を続け、GYAAR Studio インディーゲームコンテストへ再挑戦したガンジー氏に、ゲーム作りへの情熱について聞いた。


■「ゲーム開発を辞めなければならないかも知れない」と覚悟して作った渾身の一作で入賞を勝ち取る


――入賞おめでとうございます。「Algolemeth」は2023年と2024年のBitSummit(※)に出展されていますね。2023年には個人出展、2024年には「GYAAR Studioインディーゲームコンテスト」の受賞サポートとしての出展でしたが、それぞれいかがでしたか?

※BitSummit
毎年京都で開催されている、日本最大級のインディーゲームイベント。
国内外からインディーゲーム好きな方や開発者たちが集まる。
GYAAR Studioインディーゲームコンテストも受賞作を展示している。

🔸ガンジー:個人出展では準備から設営まで全て自分でやらないといけませんでしたが、2024年は全てお任せすることができました。受賞を実感することができましたし、出展に掛けていた労力を開発に回すことができたのが嬉しかったですね。
現地では海外のユーザーさんからのフィードバックを専属の通訳者さんが通訳してくれたのもありがたかったです。後編でお話するダンジョンマップのフィーチャーは、こうした受賞者サポートのおかげで取り入れられたものになります。

――開発に集中できた上、言葉の壁がある海外ユーザーの意見も取り入れることができるなど、色々なメリットがあったわけですね。では、ガンジーさんのゲームの原体験について教えていただけますか?

🔸ガンジー:初めてゲームに触れたのがいつになるのか、もう覚えていないんですよね。物心ついた時からファミコンが家にあって「ドラえもん」のゲームを遊んでいたので、常に自分の身近にあるものという感覚です。

――ゲーム開発を職業にしようと思ったきっかけは?

🔸ガンジー:こちらもはっきりした記憶がないんです。ゲームが一番の趣味だったので、自然に「将来はゲームを作って生きていくんだ」と思っていました。
プログラミングの勉強はしていたものの、就職したのはゲーム業界ではない会社でした。夢を諦めきれずに6年ほどで会社を辞めてその後7年専業で開発をし、今は会社員と兼業の状態です。「Algolemeth」の開発は2021年にスタートし、現在に至るという感じですね。

――会社を辞められた後は、どうやって収入を得ていたのでしょう?

ガンジー:会社員時代に貯めた貯金を切り崩していましたね。スマートフォンのゲームを出していたものの、コンスタントに収入を得るところまでは至らず、3年ほど前に貯金が完全に尽きてしまいました。その後はフードデリバリーの仕事をしつつゲーム開発を進めていた状態です。

――ゲーム開発とフードデリバリーの仕事を掛け持ちしていたわけですね。

🔸ガンジー:その頃は自分の人生はほぼ終わったと思っていたんです。ニートといえば逆に聞こえがいいくらいで、ほとんど外にも出ずに過ごしていましたから。そうした中でも、上手くいくビジョンも見えないままにゲーム作りだけは続けていた状態だったんです。
でも、フードデリバリーの仕事は意外と楽しくて、続けていくことでポジティブな気持ちになれたんですね。チップをくれる方もいましたし、色んな方とコミュニケーションを取れたことで、社会との接点を作り直せた感がありました。こうして前向きな気持ちになれたからこそ、再就職することができ、今こうしてゲーム制作を続けられているんだと思います。

――これまでに制作されたゲームと比べると、「Algolemeth」は色々な点で違っているという印象を受けました。それまでは「家具クライマー」などカジュアル向けだったものが、「Algolemeth」ではRPGとプログラミングを組み合わせたディープな内容で、ご自身の趣味性が強く出ている感があります。「Algolemeth」の世界観はどのようにして決まっていったのでしょう?

※「家具クライマー」
宙に浮かぶ家具を飛び渡って先へ進む。1週間でゲームを作る「Unity1週間ゲームジャム」で開発され、後にスマートフォン版も配信された。
スマートフォン版では、アプリストアからのリジェクトや、ゲームメディアへのプレスリリース送付など、様々な学びがあったという。
https://medium-rare.jpn.org/archives/category/works/%E5%AE%B6%E5%85%B7%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%BC

🔸ガンジー:自分がゲームを作る際は、制約から物事を考えることが多いです。Algolemethの世界観については、プログラミングがテーマなのでSFなども考えましたが、手持ちの素材はファンタジー系のものが多かったので、作りやすさの面でファンタジーを選択しました。その上でゲーム画面をモノクロとしたのは、色々な素材集を組み合わせて使うためです。素材から色をなくした上でピクセルアート風のエフェクトをかけることで、異なる素材同士の画風の違いを吸収し、統一感を出す狙いがあります。このように、現在のリソースから逆算して出来る最高の表現は何かを考えるのは、個人制作において大事なことだと思っています。

――ゲームデザインもユニークですよね。敵から手に入れた命令を組み合わせ、ゴーレムたちの自動行動を設定していく。

🔸ガンジー:「剣の街の異邦人」(※)というRPGを遊んでいる際、「プレイを全自動にできたら面白いんじゃないか」と思ったのがきっかけです。同じ敵が出てくると毎回同じコマンドを入力することになりますが、戦闘を自動化し、HPが一定値を下回ったら自動で帰還してくれるなど、行動の全てをプログラムできれば面白いんじゃないかと思ったんです。

※「剣の街の異邦人」
2014年に発売されたRPG。冒険者を率いて3Dのダンジョンを冒険する。

――ゲームのプレイ自体をゲームにするというのは面白い発想ですね。

🔸ガンジー:アイデア自体は結構昔に出たものですが、開発に取りかかったのは2021年になってからでした。というのも貯金は枯渇した上、ゲーム開発の実績も出せていなかったため、もう限界ではないかと思ったからです。
もし、ゲーム開発を諦めるとしても、最後に後悔しないものを作ろう。それなら、ストックしておいたアイデアの中から一番面白そうなものを作りたいし、これでダメなら自分には才能がないということで諦めもつくだろうということです。

――ゲーム開発を辞めなければならないかも知れない、と覚悟して作った渾身の一作が成果を出せたということですね。「Algolemeth」の開発中も大変だったのではないでしょうか?

🔸ガンジー:そうですね。開発や生活するための資金もあまりありませんでしたし。プレッシャーはありましたが、逆にそういう状況の時は本当にいいアイデアが出るものなんです。

――気持ちの入り方が違っていたわけですね。

🔸ガンジー:それまでのゲームは自分が今ある技術で実現できるものでした。でも「Algolemeth」は自分の能力をひとまず横に置いて、とにかく表現したいことを表現していこうと思って作ったんです。
とはいえ、今までのゲーム作りが無駄だったかというとそんなことはありません。プログラミングのテクニックも上がりましたし、ゲームジャムに応募したり、アプリストアに置いてプレイヤーさんからのフィードバックをいただいてきたからこそ、「Algolemeth」の開発もちゃんと回っているんだと思います。

――「Algolemeth」は、前回のGYAAR Studioインディーゲームコンテストにも応募され、その際は惜しくも落選されたとのことですが、再び応募を決めた理由は?

🔸ガンジー:落選を通知するメールに、ちゃんとプレイしていただいたからこそできるフィードバックが書いてあったことですね。当時は200以上ものゲームが応募されてきたはずなのに、ちゃんと自分のゲームを見てくれたんです。

――200以上も送られてきたゲームの一つ一つに丁寧なフィードバックがあるというのもすごい話ですね。

🔸ガンジー:他のコンテストにも応募して落選したことはありますが、ここまで丁寧なフィードバックをいただいたことはありませんでした。たくさんの応募があるので仕方ないとはいえ、中には汎用テンプレートのような一文だけが送られてくる事もあり、それを読むと結構がっくりきてしまうのですが、そんな中でGYAAR Studioさんの対応はメールの先に人が見えるようで、励みになりましたね。
加えて、「同じゲームで複数回応募しても大丈夫」という話も聞いていました。落選した後も「Algolemeth」を2023年のBitSummitに出展して色々なメディアから高評価をいただいたり、BSテレビ東京の取材を受けたりといった実績も積んでいましたので、再応募を決めたんです。

――兼業での開発となると、特にコンテストの締め切り直前は大変だったのではないですか?

🔸ガンジー:2回目に応募した際は、応募する資料を一生懸命作っていました。1回目の応募では取り澄ましたよそ行きの文章というか、面白みのないものになってしまったんですが、2回目は自分のパーソナルなところを取り入れました。例えば「一時期は仕事もない状態でゲーム開発を続けていました」とか、「『Algolemeth』はメディアに掲載されたし、TVにも出演できた。『Algolemeth』が人生を変えてくれた」といった感じですね。

第1回GYAARCon応募時の企画書
第2回GYAARCon応募時の企画書

――もしかしたら2回目の資料の方が心に響いたのかもしれませんね。

🔸ガンジー:インディーゲームで最終的に残るのって、作り手のパーソナルな部分なのではないかと最近は考えています。開発が始まるのも「こんなゲームがあればいいのに」という作り手の欲求からですし、ゲームの内容にも作り手の経験が反映されますから。

(後編へ続く…)

※『後編』では、
「Supercellツアーで学んだゲーム開発で大切なこと」
「ゲーム開発の専業から兼業へ、シフトしてみて感じたメリット」等をお話いただきました!

▼作品紹介:Algolemeth
「AIを作り、迷宮を踏破せよ。」
Algolemeth(アルゴレメス)はAI(戦闘ロジック)を搭載したゴーレムを迷宮に送り出し、全自動で攻略を行うダンジョンRPGです。
一度迷宮に足を踏み入れたら、あなたにできるのは見守ることだけ。
AIを強化し、トライ・アンド・エラーを繰り返して、迷宮の踏破を目指しましょう!

「Algolemeth」紹介ページ

Steamストア:Algolemeth

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