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映画「落下の解剖学」を観た感想と「先入観」について

自分でも気付かないうちに、先入観を持っていたことに気づいた

「落下の解剖学」というタイトルを、自分は単純に「死因を特定するための解剖」としか捉えていなかった。でもパンフの内容を見るとその意味だけでなく、いろんな意味を含めての"落下"だと書いてある。

これは自分の読解力の問題だけど、映画を観ながら、そこまでタイトルから映画の中で描いているものを深読みすることはできなかった。

特に最近の自分は物事を単純に考えようと心がけている。今の世の中は関連のないものでも、「もしかしたらコレのせいでアレがこうなってるんじゃない?」という”憶測”が、時としてあたかも”真実”かのように語られることがある。正直それに辟易しているので、他人の憶測については極力目にしたくないし、だからSNSも必要最低限しか見ないようにしている。

それが逆に自分の感性や想像力に制限をかけてしまっているのであれば、映画好きとしてはちょっと考えものだなと思った。映画はもっと楽しみたい。だから自分で”落下"の意味も気付けるようになりたい。

※以下ネタバレを含みます。

出来事は意外とシンプル。でも過程と解釈がものすごく複雑。

あらためて起こったことを思い出してみると、出来事自体は割とシンプルな作品であることに気付かされる。

夫が不審死し、母親に殺人の疑いがかかり、目の不自由な息子の証言と現場に残された少ない証拠だけで裁判をする。ただ証拠が不十分であるがゆえに、いろんな立場の人間の現場検証や、父のメンタル疾患の主治医の意見や、サンドラの過去の不貞行為の暴露、夫がこっそり録音していた夫婦喧嘩の記録などが順番に出てくるが、結局は決定的な証拠にはならず推測で裁判が進む。最終的には息子のダニエルと父との昔の会話から、母親は一応無罪になるという話。

こう書くとシンプルだが、ワンシーンワンシーンが濃厚。そして徐々に暴かれる嘘や裏の顔が想像の域を超えていて、迫真の演技にただただ圧倒される。なんといってもサンドラ役のザンドラ・ヒュラーさんがすごい。スクリーンを通して彼女の”パワー”に圧倒されそうになる。

サスペンスとしてみると、”真実”を求めてしまうが、そこじゃなかった

結局”真実”としてどうだったのか?は明確にならない。

そこはモヤる。どうしても「落下の解剖学(Anatomy of a Fall)」というタイトルの通り、解剖学を駆使して”真実を突き止める映画”だという先入観と期待があった。でもそうじゃなかった。観終わった後に、映画として描きたいのはそこじゃないんだろうと思った。

ダニエルは「もう傷ついてる、だから前に進むために知りたい」といって傍聴席ですべてを聞く。裁判を通して、だんだんと明るみに出る家族の真実。サミュエルの父としての姿と一人の男としての姿。息子のダニエルにはそれまえ知り得なかった両親の一面。母はバイセクシャルで、不貞行為を行っていたこと。父の死の前日の激しい口論。それを知ったうえで、勇気を持って最後の証言台に立つダニエル。

父の死から1年経って、前に進もうと勇気を出しているダニエルがすごい。というか、両親のそんな衝撃的な事実を知るって、少年にとってどれだけの苦難なんだろう。自分が同い年だった時に同じ体験をしたとして、前に進める気がしない。きっと大人が何とかしてくれるって、他人任せにしてたと思う。

法廷での裁判を通して、家族のあり方、ダニエルの成長、それぞれの立場と"それぞれにとって都合のいい真実"っていうのを描きたかったのだろうか?と今は思っている。

フランスの裁判ってあんな感じなの?

なんとなくだけど、今まで自分が見てきた法廷モノって、もっと厳粛というか、ちゃんとした裏付けがあって"明確”なものをもとに進めるっていうイメージがあった。

でも本作では何度も”主観的な憶測”が飛び交っていて、裁判ってそんな感じだっけ?と不思議に思った。状況証拠、物的証拠は”事実”としてあるとして、そこからの推測をけっこうゴリ押ししてる感じがするし、検察側はなんとかしてサンドラを殺人犯にしたいっていう印象だった。結構好き勝手話してるというか。詰め寄り方も圧迫感が半端ない。

裁判って本来そんなもんなんだろうか。映画の冒頭で「私は殺してない」というサンドラに対して弁護士のヴァンサンが「それは問題じゃない。どう見えるかだ」って言ってたのもそう。

”真実”がどうであれ、被疑者側は無罪になることが目的で、検察側は有罪にすることが目的。自分たちの都合の良い方に事を進めようとしている感じがして、すごく気持ち悪かった。

じゃあどこに”正義”はあるんだろう? 正義なんて言ってるのは甘っちょろい事なんだろうか。

ラストの終わり方と、"実は・・・”みたいな話を知るのは面白いかも

結局本当に自殺なのか、サンドラが殺したのかは明確にはならない。その分からない部分を想像で補完して、実はこうだったのでは、っていう内容がパンフに書かれていた。もちろんあくまでその文章を書いた人の想像であることも明記されてる。

パンフに書かれていた内容も面白かったので、自分は深読みが苦手なので、ぜひ考察勢の”妄想”を拝見してみたい。

サミュエルとサンドラ、どちらの立場にも共感はできなかった

サミュエルは心を病んでいたとはいえ、ちょっとあまりにも自分都合でしか考えてない感じがしたし、サンドラはサンドラで浮気を開き直ってる感じとか、家族に対して非協力的だったりとかの部分が好きになれない。家族問題は家族の数だけあると思うのでよくある話とも受け取れるが、なんでこんなに悪化するまで対処しなかったの?とは思った。

それこそ海外の映画ではよく夫婦でセラピーに通ったりしてるシーンがでてくる。(日本ではあまり聞いたことはないけど。)第三者に話を聞いてもらって、最悪の状況になるまえに手を打つっていうのは大事だよなとは思った。これは家族関係だけでなく、職場の人間関係でもそう。

スヌープ(犬)の演技すごすぎる!

最近見た映画「DOG MAN」に引き続き、本作でもペット(盲導犬?)のスヌープが活躍する。

めちゃくちゃすごい演技だなと思ったのはアスピリンを飲んだ時のシーン。あんなベロをダランと垂らして、気絶してるような演技がなんでできるの???
どうやったらそんなことを教えられるんだろう。ここでもまたドッグトレーナーの凄さを感じた。

映像の撮り方がちょっと独特?

印象的だったのは、話をしている本人ではない登場人物にカメラを向けているシーンが多い気がした。例えば証言台に立ったダニエルを映しているが、会話はそのほかの検察や弁護士がしていて声だけが聞こえるとか。話を聴いてる側にカメラが向いてることが多いなと思った。聞き手の表情を写すことで、その会話の熱量を伝えようとしているのだろうか。なんだか不安になる撮り方だなと思った。

まとめ

自分の感情としては、冒頭にも書いたように”事件の解決”を求めてしまっていたので、分からないまま終わってしまったのがすごくモヤったが、これは自分の反省点だなと思った。

ちょっと近いなと思ったのは、「マダム・ウェブ」の時もプロモーションの「マーベル初の本格ミステリー・サスペンス」っていう謳い文句にまんまと騙された。マダム・ウェブは全然「ミステリー」ではなかったから。(あれは日本のプロモーションにミスリードされたと思ってる)

本作は特ににミスリードだったとは思わないけど、自分としては”真実が分からない”なんて結末があるとは思ってなかった。そういう先入観は映画を見るうえで良くないなっていうのが今回の反省。

(余談) パンフレットのデザインが素敵。雪と血の配色に見える

「落下の解剖学」のパンフレットの表紙

写真だと分かりづらいかも知れないが、パンフレットの表紙はサラサラで、
すこし凹凸がある紙質。真っ白でもなく薄く青く見える角度があったりする。(錯覚?)そこに型押しの正方形の凹みがある。

まるで新雪の上に正方形の何かを押しつけたようなデザイン。
そこの下のエリアに赤い文字で「ANATOMY OF A FALL」と書かれている。その赤はきっと血の色なんだろうなと思った。

少し前までパンフレットを買うことはなかったが、去年あたりからは面白かった映画のパンフレットは買うようにしている。そしてデザインが素敵だとすごくテンションが上がる。(一番は「BLUE GIANT」のレコードを模したパンフレット。最高。)

2時間ぐらいの映画だけど、パンフレットを読むこと更に2時間楽しめるし、このアウトプットの時間で更に3時間ぐらい楽しめる。そしてYouTubeやNoteやFilmarksのレビューなどでそれぞれの解釈などを知ってさらに視野を広げる。単純な娯楽作品もいいけど、本作のように考えることがいっぱいある作品は、普段使わない脳を使ってる感じがする。

そう考えると、映画ってなんてコスパのよい遊びなんだろうと思う。


関連情報

公式サイト
https://gaga.ne.jp/anatomy/

公式X(Twitter)
https://twitter.com/Anatomy2024

Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/落下の解剖学

Filmarks
https://filmarks.com/movies/109465

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