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地理・歴史学

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人の価値観は、外的環境に大きく影響されます。地球全体に関して時間軸・空間軸双方から、どのような環境のもとで我々が今ここにいるのか?解明していきたいと思っています。
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#推薦図書

なぜ出汁は日本の水がいいのか?『「美食地質学」入門』より

<概要>地球科学&気候学&生物学の裏付けに基づく植物相・動物相を踏まえた日本各地の美食を支える各種食材&料理を解説したマグマ学者の著作。 <コメント>本書は、食べ歩きと地理学が大好きな私の興味とドンズバ一致する著作で、複数回に分けて紹介したいと思います。 まずは日本の出汁について。 ⒈料理を美味しくする三つの旨み成分とは?以前ミシュラン二つ星の某和食屋の料理長と話した時に、彼曰く、 と言っていたことを思い出します。すでに彼はこの店を辞めてしまいましたが、この言葉がまさ

「徳島の風土」日本一低い自殺率の町『生き心地の良い町』岡檀著

<概要> ある意味日本一自殺率の低い町「徳島県旧海部町」と他の地域を調査・比較しつつ、自殺予防に効果のある因子を抽出して、自殺予防対策への一つの回答を生み出した著作。 <コメント> 以前、統計学YouTuberのサトマイの以下動画で彼女が紹介して面白そうだったので、早速購入・読了したのですが、これは自殺防止にも当然役に立ちますし、人間の本質的な特性を垣間見ることのできる必読の著作です。 ⒈徳島県旧海部町とは?実は今は海部町はありません。旧海部町(以降「海部町」)は、県南端

「京都の風土」聖と俗が織りなす京都の歴史

京都の風土を勉強するにあたり、とても参考になったのが、宗教思想家梅原猛が、読売新聞→京都新聞で6年2ヶ月の長きにわたって連載したコラムをまとめた単行本『京都発見1〜9』全9冊。 著者自身『京都発見9』最後の寄稿で「黄檗宗の萬福寺と日蓮宗までたどり着けなかったのは誠に残念」とのことですが、70歳を過ぎて、80歳に至るまで毎週、文献を読んでフィールドワークしてインタビューして文章にまとめて、という作業を6年ちょっと続けてきたわけですから、本当にお疲れさま、というしかありません。

「熊野から読み解く記紀神話」 書評

<概要>「すみっこ」という意味の隈の場所「熊野」を題材に、熊野に縁を持つ研究者、小説家、地元の活動家などが持ち寄った熊野にまつわる日本神話・民話の世界を紹介した著作。 <コメント>先日、早稲田大学のオープンカレッジで、池田雅之先生が主催する講座を聴講したきっかけで読ませていただきました。 本書の中でも尾鷲出身の池田先生のほか、熊野市文化財専門委員長の三石学さん、作家の中上紀さん(中上健次の娘)など、熊野にゆかりの深い方々がそれぞれ、自分のテーマを持ち寄って書かれています。

「反穀物の人類史」穀物によって人間を家畜化した国家

⒈穀物の人類史今回は「人間の家畜化」のもう一つのパターン 原初国家における、人間(支配者)による人間(被支配者)の家畜化 について。 本書タイトル「反穀物の人類史」とは、我々が普段慣れ親しんでいる国家を主体にした歴史を「穀物の人類史」とし、その裏には「反穀物の人類史」があった、という意味。本書タイトルの「反穀物の人類史」に関しては、また別途展開するとして、今回は「穀物の人類史」の方を紹介。 国家誕生には穀物がキーになったといいます。穀物によって人間(支配者)が人間(

「反穀物の人類史」 文明誕生の新説

<概要>初期国家発生の要因とその目的に加え、AD1600年代までのメジャーな存在だった「不在のリヴァイアサン」(=遊牧国家含めた無国家民)と国家の並行進化について紹介するなど、定説をことごとく覆す、驚きの書籍(2019年12月出版)。 <コメント>2年前に出版されて話題になっていた本書、やっと通読。歴史を地球科学的・考古学的・生物学的・人類学的視点(=ディープヒストリー)から組み直すことで、新説を大量生産。いっぺんに全部紹介すると大変なことになるので、分割して展開したいと思

「日本列島100万年史」 九州編

「日本列島100万年史」シリーズの最後は「九州」。といっても本書で扱っているのは南九州というか、ほぼシラス台地だけです。 ■南九州のシラス台地が「平ら」な理由 南九州で最も地形史に大きな影響を及ぼしたのは「シラス台地」。 シラスとは、 白い軽石やガラス質の砂で構成されたカルデラ形成を伴う巨大火砕流が流下して堆積した火山噴出物。 南九州、特に鹿児島県で有名なシラス台地は、約3万年前に姶良(あいら)カルデラ(=鹿児島湾)の大噴火で噴出した入戸(いと)火砕流で形成。3万年前

「地形の思想史」 原武史著 書評

<概要> タイトルが小難しい印象にもかかわらず、内容はやさしくてかつ面白いので一気に読めてしまうエッセイ集。地形をテーマにしつつもそれぞれの土地を実際に訪れて土地土地にまつわる歴史的テーマを深掘りするので「あの土地にそんなことがあったんだ」的発見があって我々読者も、思わずその土地を訪れてみたくなってしまうという書籍。 <コメント> 私の生まれ育った実家(千葉県船橋市海神)も、「海神」という神話発祥っぽい地名が、ヤマトタケルとその妃オトタチバナにまつわる記紀神話(古事記&日本

古事記神話入門 三浦佑之著 書評

<概要> 50年以上古事記を研究してきたという著者が、古事記の上中下巻のうち、神々の物語を扱う上巻を対象に原文の口語訳と共に解説した入門書。 <コメント> 神話なので、あくまでフィクションですが、大枠の日本の成り立ちを仮説としてイメージするには、きれいに整理されているなあと思います。 ◼️垂直的世界観 天孫(ヤマト)民族に興味を持って、それなら古事記ということで、専門家による入門書を読んだんですが、天孫民族というだけあって、大本の神話の構成は、上下の垂直(天地)関係で構成

ギリシア人の物語Ⅲ 新しき力 書評

<概要> 著者最後の歴史エッセイ、ギリシア人の物語「新しき力」は、ギリシア都市国家の衰退状況とマケドニア、アレクサンドロス大王の歴史の物語。アテネの敗退以降スパルタからテーベに至る都市国家の移移り変わりとマケドニア フィリッポス王とその息子アレクサンドロスによるアケメネス朝ペルシャ征服のための大遠征紀行をローマ人の物語同様の熱情でありつつ冷静な視点で俯瞰した大歴史エッセイ。 <最後の塩野作品に関するコメント> 個人的には感無量の読了。塩野七生さんの著作をひたすら読み続けてき

明治政府によって創造された天皇制

天皇と儒教思想(小島毅著)読了。 日本という近代国家(=ネイションステイト)は、明治政府によって創造されたもの。そして「日本」という概念に国民をフォーカスさせるその手段として天皇制・神道を活用。 実は奈良時代から天皇家の宗教は仏教であって、長い間、神仏が一体化していたのだが、神仏が一体化していてはフォーカスされる被写体がぼやけてしまうので、よりピントを合わせるべく、明治政府は神仏を分離して廃仏毀釈をして、神道をより純化させた。 神道を純化させるにあたって、中国発祥の