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地理・歴史学

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人の価値観は、外的環境に大きく影響されます。地球全体に関して時間軸・空間軸双方から、どのような環境のもとで我々が今ここにいるのか?解明していきたいと思っています。
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2024年3月の記事一覧

中世ヨーロッパとユダヤ人

『物語ユダヤ人の歴史』より、中世ヨーロッパのキリスト教世界(9世紀→16世紀)における、ユダヤ人(とその社会)について紹介したいと思います。 ⒈アシュケナジムの起源一般に今に生きるユダヤ人は、ドイツ・東欧系の「アシュケナジム」とスペイン系の「セファルディム」に大きく分かれると言われます。 この2系統のうち、アシュケナジムの起源については、地中海世界各地に自主的ディアスポラしていたユダヤ人のうち、当時ビザンチン帝国領のシチリアと南イタリアに移住したユダヤ人が起源。 彼らは

古代ローマ帝国とユダヤ人

古代ローマ帝国時代に関しては、宗教的にはキリスト教国教化を境界線として整理する必要があるように感じますが、ここでは、キリスト教国教化以前、特にカエサル(BC100ー44)の時代から主にユダヤ人の強制的な「ディアスポラ」となったハドリアヌス(AD76ー138)までのユダヤ人社会を対象にします。 ⒈唯一ローマ人に抗った民族=ユダヤ人古代ローマ帝国の征服民に対するスタンスは寛容な同化政策であって戦前の大日本帝国が日本語を強制したような中国人や韓国・朝鮮人に対しておこなった完全な同

ユダヤ人とユダヤ教の関係とは?

以下著作『物語ユダヤ人の歴史』のほか、 『ユダヤ人の起源(シュロモー・サンド著)』『ローマ人の物語(塩野七生著』も読むと「ユダヤ人=ユダヤ教ではない」ということがどんどん明らかになってきます(そうは言っても、もちろんユダヤ教徒の大半はユダヤ人ですが、ユダヤ教徒でないユダヤ人は多数)。 それでは「ユダヤ人とは誰か」と問えば『物語ユダヤ人の物語』著者レイモンド・シェイドリンによれば、それは厳密に規定できるはずもなく「ユダヤの歴史を共有する人たち」という程度でいいのではないか、

イスラーム世界のユダヤ教『物語ユダヤ人の歴史』より

引き続き『物語 ユダヤ人の歴史』より、7世紀のムハンマドを始祖とするイスラーム教の拡散から20世紀のオスマン帝国滅亡までのイスラーム世界における、ユダヤ教の状況について紹介。 ⒈イスラーム世界では、ユダヤ教は同じ一神教の仲間イスラーム教は、ユダヤ教→キリスト教→イスラーム教の順序で、一神教がバージョンアップしてきた最新の一神教、というように自分たちを位置付けていたので、ユダヤ教・キリスト教に対しては、同じ神の啓示を受けた聖典をもつ一神教の仲間として敬意を払っていました(「ア

ユダヤ人の起源とディアスポラ『物語 ユダヤ人の歴史』より

<概要>ユダヤ人の歴史について、発祥から各地域におけるユダヤ人社会の状況とその地における同地人との関係性、そして現代に至るユダヤ社会の状況について概観するにはちょうど良いボリュームの著作。 <コメント>アフリカに引き続き、今年(2024年)の私の勉強テーマは、ユダヤ教&ユダヤ人なので、まずはユダヤ人の歴史をコンパクトにまとめた2003年出版(原書出版1998年)の本書を手に取ってみました。 一神教に関しては、2年前にイスラームから勉強を始めたこともあって、ユダヤ人の苦難の

なぜアフリカは中国を歓迎するのか?『アフリカを食い荒らす中国』 読了

<概要> アフリカ大陸における中国進出の実態を実際にアフリカ諸国を取材して紹介したフランス人とスイス人ジャーナリストの共著。ちなみに本書の日本タイトルは本書内容とはだいぶ印象が異なる。本書は善悪の視点がだいぶ排除された、より客観的な内容。 <コメント> 日本語タイトルがひどいので困ったものですが、内容的には至って真っ当な2008年出版のノンフィクションです。 ちなみに中国はひどく「食い荒らしている」わけでは、ありません。「食い荒らす」という視点でいうと、500年前の奴

「アフリカの風土」西アフリカにおける南北問題とは?

西アフリカの悲劇は、文化圏の違う北の内陸部(イスラーム圏)と南の沿岸部(キリスト教圏)を分断するように、欧州列強の植民地化によって国境が恣意的に区切られてしまったことです。 西アフリカの北部=内陸部はニジェール川流域で、16世紀にヨーロッパがサハラ以南に進出するずっと前の、7世紀後半からイスラーム文化が西アフリカ北部(=サハラ砂漠の南端=サヘル地域)に浸透していました。 一方でヨーロッパが進出した西アフリカ南部=沿岸部は、数百年続く奴隷貿易の舞台となりつつ、19世紀に始ま