いろんな意味で話題の画像生成AIを安全で安心に利用して「全員でゲーム開発する」に役立ててみた話
平素よりお世話になっております。
ゲームクリエイター兼代表取締役社長、魔剣機関魔術局長、およびハイパードラゴニックエグゼクティブプロデューサーの神谷です。
やたらに長い肩書ですが、現役で現場でゲームをつくる人とゲーム会社を経営する人をやっています。
さて、みなさまは「画像生成AI」をご存知でしょうか。
多くの名画やイラストを人工知能が機械学習し、人間の "こういう絵がほしい" というメッセージをもとにイラストを自動生成する仕組みです。学習元のデータの扱いなど、様々な点において賛否ある技術であります。
結論ファーストで、当社の立場と考え方をお伝えしますと、
です。
出自が怪しい学習データから生成されたイラストを販売したり、他所様の版権など権利を侵害するような使い方はしません。違法性のあるものは当然として、人間が描くことで生み出される価値が重要であると考えておりますし、機械には至れない領分があると信じているからです。
我々は、直接的な商業への利用ではなく、画像生成AIの技術を開発工程で利用することでゲーム開発に役立てられるのではないか、というスタンスです。
本日は、画像生成AIをいかにゲーム開発に、特に「全員でゲーム開発する」に役立てたか、を実例を交えてお話させていだきます。
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さて、突然ですが、テストちゃんこと「テストあああああ文字数ここまで」というキャラクターをご存知でしょうか。
当社のタイトル『ブレイブソード×ブレイズソウル』の、2021年のエイプリルフール "制作途中のキャラクターが暴れまわる" という事件の登場人物です。ラフイラストのまま本作世界を飛び回り、他キャラの服レイヤーをオフにしたり、好きなBGMを流したりと好き勝手にやってくれました。
傍若無人な美少女に振り回されるのって何歳になってもいいものですよね。
このテストちゃんは、実は大量にある没キャラ案の中の1つでした。偶然エイプリルフールネタを探す開発メンバーの目にとまり、実装に至ったキャラクターです。
そんなテストちゃんには妹がいます。
名前をダミーちゃんと言いまして、こんな子です。
実は、この子の開発に画像生成AIが関わっています。
もちろん、このイラストは画像生成AIではありません。当社のイラストレーターが描き下ろした新規イラストです。表情差分や進化差分などもあり、めちゃくちゃかわいい自慢の子です。
このダミーちゃんの実装、つまりゲーム開発にどのように画像生成AIをに活用したのでしょうか?
まずは画像生成AIの概要に触れ、その後に具体的な活用事例をお話いたします。"実は画像生成AIのことを詳しく知らない" という方も安心ですし、活用事例だけ!という方も目次からジャンプいただければと思います!
まとめ
画像生成AIを調査したけど、グレーな部分はやっぱりある
生成系AI技術には得意と苦手がある
絵が描けないクリエイターのアイデア可視化に効果がある
画像生成AIとは
2022年夏、イラストを自動生成する AI が彗星のごとく登場しました。
「呪文」と呼ばれる文字列を AI にわたすと、それに沿ったイラストをものの数分で何枚も生成できるのです。
その品質は日進月歩で、背景美術に特化したもの、美少女を専門とするもの、独自に学習させたものなど数多くに分岐し、そのひとつひとつが高い品質のものを作り出している現状があります。デジタルアートの品評会受賞作品がAI生成のものであり物議を醸すなどその品質はプロの目にも耐えうるものになりつつあります。
一方で、画像生成AIは既に存在する誰かが描いたイラストを学習元データにしており、この仕組みが過去のクリエイターを侮辱するものではないか、違法に集められた学習元データから作ったイラストもまた違法性があるのではないか、といった批判や、AIが制作したものを絵と認めて良いのか、などなど様々な賛否があり今も議論されています。
ゲーム会社としての視点で見ると、怪しい出自の学習データを利用することや、AI生成されたイラストを会社の版権として商業利用することに関しては、倫理的な側面はもちろん(私は法の専門家ではないので白黒の明言は避けますが)法の観点でもグレーゾーンがあることは否定できません。
AIの得意なこと、苦手なこと
環境を自社内に構築したり、社内制作物かつ製作者の許可を得たものを用いて機械学習を試してみるなど、いろいろと調査していく中で画像生成AIの得意と苦手が見えてきました。
画像生成AIは「お絵かき宇宙人」みたいなもの
地球に来たことないし人間も知らない
たくさん見た絵を思い出しながら雰囲気で描いてる
イラスト技法や理論、理屈は1ミリも知らない
ぜんぶ感覚で描いてる
地球語もわからない
Google翻訳のような "宇宙人翻訳機" をつかって
人間の「これ描いて」という命令(呪文)を解釈してる
数を出すのはすごく得意
同じお題で何十枚も何百枚も作れる
全てがすごく高品質というわけではない
絵が描けない人の話を聞くのは得意
理屈や理論に触れてこなかった人でも、"宇宙人翻訳機" が優秀なので
それらしいものを作れる
商業に出せるものを作るのは苦手
さまざまな面で商業利用できるレベルにするのは難しい
簡単な壁紙テクスチャなどなら可能性あるかもしれない
アイデアの研鑽は苦手
生成したものの自己評価がそもそもできない
宇宙人なので、人間目線の良し悪しがわからない
なので、アイデアの改善やブラッシュアップを手伝えない
次はこうしてみたらどう?とは言ってくれない
利用する人間がアイデアを研鑽をしないといけない
わざと曖昧かつ複雑に命令を出して宇宙人を混乱させ、
アイデアを改善しているように "見せる" ことはできる
作家性や個性を出すのは苦手
お絵かき宇宙人自体には作家性や個性はない
知ってる絵を知った風に描いてるだけ
利用する人間が作家性や個性を指示しないといけない
地球や人間のことをよく知らないから、たまに突飛なことをする
それが創造性に見えるけど、子どもたちの絵のような
"知らないから描けちゃう世界観" に近い
将来、技術改善、あるいは規制が進み、上記と全く違う状況になっているかもしれませんが、その時は歴史の1ページとしてご貴覧ください。
生成系AIの実用事例:キャラクターアイデア出し
当社のゲームクリエイターには、絵が描けないけど面白いアイデアはたくさん出せる人物が多くおります。
グリモアの武器は『大真面目に悪ふざけ』することです。
突飛で新しい発想を歓迎する当社にとって、アイデアを可視化できず、伝えられず、日の目を見ないことは機会損失になっていました。
そこで、生成AIの "絵が描けない人でも使えて数が出せる" という特徴を安全で安心に利用することで、この課題解決ができないかと考え、画像生成AIの利用OKのアイデアの可視化を前提としたキャラクターアイデアの社内コンペを開催しました!
当社では度々キャラクターにかぎらず様々な社内コンペを開催しているのですが、絵が描けないクリエイターには参加ハードルが高く、可視化さえできれば……と苦汁をなめることも少なくありませんでした。
画像生成AIを利用してキャラクター案の "アイデアの可視化" ができるのであれば、今まで埋もれていた発想なども発掘できるかもしれません。
使用する学習モデルやAIサービスは、出自の怪しいものは使わず、商用利用可能なもののみとし、あくまでも用途はアイデアを可視化することに限定する、と決めました。
また、社内のクリエイターに向けて画像生成AIがもたらす恩恵とリスクを説明し、理解を得た上で開催しました。
やってみてわかったこと
良いことだけでなく課題も見つかりました。
アイデア研鑽の速度が上がった
思っても見なかったアイデアが生成中に生まれた
案を聞く側が、売りとなるポイントをイメージしやすくなった
AIが知らない概念やパーツ、構図や要素が生成できなかった
完成が想像できない、いつもなら他人に話さないような雑なアイデアも可視化でき、発想の可能性が広がった
絵が描ける人にとっては、描いた方がはやい部分もあった
思うようにAIに描いてもらうための新しいスキルが必要になった
特に、アイデア研鑽の速度向上と、案のイメージのしやすさ・伝わりやすさは強いメリットに感じました。プレイヤーに「感じてほしい萌え」や「こだわりポイント」がものすごくよく伝わるのです!
一方で、発想がAIが知っているものに閉じてしまうことは課題でした。
せっかくの新しいアイデアが "よく知るあるあるな感じ" に収束してしまうのは、わかりやすくなる一方でアイデアの良さが失われてしまうデメリットに感じました。
純粋なアイデア勝負に
数多くの新キャラクターアイデアが集まった中で、本作の現場プロデューサーが忖度なく選出した案を元に開発されたのが「ダミーちゃん」です。
すごく重要なのは、AI vs 人間のどちらが勝った負けたという話ではなく、コンペなどの場に誰でも参加できるようになったことです。
画像生成AIにより社内の誰もがアイデアを可視化でき、説得力をもって案を説明できるようになりました。今まで、自分が出る舞台ではないな、と身を引いていた職能のクリエイターも、積極的にアイデア出しに参加できるようになったのです。
私は、こういった取り組みを「全員でゲーム開発する」と表現しています。
「全員でゲーム開発する」こと
今回、画像生成AIを開発工程で利用してみてわかったことは、"絵が描けないクリエイター" にとって大きな変革かもしれない、ということでした。
ゲーム開発は複数人で1つの作品を作る仕事です。
様々な開発手法や哲学がありますが、当社では「なるべく多くの分野に、なるべく多くの人が興味を持ってほしい」という思いがあります。
全員でゲームを作ろうという意思です。
自分の分野が終わったらおしまい、ではなく、任される専門分野に軸足は置きながら全員で1つのゲームを作れたら最高じゃん!という哲学です。
当社は、小規模なデベロッパーですが、逆に小規模であることを武器と考えています。クリエイターが持つ個性や『大真面目に悪ふざけ』な思いをタイトルに活かし、やがてタイトルが個性をもち、悪ふざけをし、ファンの皆様に喜んでもらう、という戦い方には小規模さがメリットになります。
そんな当社ですから、せっかく考えた案が発掘されずに埋もれていったり、発表の機会があっても果敢に飛び込みにくい状況があるというのは、大きな課題でありました。
こういった背景から、画像生成AIを『アイデアの可視化に使う』という取り組みは、おそらく賛否あるかと思いますが、当社にとっては避けられない挑戦であったと考えています。
「全員でゲーム開発する」ための技術
グリモアのような会社にとって、Unity というゲームエンジンの登場は福音でした。Unity は専門のエンジニア以外でも直感的に利用でき、UIデザイナーや画面演出アニメーターらとともに開発できることは革命的でした。
また、Blender の登場も同様でした。3D空間的に説得力のあるパーツや物体を専門のモデラーでなくても制作できるため、いまや様々な業種で求められるスキルセットになっています。
こういった技術は、自身の専門分野でのアウトプットを強化するだけでなく、一歩外の領域に踏み込んで、みんなで一緒にゲーム開発する体制を手助けしてくれます。
これと同じことが、画像生成AIにも起きるかもしれない、と考えています。
ゲーム会社の経営者としては、画像生成AIにかぎらず「全員でゲーム開発する」の手助けとなる技術はどんどん取り入れ、もっと上手な利用方法を考えていくことが重要ですし、グリモアらしいのだと思っております。
中二病を救う
というわけで、我々グリモアは「中二病を救う」というビジョンのもとに、「全員でゲーム開発」しながら日夜あーでもない、こーでもない、とゲームを開発しております。
一緒にゲーム開発してドラマを生み出したい!
中二病を救う側になって、かつて自分がそうであったように中二病を救いたい!
と1ミリでも思っていただけたのであれば、偶然にも下部に配置されている採用ページをチラっとご覧いただけたらばこれ以上なく幸甚でございます。
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