虹、かかる
僅かに冷たい空気に、独特の匂いが微かに混じる。
きらめく透明な粒をまとった、細いあるいは丸い葉先が、その重みにしなり、揺れる。
落ちた水の粒を飲み込んだ足元が、緩やかに沈む。
やがてそれらは滲みて溢れ、小さな円を描き、緩やかに過ぎる風に震えるように波紋を生み出した。
ゆっくりと静かに、勢いよく朗らかに。
私は小さな水鏡の周りを歩いてゆく。日の光を映しては輝くそれは、とても神聖なのに儚いものに見えた。
時折り覗き込めば私の姿と、私を超えて葉先を、彼らを超えて白い裳裾を引いたような青い天上を映し出すのだ。
あまりにも青い色にふと、仰ぎ見る。
映し出されたそれよりもはるかに青く、つかまえどころのない高い高い空。どれほど手を差し出しても、つま先に力を込めて伸び上がっても、触れることは叶わない。
きらり。
燃え上がる鋼のような光に目を射られた。
視界がゆらめき、青が私を覆ったその時、七色の輝きが天上にかかった。
ぱしゃり。
水鏡が割れ、透明な薄い青が飛び散った。
あぁ、私は泳げなかったのだ。
2024/11/24