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-小説- うたたねのこぼれ種

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記事一覧

-小説- うたたねのこぼれ種 【1.ゆず】

-小説- うたたねのこぼれ種 【1.ゆず】

窓の外から、あいさつ、笑い声、名前を呼ぶ声、様々な声色が混ざり合って聞こえてくる。下校する声の波が、大きくなったり小さくなったりしながら、次第に遠く引いていく。僕は、その波の中にいるよりも、離れたところで聞いている方が好きだ。

ピアノの鍵盤の上で指が遊ぶ。指を跳ね返す鍵盤の感覚が心地いい。このピアノは、いつもにぎやかな声を聞いているからか、音がはっきりとしていて元気なピアノだなと思う。

放課後

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-小説- うたたねのこぼれ種 【2.いちご】

-小説- うたたねのこぼれ種 【2.いちご】

見上げた空はとても優しい色をしていた。遠くに雲が薄く浮かんでいる。シンの店「珈琲と音楽 うたたね」のそばにある川は今日も静かに流れていく。開店前に店の周りを散歩して、庭の様子を眺めるのがシンの毎朝の日課だ。朝の空気をしっかりと吸いながら歩いているうちに、体が起きてくる。

庭のハーブに引っかかった枯れ葉を集めていると、かすかにいい香りがしてくる。指に触れる朝露が心地よく、不思議と指先が温まってくる

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-小説- うたたねのこぼれ種 【3.ヤマモモ】

-小説- うたたねのこぼれ種 【3.ヤマモモ】

昨日一日来なかっただけで、店には静寂がしっかりと詰まっている。昨日は、父親の病院への付き添いがあったため、シンは店を休みにしていた。シンは、どこかよそよそしい雰囲気を取り払うように、窓を開け、空気を入れ替えて、テーブルを丁寧に拭いて、店の前の掃き掃除をして回る。

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-小説- うたたねのこぼれ種【4.ぶどう】

-小説- うたたねのこぼれ種【4.ぶどう】

夏の定番となった数々の大型フェスの中、小規模・中規模のフェスもまた勢いを増している。小規模から中規模フェスへの過渡期にある「UNBIRTHDAY FES」から目が離せない。
このフェスを仕掛けるのは、岩瀬(いわせ)アリス。彼女の歌声に励まされてきた人も多いはずだ。
今回のインタビューでは、「UNBIRTHDAY FES」に込めた思いや、魅力について話を聞いた。「UNBIRTHDAY FES」につい

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-小説- うたたねのこぼれ種【5.メロン】

-小説- うたたねのこぼれ種【5.メロン】

UNBIRTHDAY FESのステージで、シンはRound Scapeとしてピアノを弾いた。自分の演奏が明るく響きわたる感覚は久しぶりだった。Round Scapeの音を聞いて笑顔が揺れる景色は忘れられない。
ぴったりとくるものは見ればわかる。亮と若葉が並ぶ姿を見て、シンは一歩踏み出すことができた。今となっては、不器用でまっすぐな二人をそばで見ているのが楽しいとすら感じている。

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-小説- うたたねのこぼれ種【6.りんご】

-小説- うたたねのこぼれ種【6.りんご】

俺は、バンドを始めることにした。

暇そうにしていた大介(だいすけ)、光樹(こうき)、拓海(たくみ)を誘ってみたら、意外にもあっさりOKしてくれた。それから、音楽のことがわかる奴もいた方がいいと思って、ほとんど喋ったことはないが、中学の時に吹奏楽部でトランペットをしていた聡(さとる)にも声をかけると、「僕でよければ」という控えめな言葉と共に入ってくれた。

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-小説- うたたねのこぼれ種【7.桃】

-小説- うたたねのこぼれ種【7.桃】

 

「店、ここやで」
「ここか。例のウーロン茶のうまい店は」
大介の後に続いて亮が「居酒屋 ぐるり」と書かれたのれんをくぐると、威勢のいい声が響いた。
「いらっしゃい。おー、来たな、亮」
「おい、拓海か。ここで働いてんのか」
「俺の店や。店長さんやで」
 続いて、カウンターに座る客が亮に声をかけた。
「亮、久しぶり。俺らわかるか?」
「おー、光樹と聡や。久しぶりやな」

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-小説- うたたねのこぼれ種【8.栗】

-小説- うたたねのこぼれ種【8.栗】

 
「森下さん、バイト辞めるんだって?」
「はい。今日で最後です。最近、たくさんシフト変わってもらってありがとうございました」
「別に。私は、バイトの他にすることもないからさ」
「お世話になりました」
若葉のバイト先の百円均一ショップのロッカールームで、同じくバイトの土屋茉子(つちやまこ)に声をかけられた。同じくらいの年齢だが、挨拶をするくらいで特に話をすることもなかったから、若葉は少し驚いた。

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-小説- うたたねのこぼれ種【9.あんず】

-小説- うたたねのこぼれ種【9.あんず】

「はじめまして」
「はじめまして。ニーナデザインの新野彩と申します。よろしくお願いします」
「佐久間創(さくまつくる)です。よろしくお願いします」
お互いに名刺を受け取ると、その文字を見てはっとした。

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-小説- うたたねのこぼれ種【10.金柑】(最終話)

-小説- うたたねのこぼれ種【10.金柑】(最終話)

 
「うたたね」のカウンター席に並んで座る亮と若葉へ、シンはコーヒーを差し出した。心まで温まる香りも一緒に運ばれてきた。
「あーおいしい。しあわせ」
コーヒーの湯気の間から、若葉の声がこぼれる。シンは若葉に微笑みを返して、少し間を置いて言った。
「ちょっと、二人に話があるんだけど」

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