ママパパにも知ってほしい! 第3回(後編)カゼインフリー(乳製品をとらない食事)のすすめ
こんにちは。医師の本間龍介です。
「子ども運動教室LUMO(ルーモ)」の栄養講習第3回は、カゼインフリーとグルテンフリーがテーマです。
前半は、グルテンフリー(小麦をとらない食事)について説明しました。このグルテンフリー、女優さんやモデルさんが実践していることでも知られるようになりました。
グルテンフリーとセットで実践いただきたい食事方法として、カゼインフリー(乳製品をとらない食事)があります。私は、グルテンフリーとカゼインフリーを実践して20年が経ちます。
なぜ、カゼインフリーがおすすめなのか。その理由についてご説明します。
「乳製品で背が伸びる」は都市伝説
「牛乳=カルシウム」と感じる方もいらっしゃるでしょう。「カルシウム摂取のために牛乳や乳製品をたくさんとらなきゃいけない」とか、成⻑期のお子さんについては、「乳製品をとらなければ身⻑が伸びない」など。子ども用のプロテインやサプリメントも、乳製品由来のものが多いですね。
しかし、ここ 20 年ほどで、乳製品をとるとカルシウムの吸収率が下がるという論文が増えました。と同時に、乳製品をとるほどお腹の状態が悪くなるという論文も増えています。
ではなぜ、乳製品がすすめられてきたのかというと、乳製品で背が伸びるという都市伝説が一つの理由だと思います。前回のタンパク質のテーマにおいて少しだけ触れましたが、骨は半分がタンパク質を材料にしています。さらにさまざまな栄養素と、遺伝やホルモンや運動などの要因によって背が高くなるのです。
また、乳製品は価格が安定的に安いですよね。食品を扱う企業や店舗にとって商品として利用し続けやすいことも、大きな理由の一つです。多くの給食にはいまだに牛乳が欠かせないものとなっていますし、魚や肉のかわりに牛乳、という感覚をお持ちの方もいるかもしれません。
しかし、我が家の子どもたちはほとんど乳製品をとっていません。牛乳もヨーグルトもチーズも一切食べませんが、いたって元気です。じゃあカルシウム不足かというと、むしろ平均的な子ども以上の数値です。
乳製品は中毒になりやすい
カゼインフリーについて説明すると「乳製品がやめられない」とおっしゃる方がいます。乳製品好きな方は多いですし、朝食に欠かせないと話す方も多数いらっしゃいます。
驚かれるかもしれませんが、実は、乳製品にはモルヒネ作用があります。モルヒネは医療現場でがんのような病気の痛みをとる緩和薬として使われています。
カゼインが分解されることで生成されるカゾモルフィンには、モルヒネに似た作用があります。その程度はモルヒネの10%ほどですが、中毒性があります。つまり、アルコールや麻薬のように、乳製品を一度食べてしまうとやめられないという方がいるのは、やむを得ないことなのです。
アジア人の腸は乳製品が苦手
カゼインとは別に、乳製品に含まれる乳糖という物質が体に合わない方もとても多いです。
乳糖は腸内環境を乱します。日本人の 9 割以上の方は合わないと想定されます。なぜなら、日本人を含むアジア人の多くが、乳製品をとらない⺠族だからです。もちろん、皆さんのお父さんやお母さんがアジア人ではなくてブルガリア人やドイツ人ならば、体質に合っているかもしれません。
ただし、近年は欧米人でさえも、乳製品をとらない傾向です。現在では、アメリカの某大手コーヒーチェーンでカフェラテを買うと、乳由来以外のミルクを選べるようになりました。オーツ(大麦)、ソイ(大豆)、アーモンドなら日本の店舗でも選択できますが、本国のハワイでは、ココナッツミルクを選ぶこともできます。
理由は、アメリカ人でさえも牛乳が体に合わないケースが増えているからです。白人、黒人、あるいはヒスパニック系であるかにかかわず、欧米人全体にもみられるようになりました。そのせいで、乳由来以外の選択肢から、体質に合うものを選ぶ意識が高まりました。
また、乳製品は乳がんのリスクを上げます。乳がんに限らず、女性特有のがん罹患リスクを上げることもわかっています。日本でも、女性特有のがんがここ 20〜30 年ほど増えていますが、乳製品の影響があると言われています。
ちなみに、牛乳や脱脂粉乳からカゼインなどを除いたホエイ(ヨーグルトなら上澄みの水分)は、粉末のプロテインによく利用されています。手頃な上に種類も増えて、アスリート以外の愛用者も多いですね。しかしホエイ由来のプロテインは、乳製品の加工過程で出たごみを使用している場合があります。品質に心配があるので、私はおすすめしません。
赤ちゃんに重要な葉酸との関係
ここで、葉酸レセプター自己抗体という聞き慣れないワードについてもご説明します。
カゼインフリーの有効性について科学的な情報を検索すれば、モルヒネ作用、乳がんリスク、グルテンとの交差反応(タンパク質の構造が似ているために、両者を区別せずに反応してしまうこと)などはいくらでも出てきます。しかし、葉酸レセプター自己抗体への影響についてはあまり知られていません。
まず葉酸とは何か、というところから始めていきましょう。
女性ならば妊娠出産に際して、葉酸をとりましょうと言われるでしょう。厚生労働省からも積極的に啓蒙されて 20 年近く経つので、妊娠出産に意識のある多くの女性は見聞きすると思います。しかし、なぜ葉酸をとるべきなのかについては、意外と知られていないようです。
葉酸は、神経の発達において非常に重要なビタミン B 群の 一つです。妊娠中の胎児の脳は、お母さんのお腹のなかで急激に成⻑していきます。その急激な成⻑には、大量の葉酸が必要です。
人間の発生・発達は面白いもので、その過程で、顔の中心が割れたりくっついたりを繰り返します。口唇口蓋裂といって、新生児の唇の上側が切れた状態で生まれてくることがありますが、これは胎児である間に葉酸が不足して起こる病態です。現在は、出産後に形成外科できれいに手術することができます。
このように、葉酸は神経の発達に関わるのですから、そのほかの障害を伴う可能性もあります。
葉酸の吸収が苦手な日本人
その上、日本人の 4 人に 1 人は、葉酸の吸収が上手でないこともわかっています。葉酸をたくさんとったほうがいいと言われる理由はここにあります。
実は、乳製品をとると、葉酸をうまく吸収できません。葉酸は、葉酸レセプターにくっついてはじめて脳内に入るのですが、カゼインをとると、これを阻害する葉酸レセプター抗体がつくられます。葉酸の吸収が邪魔され、うまく脳のなかに入っていかないのです。
一般のクリニックではあまりしませんが、私のクリニックでは、この葉酸レセプター自己抗体値を、血液で検査することもあります。葉酸レセプター自己抗体値が高いお子さんは、葉酸がうまく吸収できないため、脳の成⻑が遅れることがわかっています。
私の治療では、葉酸レセプター自己抗体値の高い方に、カゼインフリーの食事をしっかりとっていただくよう指導しています。ハイドーズ(高容量)の葉酸を服用いただくこともあります。自閉症や発達障がいのお子さん、大人であっても同様です。もちろん、葉酸過剰症にも注意します。
しかしこういった重篤なケースは稀です。わざわざ検査をしたりサプリをとったりする必要はありませんが、カゼインフリーは有用です。脳の成⻑のためにも、成人の方が脳の機能を高めるためにも、カゼインを控えることで効果が期待できます。
まとめ
いかがでしたか。食生活や栄養について真剣に考えて実践されている方でも、今回の内容に驚かれる方は多いでしょう。
とりわけ最後にお伝えした通り、遺伝子的理由で日本人の4 人に 1 人が葉酸をうまく吸収できないことは新しい情報だったかもしれません。葉酸の吸収が苦手な方がカゼインフリーを実践したら、きっと「頭の調子がいいな」と感じていただけると思います。
では、そのほかの 3人の方には関係ないのかというと、むしろ有用なことが多いです。カゼインは、グルテンと同じように腸壁を破壊するほか、がんのリスクなどが懸念されるからです。
そして、カゼインフリーにしても、カルシウムの吸収が下がることは絶対にありません。カルシウムは肉、魚、野菜にも含まれます。乳製品でないとカルシウムがとれないということは科学的にも一切ありません。
お腹のためにヨーグルトを食べたけれど便秘が改善しないとか、牛乳でお腹を壊すという方ほど、カゼインフリーにしてお腹の調子がよくなったとおっしゃいます。頭がすっきりするという感覚になる方も多いです。まだまだご存知でない方も多いカゼインフリーですが、ぜひグルテンフリー同様に試してみてはいかがでしょうか。