田山花袋『蒲団』を紹介。中年の気持ち悪い話ってだけじゃない。
どうも、宇宙ゴリラです。本日は田山花袋の代表作「蒲団」を紹介したいと思います。
『蒲団』ってどんな作品?
「蒲団」は1907年に田山花袋が発表した中編小説です。文字数は約5万字で1時間程度で読むことができます。「蒲団」は自然の事実を観察し、真実を描くためにあらゆる「美化」を否定する自然主義文学の代表的な作品とされています。また、作者が経験したことを素材として、ほぼそのままに描く私小説の始まりとも言われています。中年の男性が、女性の布団の匂いを嗅ぐなどの、性をリアルに描き出した内容が当時の文壇に大きな影響を与えました。
登場人物
・竹中時雄(主人公)
三十六歳で妻と三人の子供を持つ中年作家。弟子に取った芳子に対して恋愛に似た欲望を抱く。芳子に恋人ができたことが分かったときには酒におぼれ、妻に八つ当たりをした。
・横山芳子
神戸の女学院出身の十九歳。文学を志し竹中に弟子入りをする。ややハイカラな人物で男と二人で遅くまで遊ぶこともしばしば。文学の才能があり、将来を嘱望されている。
・田中秀夫
同志社大学の学生で、幼い頃から秀才と呼ばれていた。芳子と恋仲になり、上京してくる。文学に生きることを志す。
あらすじ
妻と3人の子供のある中年作家の「竹中時雄」のもとに、「横山芳子」という女学生が弟子入りを志願してくる。始めは気の進まなかった時雄であったが、芳子と手紙をやりとりするうちにその将来性を見込み、師弟関係を結び芳子は上京してくる。時雄はハイカラで可愛らしい芳子に恋愛に似た欲望を抱く。
時雄と芳子の関係ははたから見ると仲のよい男女に見え、恋仲を疑われるほどだった。しかし、ある時芳子に「田中秀夫」という恋人ができ、彼も芳子を追って上京してくる。
時雄は芳子を監視するために自らの家の2階に住まわせることにするが、芳子と秀夫の仲は時雄の想像以上に進んでいて、怒った時雄は芳子を破門し父親と共に田舎に帰らせてしまう。
感想
「蒲団」は若い女性の使っていた布団を嗅ぐ場面が取り沙汰されることが多い作品です。この場面の印象が強すぎて、変態的なイメージを持たれることも少なくありません。しかし、実際に物語を最後まで読むと、布団を嗅いでしまう主人公の気持ちが分からないわけではないんですよね。
個人的には布団を嗅ぐという行為よりも時雄の妄想の方が気持ち悪く思いました。例えば、序盤には「妻が亡くなったら、芳子を嫁にしよう」という妄想をしており、おっさんが何を考えてるんだか…といった感じです。
さらに、芳子に恋人ができた際に時雄は、ショックを受けて酒を飲み、芳子と恋人がイチャイチャしている妄想をしては不機嫌になっています。読んていると、終始このオッサンは…という気持ちになります。
しかし、面白いのはこの妄想の数々が全く理解できないわけではないという点です。なぜなら、この手の妄想は思春期によく起きる話だからです。思春期には、些細なことで「こいつ俺のこと好きなんじゃね?」と考えたりするものです(僕だけじゃないはず!)。僕自身、大人になってこの手の妄想をすることは無くなりましたが、思春期の頃には妄想を膨らませることは日常茶飯事でした。
このように、妄想膨らませてしまうという経験は男なら一度は経験しうるものだと思います。また、女性であっても恋をすれば妄想を膨らませることはあるでしょう。しかし、これが妻も子もいる中年男性が妄想しているとなると話は変わってきて、気持ち悪さがものすごく目立ってしまいます。思春期の少年がしているかわいらしい妄想とは話が違うのです。
こんな中年の気持ち悪い妄想と暴走によって構成されている「蒲団」ですが、時雄だけが悪いのかと言われるとそんなことはありません。読んでいると芳子もかなり、自由奔放に生きていることが分かります。彼女が意図して時雄に勘違いをさせたのかは分かりませんが、時雄との親密な関係を楽しんでいたように僕は感じました。
「蒲団」という作品は一言で表すと「気持ちの悪い中年男性が失恋する話」という感じです。実際、時雄は独りよがりで暴走しがちな気持ち悪いオッサンです。でも、彼の人間臭い部分や葛藤は読んでいて心を打つものがあります。ですので、「蒲団ってあの気持ち悪い作品でしょう?」と毛嫌いせずに色んな人に読んでもらいたいと思える作品でした。
ちなみに冒頭でも述べた通り、この作品は私小説です。つまり、主人公である時雄のモデルは作者である田山花袋自身です。読んでいてドン引きしてしまうほどの時雄の言動・行動を田山花袋が行っていたと考えると怖いものがあります。一方で、自身の恥部ともいえる性に関する行動、感情を、ここまでリアルに描いたというのは一種のすごみを感じます。どれだけ文学的に優れていても、この作品を世に出した時点で田山花袋は変態扱いされるでしょう。それでも彼は「蒲団」という作品を執筆し、世に放った。そこには作家としての覚悟があるように僕は思います。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。