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愛聴盤(21)ブレンデル&ラトル/ウィーンフィルのベートーヴェン・ピアノ協奏曲全集
私はケチな性分なので、あまり新発のCDは買わない。一枚3000円くらいで発売されたCDが、数年経つとセットになって、廉価版ボックスになることがよくあるので、その時まで待って買えばいいと思ってしまう。クラシックの場合、そもそも楽曲に流行がないから、これでいいわけだ。
セール時期にしか来ない顧客みたいで、レコード会社にとっては不都合な顧客だと思う。
しかし、例外はある。
アルフレッド・ブレンデルの4度目のベートーヴェンピアノ協奏曲全集のCDがその一つだ。サイモン・ラトル指揮のウィーン・フィルとの共演である。この発売を知った時、「この組み合わせなら、絶対買わなければ!」と思った。1999年に購入した国内盤CDは3枚組で税抜7,282円だったが、四半世紀以上経った今でも、本当に良い買い物をしたと思う。
ブレンデルは、70年代にハイティンク&コンセルトヘボウ管弦楽団と、80年代にレヴァイン&シカゴ交響楽団とフィリップスで全集録音をしている。にもかかわらず、わざわざ、この演奏は必要だったのだろうか。
答えは、YES!!!
円熟のブレンデル、冴えわたるラトルの指揮、芳醇な響きのウィーン・フィルの高次元の融合。テンポ設定、ピアノとオケのバランスなど、実に考え抜かれていて、漫然と演奏している箇所がない。説得力がある。おそらくこの盤を所有しているファンは同意見だと思う。私は前2回の録音を聴いたことがないが、今から聴こうと思わない。なぜなら、このCD盤だけで「お腹いっぱい」だからだ。
1997年から1998年にかけて、ムジークフェライン・ザールにおける録音。いつもながら、フィリップスの録音は実に素晴らしい。解像度が高いのに、音に豊かさと温かさがある。
第3番の第二楽章や第4番の第一楽章の冒頭の美しさなど、筆舌に尽くしがたい。静寂の中に浮かび上がる音像の豊かさは、デジタルならではの良さがある。
才人サイモン・ラトルの音楽は、テンポ感がきりっとしていて、リズムにキレもある。これがブレンデルのピアノと絶妙にマッチしていて、音楽が生き生きとしている。第4番の第二楽章。ラトルは、ウィーン・フィルを見事にドライブして、ブレンデルの内省的なピアノと雄渾なオーケストラとのコントラストを描くのに成功している。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲全集は、おびただしい数の録音がリリースされている。残りの人生で、それらを聴く必要性を感じなくなるほど素晴らしい演奏である。この演奏を超えるレコーディングに、滅多に出会うことがないだろうから。
ちなみに、私の所有盤には致命的な欠陥がある。CDの1枚目に第1番と第4番が、2枚目に第2番と第3番が収録されているが、CD盤のレーベル面には、1枚目にPiano Concertos 1&2、2枚目にPiano Concertos 3&4と印刷されているのだ。パッケージとブックレットには正しく記載されている。初版ならではのミスだろう。個人的には問題はないので、そのままにしてある。
最後までお読みいただきありがとうございました。