【書評】『援助者必携 はじめての精神科 第3版/春日武彦』
対人援助職必読の一書
対人援助の仕事をする人であれば、対象者と関わる中で戸惑ったり、支援に行き詰まったりするという援助者は多いのではないだろうか。
対人援助の仕事は正解がない。似たようなケースであっても公式に当てはめるように、「こうすればうまくいく」といったこともなく、これで良かったのかと振り返ることもしばしばだ。
そのためなかなか支援のスキルが積みあがった実感も得られず、自信が持てないといった人も少なくないのではないだろうか。
10年以上ソーシャルワーカーとして、地域に暮らす様々な課題を抱えた方の支援に従事してきた私も、その一人である。
そんな私が対人援助を行う仕事をされている方にぜひおすすめしたいのが
『援助者必携 はじめての精神科 第3版』
である。
筆者の春日氏は精神科医。
これまで精神科病院や精神保健福祉センターなどで働いてきており、援助者たちのケース検討会でスーパーバイザーを務めてきた経験を持つ。
その経験の中で、援助者たちが、自信を持って支援にあたれる知識と考え方を身につけてほしいとの願いから、本書を著した。
主に精神科領域の対象者についての疾患の解説、アプローチの仕方、処遇困難ケースへの対応法などについて解説されている。
本書の特色
本書の特色を挙げると、大きく3つあると思う。
① 病気や障害の解説が実践的で非常に分かりやすい。
私はこれまで何十冊も精神疾患や発達障害に関する書籍を読んできたが、本書は教科書などには載っていない、実践と経験に基づいた解説が豊富である。
疾患について症状や起きうる現象だけでなく、背景にある心のメカニズムや本質が解説されている。
例えば、「孤独」という精神状態について、筆者は「主観オンリーの状態」としている。
確かに物理的に一人の状態だけではなく、人との関わりが絶たれた状態、自身の主観だけが自身の心を占めている状態は「孤独」と言えそうだ。
そうした孤独が、やがて「妄想」に転じていく様を、筆者は「よるべない孤独や辛さを妄想に託しているのではないか」と仮定する。
このように、「〇〇病の症状として、妄想が発現する」と言ったことではなく、奥深い人の心の動きや背景を知ることで疾患や対象者像の理解につながる視点が得られる。
② 援助者や家族にどこまでも寄り添っている。
対人援助の場面では、本人は困っていないが周囲や援助者が困っているという状況もしばしばある。
支援はあくまで本人主体で、援助者主導であってはならない。それは大前提であるものの、そのまま本人を放っておいていいのか迷う場面もある。
筆者は「援助者のもやもやも解消しておかなければならない」との思いから、本人の意思を脅やかすことなく、援助者も安心して関われる工夫の提案をしている。
援助者や家族が心に余裕を持つ大切さについて触れ、援助者や家族など周囲の人に寄り添った形で関わり方などを教示してくれる。
③ 対応方針や対応の仕方が明確で具体的
共依存、拒薬、ファーストコンタクトのとり方、家族への面接の仕方、自殺をほのめかす人への声のかけ方など、難しい場面での対応の仕方が、具体的で明確に書かれている。
実際に筆者がかけた言葉(セリフ)がそのまま掲載されているなど、非常に分かりやすい。
まとめ
突然何かに気づいたり、ひらめいたりすることを心理学用語で「アハ体験」というが、本書を読んでいると、「そういうことだったのか」と、これまでの経験がすとんと腹落ちする、まさにアハ体験がしばしば訪れる感覚を得た。
これまで精神疾患や発達障害に関する書籍は山のように読んできたけれど、本書ほど実践的で、分かりやすい書籍はなかったといっても過言ではない。
まさにタイトルにもあるように「援助者必携」の一書となっている。
また、人の心について考察するのに最適な本書は援助職でなくても一読の価値はある。
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