五感で味わう、言葉で伝える ─ ソムリエ田崎真也さんが教える表現力の真髄『言葉にして伝える技術 ソムリエの表現力』
こんにちは。AMBER BOTTLE AROMATHERAPYの坂田です。
世界的なソムリエである田崎 真也さんの著書を紹介します。本書は、五感を鍛え、表現力を豊かにするプロセスと意義をソムリエの視点から伝えています。
ソムリエがワインのテイスティングをして表現する言葉は、理解できるようなできないような芸術的な面が取りざたされがちです。しかし実際には、ソムリエが発する言葉は飲み手が確実に味を想像できる表現でなければなりません。
では、味の表現とはどういうものなのか? 多くの人は、普段、深く考えずに味を語っていると思います。テレビの食レポでも、「肉汁がじゅわっと広がる」「プリッとした食感」などが普通に使われています。私も、こうした表現は「おいしい」という感覚を表すものだと思っていました。
しかし、田崎さんの少々手厳しい(笑)指摘では、これは味を表しているのではありません。「肉汁がじゅわっと広がる」は、肉汁自体の味について何も言っていませんし、「プリッとした食感」も、あくまで食感しか表していません。それを安直に味として表現することを、田崎さんは「実際には味わいを伝えていない常套句」と、一刀両断しています。
ほかにも、「オーガニックだからおいしい」といった先入観や、「クセがなくておいしい」といった日本人ならではのマイナス思考についても、おいしさとは無関係な表現につながっていると指摘しています。日本人ならではの表現については、ヨーロッパ文化に通じている田崎さんならではの切り口で述べられており、どっぷりと日本の文化に浸かっていると気づきにくい点です。
人によっては重箱の隅を突くような話だと思うかもしれませんが、日常生活の食事で感じたことを語るのとは別次元の話であって、他者に伝える立場ならば正しく伝えるべきであるという話です。
他者に正しく伝わる表現するには、それだけの情報量を持ち合わせている必要があります。そのためにはテイスティングを重ねて記憶する作業が必要になりますが、そのときに味覚以外の感覚もフル稼働させることで密度の濃い情報を獲得することができます。田崎さんは、五感の中でも特に、嗅覚にフォーカスしています。
田崎さんはかつて、ワインを味覚でしか感じていなかったといいます。フランスに渡ってワインスクールに通って香りを意識するようになり、ワインのテイスティングにおける香りの重要性を学んだそうです。
そして、膨大なワインのデータベースを自身の中に構築するために、テイスティングしたワインの香りを分類し、香りを言語化する作業を重ねました。すると語彙の少なさという壁にぶつかり、香りを表現するときに使うもの(たとえば花や果実)の匂いを実際に嗅ぎ、嗅覚を鍛え、表現力を高めていきました。
本書の中で田崎さんは、五感を鍛えることで物事を多面的、多角的に感じる能力が優れてくると表現力が豊かになることを強調しています。表現力が豊かになる過程で、洞察力が高くなる、感受性が豊かになる、人の気持ちを察することができるようになるといった作用があり、その結果、よりよい仕事ができて、ひいてはよりよい人生になる、と結んでいます。
日頃、私たちは嗅覚をおろそかにしがちですが、嗅覚を鍛える方法は日常生活の中にごろごろと転がっています。たとえば、道を歩いているときに見える風景を目で感じるだけでなく、その場所の空気の流れや匂いも感じることができます。
そうすることで、その風景の情報は密度の濃いものになり、記憶として刻み込まれやすくなります。また、説明を聞いた人は、単に「この道には何と何がある」ということだけでなく、よりリアルな雰囲気も含めてイメージできるでしょう。
食事は嗅覚を鍛える絶好の機会です。口に入れる前に匂いを嗅いで香りを意識すると、食事の時間がより豊かになります。年末年始、ワインを飲む機会があると思いますが、ためしてみてはいかがでしょうか。
見出しタイトルは、さくらもち市長さんのイラストを拝借しました。ありがとうございます。