
ストレッチの効果
ストレッチングは,柔軟性を高め,筋肉や関節の可動域を広げるだけでなく,リラックス効果や血行促進、ケガの予防にも役立つことが知られています.
今回まとめた内容は,こうしたストレッチングのさまざまな効果を臨床の現場でどのように活用できるかに焦点を当てています.
患者さん一人ひとりに合った最適な治療選択の参考となり,より効果的なケアを提供できる一助となることを願っています.
ぜひ,皆さんの実践に役立てていただければ幸いです.
ストレッチの種類
バリスティック・ストレッチング
バリスティック・ストレッチングは反動などを用いて筋を伸張するストレッチの方法である.しかし,急激な筋の伸張を引き起こすため,筋紡錘を興奮させ,反射的に筋を収縮させてしまう(伸張反射).
つまり,バリスティック・ストレッチングでは,筋緊張抑制効果は期待できないと考えられる.
スタティック・ストレッチング
いわゆる,静的ストレッチのこと.学生時代に学内で学ぶストレッチはこの方法を教わることが多いため,馴染みのあるストレッチであると思う.
反動をつけずに,ゆっくりと筋を伸張し,そのまま数十秒間保持するストレッチ方法である.
静的ストレッチを行うことで伸張反射の感受性を低下させる作用がある.伸張反射の感受性の原因として,谷沢ら¹⁾は筋紡錘の感度の低下,伸張反射におけるγ運動神経とα神経系の共役機能破綻,ゴルジ腱器官のIb抑制が考えられると述べている.
PNFストレッチング(徒手抵抗ストレッチング)
PNF(proprioceptive neuromuscular facilitation)とは,固有受容器を促通し,ヒト本来の運動パターンをもちいて運動負荷あるいは運動介助し,機能・動きを改善する手技である.
ホールドリラックスやコントラクトリラックスなどがリラクセーションとして使われる.
どちらも,等尺性収縮を利用したテクニックである.
ホールドリラックスは,セラピストが動かすのを対象者が止めるように指示する受動的な筋収縮を促し,コントラクトリラックスは,対象者に指示し能動的に筋収縮を促す²⁾.
ダイナミック・ストレッチング
ダイナミック・ストレッチングとは動きをしている中で目的の筋をストレッチする方法である.スタティック・ストレッチングと比較するとストレッチ直後の筋力低下はダイナミック・ストレッチングの方が少ないため,アスリートなど運動前に行うストレッチとして選択されることが多い傾向にある.諸家³⁾⁴⁾の報告によると,ダイナミック・ストレッチングによる効果は相反抑制や筋温の上昇によるものとされている.
ダイレクト・ストレッチング
皮膚などの周辺組織を介して筋線維に直接圧を加えて行う方法.圧迫部位としては,圧痛がある場所に対して行われることが多い.
ストレッチが及ぼす効果について
スタティック・ストレッチングはどのくらいの時間から効果があるのか
高齢者(平均84.7歳,65−97歳)でハムストリングスがタイトな被験者62人を対象とし,ストレッチなし・15秒・30秒・60秒の4グループ設定しスタティックストレッチングを行った.結果として,15秒・30秒・60秒でテスト前よりも有意に増加した.その中でも60秒グループが可動域の増加率および維持率が高いことを示した.⁵⁾
成人男性(26.0±3.4歳)整形外科的疾患を有さない31名を対象とし,右大腿直筋に対して,安静60秒・スタティックストレッチ15秒・60秒の3グループに設定した.結果として,15秒・60秒のスタティックストレッチによって関節可動域の増加を認めた.⁶⁾
健常者50人の大腿四頭筋を対象に,ストレッチなし・ストレッチ10秒・20秒・30秒・60秒の5つのグループに設定し,スタティックストレッチングを行った.結果として,30秒と60秒で大腿四頭筋の柔軟性が有意に増加した.⁷⁾
健常者を対象としたスタティックストレッチング1回あたりのストレッチング時間として効果的な時間は,30秒以上が効果的である.
ストレッチングは何set行うのが良いか
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