科学の知見でみるユング「複雑系科学からみたこころ」を読んで
2019年に開かれた後援会の資料を拝読しました。読書?ではないですけど、読書の秋ということで、個人的にはかなり衝撃的だった内容なので、参考までにまとめようと思います。
これまで、C,G,ユングを科学的に読み込んだことはありませんでしたし、これまでの本も、宗教的な観念や占い(バーナム効果)も考え方だよなぁとい程度でいましたが、最近では量子力学のパウリやアインシュタインとの交流があったことから、仏教・マンダラ・占星学・昜経・錬金術のみならずこれほどに手を伸ばしていたんかと思うと当時としても複雑系理論からの構築はまさにゲシュタルト!と思わざるを得ません。
1. ユングの科学的視点の採用
単に心理的現象を解明するだけでなく、科学的な理論や概念を積極的に取り入れています。※1サンタフェ研究所にユング派の研究員が大きくからんでいたことから、複雑系科学から様々な視点を取り込んでいたことやパウリとの文通からもスピリチュアルだけで語られるものではないことがはっきりと示されています。
カオス理論や自己組織化の概念を取り入れた点は、特に重要でカオス理論では、小さな変化がシステム全体に大きな影響を与えることがあり、これはバタフライ効果と呼ばれています。ユングはこの理論を心理的変化や精神的覚醒に応用し、心の非線形的な変化を理解しようとしています。
ユングはまた、ウィーナーのサイバネティック理論を1950年代に取り入れ、自己制御システムやフィードバックループの考え方を心理学に応用しました。この視点は、心が自己調整を行うプロセスの理解に寄与しました(タイトルの図)。
2. 参考にした理論や科学的影響
マックスウェルの電磁気理論の影響:19世紀末、電磁気の理論が物理学に大きな変革をもたらし、この※2電磁気理論を基に、「心的エネルギー」の概念を発展させ、心のエネルギーが意識と無意識の間でどのように働くき他者との関係を探求しています。
ダーウィンの進化論や※3ボールドウィン効果も、ユングの※4元型理論や集合的無意識に影響を与えています。ボールドウィン効果は、文化的な環境が生物学的進化に影響を与えるという考え方で、ユングはこれを元型の進化的理解に関連付けています。
3. 心理学への応用
ユングは、科学的理論を心理学に適用することで、心理療法や分析心理学を拡張しました。特に、複雑系理論を心理学に取り入れることで、個々の心理現象がどのように創発的に現れ、変容するかを理解しようとしています。
元型理論と創発:ユングの元型理論は、複雑系の創発現象と対応しています。元型は、個々の要素の集まりから単なる合計以上のものが現れるという創発的なプロセスを示すと考えられました。
自己調整と意識と無意識の関係:ユングは、心が※5カオスと秩序の間で自己調整し、新しい秩序を生み出すプロセスを重視しました。これは、自己組織化の概念と深く結びついています。
4. ラムゼー理論と生命の起源 シンクロニシティと占い
人類類の誕生のように、非常に低い確率で起こる出来事も、※6ラムゼー理論に基づいて考えると、膨大な数の試行や長い時間の中で必然的に秩序が生まれると解釈できます。つまりランダムに見えているものでも、ある種の膨大なデータから条件や制約が与えられると、偶然に見える現象でも一定のパターンや秩序が出現することが示されています。
すでに、アミノ酸・たんぱく質・炭水化物などから生物(有機物)になる実験が行われ科学的に成功していますがこれは人の手による実験による結果です。ラムゼー理論はこれらが必然的に起こるパターンの解析を行うものではあるが、タイトル図にあるように、私たちが目の前の目に写る、人・自然・建物が現象として写し出されるまでには、化学物質が複雑に絡み合い(相互作用)、新しいものが生まれては、それが写し出されフィールドバックし更にそれらがまた絡み合うことを繰り返し現象として写し出されており、その複雑さの過程は予見できないものであり、かつ説明がつかない事象だが、数学的に表すという途方もないことだ。
ユングはこの過程から、システム内の無数の要素が相互作用することで、予測不能な現象(創発)が生じることがあり、これはシンクロニシティのような偶然に見える現象と共鳴しています。
非常に複雑なシステムや大量のデータの中では、一定のパターンや秩序が自然に生まれることがあります。これは、ユングが考えた「意味のある偶然」が、宇宙や無意識の深層構造によって支えられているという見方と関連付けられます。
占星学は、年月日により星の位置関係から人生のその時々における出来事に焦点を当てることを考えます。占星学の星の動きのデータは莫大なデータをもとに統計的手法において読み込むものになっており、ユングはその宇宙の一定のパターンや秩序・自然の秩序をもとに無意識をパターン化することで理解を深めようとするツールになり、それが元型アーキタイプのもととなっています。昜経もコインの表裏から掛のパターンにより将来の変化を読み解くというパターンに落とし込むことで自己と宇宙とのシンクロニシティを提供する可能性を秘めています。
5. 「意味のある」偶然
心と物質の統合的理解
物質世界と精神世界が別々のものではなく、相互に関連する一体の現象だと考えました。この視点は、古代の哲学者たちや現代物理学の研究者が探求しているテーマでもありました。目的は、心の働きが宇宙の秩序や自然法則と同じレベルで機能していることを解明することでした。
非因果的な関連
従来の因果律(原因と結果の関係)に縛られない現象、つまり因果的に説明できない現象も存在すると考えました。これが、彼の「シンクロニシティ」という概念です。物理学的な法則や自然法則の枠組みで捉えられない、意味のある偶然がどのように発生するのかを、心理学だけではなく、より広い科学的な視点から探ろうとしました。
決定的に科学的にみるためには、相関か因果かによる大きな違いがユングにとって大きな課題でもあるものの、意味のある相関というなんとも複雑な枠に落ちてしまうところが懐疑的に見えるゆえんでもあるがそれは親和性と言った方がしっくりくるかもしれません。
6.ランダム性と秩序
量子力学では、粒子の振る舞いや状態は確率的にしか予測できません。例えば、電子の位置や速度は厳密には分からず、不確定性原理によって、ある程度の確率分布の中でしか記述できないとされています。この確率的な振る舞いは、一見ランダムに見えるものの、実は量子力学的な法則に基づく秩序が存在しているという解釈です。
波動関数:量子力学では、波動関数が粒子の状態を記述し、その関数を用いて確率的に粒子の位置や運動量を予測します。この確率的な解釈は、ランダム性が背後にある自然の秩序を反映しています。
パウリは、量子力学の不確定性原理や、物質と観察者の関係性といった理論を深く探求しており、これがユングに対する刺激となりました。特に、パウリは次のようなアイデアをユングに提供したと考えられています。
量子力学の不確定性原理
観察者がシステムに影響を与えるという概念であり、ユングのシンクロニシティにも通じる「観察者と出来事の相互作用」という視点を提供しました。
補完性と二重性
パウリは、物理的現象が複数の視点から同時に観察され得ることを理解しており、これを心理的現象にも適用できると感じていました。これは、ユングが「心」と「物質」が異なる側面から同時に現れるという考えに影響を与えました。
まとめ
心理学生誕からヴントは内観法から心のプロセスをできるだけ小さな要素に分解して研究しようとしました。彼のアプローチは、心の働きを物理学や生理学のように、個別の要素として測定し、分析することに重きを置いていました。このような還元主義的アプローチでは、心や意識の複雑な現象をすべて要素の積み重ねとして理解しようとされています。
これに対して、ゲシュタルト心理学は「全体は部分の総和以上のものである」という原則に基づいており、心や知覚を部分的に分解するだけでは全体像を理解できないと主張します。ゲシュタルト心理学者たちは、特に視覚や知覚において、個々の要素(例:形、色、線など)が組み合わされることで、新しい全体像が生まれることを強調しました。彼らのアプローチは、心の働きや知覚が、要素間の関係性や相互作用を通じて構造的に生じるものであり、その全体性を理解することが重要である。
複雑系の理論では、システムの個々の要素が相互作用することで、新しい全体的な性質や秩序(エマージェンス)が創発されることを説明します。これは、要素ごとにシステムを分解して分析するだけでは、そのシステム全体の振る舞いや本質を理解できないという点で、ゲシュタルト心理学の「全体性」の強調と一致しており、心理学という学問だけではなく様々な学問の積み重ねが今の現象に至る過程でありどれも必要な学問であることは間違いなくそれは、カオスでも複雑系がパウリのように宇宙の統一理論にあり、真理の面白さがあると感じます。
※ 補足事項
パウリ
ユングの患者でありに自身の夢を提供し、ユングはこれを分析しました。この夢の分析を通じて、パウリはユングの無意識の理論をより深く理解することになり、またユングもパウリの科学的思考と無意識との接点を見出す機会となりました。特に、パウリの夢には数多くの象徴が含まれており、ユングはそれらを通じて、無意識の深層にある普遍的なパターンを解読しようとしました。
※1サンタフェ研究所
1984年に設立された米国ニューメキシコのサンタフェに設立された非営利組織でノーベル賞受賞者による複雑系科学のメッカ。一つのものだけでは解決できないことでも複数の角度から科学的に研究すること。
※2電磁気理論(心的エネルギー)
人と人が関わるとそこに「場」ができ、磁場と同様、一種のエネルギーが生まれます。 ファシリテーターとクライエントが向き合えば2人の場が生まれ、グループでワークショップを行えばそこは複数の人々がつくる場になります。 「場の理論」は、社会心理学の父と呼ばれるクルト・レヴィン(Kurt Lewin)が提唱した概念。
※3ボールドウィン効果
学習という過程を組み込むことで集団が環境に素早く適応するという進化論の考え。
※4元型論(アーキタイプ)
夢のイメージや象徴をイメージする源となる存在。
太母(グレートマザー)・・・母親祖母老婆など
影(シャドウ)・・・敵悪魔ピエロなど、気に入らないイメージ
アニマ・アニムス・・・異性
仮面(ペルソナ)・・・社会や人間関係などの仮の姿
自己(セルフ)・・・自分自身
※5カオス理論
力学系 の一部に見られる、数的誤差により予測できないとされている 複雑 な様子を示す現象を扱う理論。
※6ラムゼー理論
一定の秩序がどのような条件の下で必ず現れるかを研究する数学の一分野。
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