#1 北野新太「透明の棋士」(ミシマ社 2015)
これが私の初投稿になるので、私の大好きな本を紹介したい。
タイトルの通り「透明の棋士」。棋士という言葉から想像された方も多いと思うが棋道、特に将棋棋士についてのインタビューも交えたエッセイである。将棋といえば最近はもっぱら藤井聡太三冠のことが話題になるが、本書は将来若き大天才が現れることを誰も知らなかった2010年代前半のお話である。
著者の北野新太は報知新聞社の記者で元々プロ野球の巨人担当だったそうだ。そんな将棋界とは全く縁のない北野が将棋の担当記者になり、そこで彼は棋士の将棋に対するとどまることを知らない情熱を目の当たりにする。そして彼は将棋の、棋士の魅力にどんどんのめり込んでいく。
私は少し将棋を指すのだが本書を読んでいるうちに、当時私は小学生だったが自分まで心が熱くなり棋士という存在に敬意を覚えたことを深く覚えている。私の大ファンである羽生善治九段や森内俊之九段、渡辺明名人、里見香奈女流四冠(段位は現在のもの)らへのインタビューにも棋士の人柄がにじみ出ており、普段と対局時との差に驚くこともしばしばある。
さらに本書のいいところは、上に挙げたような棋界を代表するトップ棋士についてのみ書かれているのではなく、中堅や若手棋士についても書いてある。彼らの苦悩はトップ棋士のそれとはひと味違うのでそこを比べるのも楽しい。
また、北野は勝った棋士ではなく負けた棋士にフォーカスを当てることが多い。終盤であの悪手さえなければ、、、と悔やむ棋士や負けたことを忘れ次戦に気持ちを切り替えている棋士。様々な敗北の受け止め方がある中で全員に共通しているのは闘志だ。何度負けても、あと一歩のところでくじかれても絶対に次は勝つ。これこそが棋士の原動力であり、本質なのだということを本書は気づかせてくれる。
本書はミシマ社の「コーヒーと一冊」というシリーズの一つである。ちなみに私はこのシリーズのほかの本も読んだことがあるのだがその中に発音するのが難しいロシア人の名前を書いた本があり、非常に面白かった。それはさておき、本書は四六判で112ページとかなり薄い本であるが、ページ数の3倍は中身が濃い。現在でも通販サイトや新刊書店でも取り扱いがあるそうなのでぜひ読むことをおすすめする。
ごん
紹介した本
透明の棋士 北野新太著 ミシマ社(2015) 四六判 112頁 1000円
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