涙のゆく先

どうやら僕は人より長くは生きられないみたいだ。一人でどこかに行くこともできないし、身体が弱くて食べれないものも多い。生まれた時からそうだった。みんなの言ってることが理解できないし、言葉も発せられない。叫ぶことでしか人を振り向かせることができない。伝えることができないのはとても苦しい。相手が読み取ろうとしてくれなければ、僕の想いは永遠に伝わらない。言葉を一生懸命覚えようとはするけど、そうしてるうちに僕は天国に行ってしまうらしい。

それでも僕の親は、僕を愛してくれた。なにもできない僕を外に連れて行き、美味しいご飯を食べさせてくれた。言葉にならない声で伝えると、伝わったかのように嬉しそうに僕の頭を撫でてくれた。

あるジメッと湿った春の日。僕はいつも通り歩き慣れた道を進んでいると、住宅街の隙間から雨に滑ってブレーキの効かなくなった猛スピードの自転車が飛び出してきた。咄嗟に親を守る為に叫びながら僕は前に出た。頭や体を強く打った僕は、目を開けることすら出来なくなり、すすり泣く親の声だけが聞こえる。何も出来ない僕に泣いてくれる人がいたんだ。それだけで僕は幸せだった。思ったよりも早い旅立ちだった。「……わん」いつものように伝わらない言葉で感謝を言うと、涙で顔を濡らしながら「…ありがとう……」そう言ってくれた。何を言ったか正確には分からないが、僕と同じ気持ちなのは、伝わった。

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