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失恋した、たい焼き

 失恋をしたところで、日常は何も変わらない。(あの人のことを本当に好きだったのかな?)と思ってみたり、出会う気のないマッチングアプリを入れてみたり、それで会話してみたり。彼に片思いを始めたのは"恋をしたかったから"だけであって、その時に出会ったのが"彼だった"だけなのだ。私が小学5年生の頃に片思いをしてた お兄ちゃんの友達で、上京した今もちょくちょく会っていた。彼は、私の気持ちなんて知ろうともしない代わりに、どんどん私のタイプの擬人化へと成長していく。先週の土曜日、また彼はフラッと現れ、近所の商店街を2人で散策した。(みんなは私たちのことカップルだと思ってるのかな?)と舞い上がってるのは世界でただ1人だけで、そんな私を置いてパタパタとツッカケを鳴らしながら進む彼。いま手を握ったら全てが終わる。好きって言ったらなにもかも無くなる。そうしてるうちに、彼が口を開く。「俺、好きな子と両想いなんだよね。」、また、私の初恋は終わる。『そっか。良かったじゃん。付き合いなよ』「お互い好きで、付き合う理由ってあるんかな?」『あるでしょ。好きな子を独り占めできるよ、』「俺を好きな時点で、独り占めしてるじゃん」『そっか。じゃあ付き合わなくていいんじゃない?』「だよな、」と、彼は私の頭に手を置いて無造作に髪の毛をとかす。「あ、たい焼き食わね?」『いいね、食べたい』「お前、カスタードだろ?」『うん』「カスタード2つ、お願いします」『あっ、お金、』「良いって。付き合ってくれたお礼。」『ありがと、』「ん。」カスタードがたっぷり入った2匹のたい焼きが私たちの元へと渡される。出来立てはとても美味しくて、その瞬間は彼じゃなくてたい焼きに恋をする。でもそれは一瞬の出来事で、儚く終わり、現実の恋が虚しく始まる。彼は次の予定があるからと、そそくさと帰っていく。都合の良い女の条件をスマホでググりながら家へと帰る。キッチンの隅に置かれたチャミスルを見つけて、無意識に蓋を開け、意識的に瓶を空ける。ぐわんぐわんする頭を押さえつけるように冷たい床へと体を倒し、喉の奥から何かが込み上げ、トイレへと駆け込む。吐いたら全てが収まり、さっきまで幸せに感じていたたい焼きさえも、水に流されていく。彼からもらったものを体から物理的に出したことが可笑しくて、ふっと口角が上がる。

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