夢の国
この広い世界のどこかに、夢見ていたことが実際に起こる【夢の国】という不思議な国があるらしい。
ある者はお城の前で推しのアイドルにプロポーズされ、またある者は園内で自由に空中を飛び回れたそうな。
そんな噂を聞きつけた大学1年生の少年が面白半分でその国に踏み入れると、目の前には、小学3年生の頃にいなくなった父親が立っていた。
「なん…で……」夢に心躍らせながら入った少年はその瞬間に全て裏切られ、自分を捨てた父親の年老いた姿に驚きながらも、沸々と怒りが込み上がった。「こんなの夢なんかじゃない!」拳をグッと握って叫んだ。「ごめんな」目の前の父親が弱々しい声で呟いた。「謝ってもどうにもならねえし、お前のことなんて知らねえ」怒りで眉毛は吊り上がり、肩をわざとぶつけるようにして園内へと足を進めた。
後ろなんて振り向くもんかと言わんばかりに夢の国の真正面にあるデカデカとしたジェットコースターへと一直線に向かった。名物なだけあって、カップルや友達、親子連れで賑わっていた。待ち時間50分と書かれた最後尾に並び、怒りを鎮めようと深呼吸をする。せっかく来たから好きな女優とデートする妄想でもしようと考えを巡らせようとするが、悲しそうに佇む父親の姿が脳を蝕む。わいわいと楽しそうな親子の声が響き渡り、頭を掻きむしりながら「くそっ」と放つ。父親に遊んでもらった記憶なんてほとんどない彼は、さらに父親を嫌いになりたくて昔の記憶を辿った。
「…そういえば、遊園地に来たこともあったっけか」ふと、思い出した。幼心にも凄く楽しかった様子で「またみんなで来ようね」と帰りに両親と手を繋いぎながら言ったことも思い出した。「家族で来るの夢だったな…」と幼かった自分を憐れむように呟いた。
そして、もう一つ思い出した。「またみんなで来ようね」と言った後のことだ。「毎年家族で来るのが俺の夢だったんだ」と誇らしげに言う父親に向かって、彼は「夢って叶わないんだよ!テレビで言ってた!」とイタズラに返してしまったことを。今の今まで忘れていた。その瞬間彼は膝から崩れ落ち、幼い子供のようにわんわん泣いた。ぜんぶ自分のせいだったんだ。何もかも。
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