21_真夏のかぶり湯 -寿温泉(別府)-
あついあつい、と言いつつもお湯をかぶるとさっぱりする。
このところ雨続きで、なかなか湯屋を回れなかった。今日はくもり日。よし、動ける。夕方から用事があったので、お昼に一ヶ所、用事を済ませた後にもう一ヶ所入ることにした。国道10号線でゆめタウンの方へ自転車を走らせ、流川通りに入る。この辺りは小道が多くて、たまに道に迷ってしまう。そんな時は、海か山、どちらかを目指して進んでいけば、大概どこかの大きな道につながっている。今回は道に迷うなんてことはなかった。自転車を停め、湯屋の入り口の引き戸に触ろうとすると、それは自動ドアだった。見かけからは全く想像がつかない。
寿温泉。炭酸水素温泉。ジモ泉。楠町二区公民館の中にある温泉のため、エントランスは結構広い。左奥の方に男湯の文字を見つけ、吸い込まれるように足を進める。
脱衣所と浴室が一部屋でつながっているスタイルも見慣れてきた。ここは脱衣所から階段をトトンと降りるとどんと浴槽が構えている。
ちょうど、階段を降りたところに先客が一人いらした。こんにちはと挨拶するも。横目で会釈をもらうだけで無口な方だった。まあ、無理に会話を投げ合うこともない。お湯と自分との世界に浸っていれば良いのだから。はだかになり、浴槽を挟んだ反対側に腰を下ろす。小学校のプールサイドにあるような、明るい水色に塗られた壁に囲まれていると、夏なのもあって何だか懐かしい気持ちになる。
ざばーん。頭から思いきり湯をかぶる。ホースが浴槽に入っている。おかげでそこまで暑くない。じとっと汗ばんだ身体がさっぱりする。冷水を浴びて体温を下げるのも格別だけれど、わざと辛いものを食べて汗を流すのと同じように、あちちのお湯をいただく夏日も悪くない。
ちゃぷん。顔も体も洗い終え、おじ様に気を使いつつゆっくり浸かる。小さい浴槽に二人きり。会話があれば良いけれど、今日は静かで緊張する。あまりの静かさに、窓の外のセミの合唱や、天井を伝って反対側の声が届く。・・・ちゃぽん。ぴちゃん。ちゃぽん。肩に湯をかける音だけが空間に響く。
おじ様はホースの水は止めとくよ、とぼそっと言い残し、先に上がった。続けて数分後、自分も上がる準備をはじめた。
外に出て、自転車に乗ろうとしたところで、家族でいらした方とすれ違いになった。まだ夕方手前の時間なのに、と気になったものの、今は子供たちは夏休みなのだと思い出した。それに、別府の親戚の家に遊びにきているのかもしれない。小さい頃、おばあちゃんのおうちで過ごした夏を思い出した。
数日後にはお盆が来る。
風にのって、夏草と線香の香りが舞う。
p.s.
夜のお話はこちらです。
よろしければ是非。