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短いもの

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2019年9月の記事一覧

まんぞく

まんぞく

ベルトコンベア、こんべあ

んべあ

がたがた、ここは工場じょう情状酌量

つぎから次へとものが流れる、

はい、次、はいつぎ、這い這い、はいつぎぃ

次、つぎ継ぎつぎつぎはぎだらけ

どいつもこいつも、なんなのよ

あなたは素敵な人だけれど、

どれ裏を返してみましょ真正面

あらあら、なんだ、ただの塵じゃない

はい、ごみ、ゴミ、護民官、醍醐味ねえ

わたしとことりとりとすずしいね

みんなち

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竜田姫

※ボツ作品です。最近駄目なものばっかなので、取り敢えず出してみよう、と思った。

春は佐保、秋は竜田

ぞろぞろあまたのお人

折々織り織り、からくれないない

暑きが過ぎ、佐向のまだ来ざる時なり。

おい、きいたか、あっちのね、西の山、

ついに出やがった

出たって、一体何がでたのさ

見りゃわかる、行ってみやがれ

ねえあんた、出たってね

そうよ、あたしなんか、

手握ってもらいました。

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おもちゃ

おもちゃ

あら、きれいなおもちゃねえ

いやだわ、なんて失礼な、

あたしゃにんげんよ、

あなたこそ、なんて形をしているの、玩具ね

見にくい、醜い、

見にくい区域、悔い改めて、このブリキめ

あなたばかなの、

あたしこそ、玩具なんかじゃあありません

ブリキなんかついていりゃしません

ついているのは血と骨と肉じゃあないの。

それがブリキだっつってんのよ

あなたのめは節穴?不幸せねえ

おもちゃ

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あいして

あいして

おまわりさん、おまわりさん、御廻離散

なぜ、なぜ、わたしなの、信濃のわたし

わたしはふびんなおんなです、

わたしはかれをあいしているのです

だれもわたしをあいしてはくれません

おそらくかれもわたしをあいしているのです

ぜったいに

愛して、愛が、

わたしとあなたをむすびつけたのよねえ

なのにおまわりさん、すとおかあって、

そりゃないわ

粗野ないわ、粗野ね。

粗野な仕事ね。けい

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もんぺ

もんぺ

あらあら木賊色

きれいだわあ、むかしのあたし

このころはね、なんというんですか

なんでもかんでも、まあ、とにかく

やっていけそうな気がしたの

それは今もそうだわ

そうなんですけれども

かまど、氷冷蔵庫、ちくおんき、ら字ラジオ

夢のようね、畝うねりうねり、

うねって、玉の音、玉の音、まけちまった。

なによもう

今はね、あたしパンパンやってんの

お米のために尽くしているのよ

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ちょきぶね

ちょきぶね

おっといけねえ、

落っこちまうところだったらあ

げはげはげはは

にいやん、落ちちゃあいけねえが

落ち着かなくっちゃいけねえ

今宵、山谷船、最終便。

よしわらに。あらあら、あしわら。

おきゃくさん、もう立っちゃあいやだな

ほいで、落ちちまって溺れ出しちゃあ

せきにんはおれがとんなきゃなんねえ

船、低し低し、引くし、弾くし、弦の音。

べんべけべんべんべけべん

絢爛豪華、百花繚乱

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うつらうつらする。

うつらうつらする。

うつらうつらする。

名月はもや

わたしはぼんやりと横に

空気の流るる音を聴く

音の流るるは

もやの中にあるから、うつらうつらする。

あなたのかお

あなたのて

あなたのこえ もう、うつらうつらする。

さいごのあなた

月見だんごのように

つめたくてやわらかくてあまい

あまいゆめをわたしにみせて

ああ、うつらうつらする。

なみだはおちない

もやになって月をかくすの

うつし

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はが

はが

歯がいたい。

あまくてあまいきゃんでー。

はがゆい。

あの子のてをぎゅっとにぎりしめたい。

はがきが来る。

ばいばい、もう会えないの。涙は流れ。

剥がしてしまえ。

なにもかもぜんぶ。肉も骨も魂も。

破顔。

きれいなかお。

葉隠

ぶぶぶしどうはしぬこととみつけたり

 
あああ

ひぐらしさん

ひぐらしさん

ぴちゃんぴちゃんと

誰かが水たまりに足を跳ねる。

にわか雨、細い雨、小さい雨、弱い雨。

赤んぼようないじらしい雨が

ほんのちょっとだけ降ったゆうぐれ。

たいようはもうしずんだ。

山にはあんずの夕日の名残だけ。

そのまま上に首を動かすと、だんだん青く、

深く、そして広がる群青光るほし。

どこかでひぐらしの声が聞こえる帰り道。

ぴちゃん、ぴちゃん

かなかな、かなかな、かなかな。

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汚れちまった。

ある夜の事だった。

俺は山にいた。山は杉山だった。

俺は高く聳える杉を仰ぎ見ながら低い声で唸

った。

それから上着の両襟を寄せて肩を窄め縮こま

り溜息ついた。

吐かれた息は生温く白かった。

俺の足元には女が転がっている。

俺が女の肩甲骨あたりを軽く蹴ると女は俺を

見て顔をしかめた。

しかめっ面の女の顔は醜い。

醜い女はしかめっ面をやめてにっと歯を出し

て細く微笑んだ。

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おぎのは

 いつのことだったかはもうわからない。

 その夜は十三夜だった。月がとっても明るくて、光の行き届かないところなどないというくらい、あたりは一面青く、透明な夜だった。不思議なことに、いつも合唱しているようにうるさい虫の声が、どこからも聞こえなった。

 家の人がみんな寝た夜更け、閑々とした縁側にわたしと姉だけが座っていた。横から見た姉の顔は、月の光を吸収したみたいに美しく照り映えていて、耳にかけた

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