発達した鉄鋼生産システム

鉄鋼生産システム(十名直喜)を読んでいます。
他の本に比べるとamazonで安かった(ただしかなり前の本なので、面接で通用するかは分からない) 。


ちなみに総合商社や地銀などの文系が多い業界とは違い、論文を探しても理系向け、官公庁の書類は基本的に海外の需要についてがメインだったので分かりやすい情報源は本だろう。


以下、書評。(結構持論について書いてます)


鉄は国家なりという言葉がある。この言葉を最初にビスマルクであり、その後日本でも伊藤博文が最初にこの言葉を用いたと言われている。
鉄鋼業は多種類の原燃料から銑鉄を作る集約型生産フローとされている。

本書では特に生産システムについての記載が充実している。生産システムは社会システムにも組み込まれており、原材料メーカーからの調達→労働生産→市場流通と言葉にすれば簡単であるが、その過程で金融市場や労働市場の影響を受ける。

おそらく私たちが想像する生産システムは工場で機械が動いて、それを人が見張ってというレベルの解釈である。しかし、労働者の賃金管理や作業配置、能力主義管理もシステムの一部であるという風に解像度が高く書かれている。
また、工場のための不動産の確保や船舶や倉庫などのロジスティックといった物質的なものから、コンピュータによって製造状況や在庫確認、海外とのチャネル交信、販売管理など早い段階から鉄鋼にはIT技術が必要とされていた事が分かる。
実際に鉄鋼系のSierでもある日鉄ソリューションズはそうした機能統合や管理などを得意とする。
また、鉄鋼開発のための研究所も不可欠であった。鉄には高度なシステム開発が欠かせず、日鉄ソリューションズが外販事業を展開出来るのも、他の産業と比べて高度なシステム開発を早くから実践していからであろう。
ちなみにJFEシステムズはセグメントを見るとやや鉄鋼への依存度が強い。
コベルコシステムは神戸鉄鋼とIBMの合弁なのでまた少しカラーが違う。

人事や労務系も工場という特性上、他産業に比べて発達している。何故なら熟練した段階で技術工が離脱してしまえば(離脱理由は自主的な退職もあれば、労災など)大きな損失に繋がるからである。

ムリ・ムダ・ムラ(3M)を無くすというのはトヨタの専売特許と思われがちだが、鉄は国家なりという言葉がある通り、鉄鋼もまたジャスト・イン・タイムで生産を行う必要があったのだ。(ちなみにトヨタに興味がある人は「かんばん方式」でググると面白いよ)

鉄鋼の原料調達についても詳細に書かれている。長期契約による各製鉄企業と商社が一体化した共同購入は各企業で交渉するよりも、より海外に対しては強い姿勢で仕入れる事が出来る様になった。総合商社子会社の鉄鋼系専門商社が、各総合商社の資本によって作られたのも、そのような背景が一因だと考えられる。

化学素材メーカーがお互いをライバルとは思っていないという話もあるが、まさに鉄鋼に関しても新規参入の恐れがほとんど無いからこそ、協力関係を取れるとも言える。参入しにくい理由は技術が複雑かつ工場を新しく作るためには複雑な法規制をクリアしなければならないため。

業界として潰れる事は無いだろう。ただしシステム開発が一番進みやすい分野なので各個人の雇用の安定性は不明である。研究所の人材が一番安泰か。


本としては、分かりにくい鉄鋼業を労働や設備、販路などで分けて文系でも分かりやすいように説明しているので大変おすすめ。


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