【レポ】 26歳、はじめての歌舞伎
6月1日、人生で初めて歌舞伎を見に行ってまいりました。
えー非常にうかうかしていまして、演目に関しても歌舞伎という文化に関しても、前提知識ゼロ&モチベーションゼロのまま、かなりテキトーな感じで当日を迎えてしまったのですが(雑食ズボラオタクあるある)、それでも相当に楽しく刺激的な観劇ができました!!
というわけで、自らの備忘も兼ねて、体験記を書きのこしておきたいと思います。
長いので、よろしければ★★★ 素人感想 ★★★というところだけでも流し見していただければ幸いです。
歌舞伎とは
そもそも歌舞伎とはどういったものなのでしょうか。
レディー・ガガにたとえている文章なども見つけたので、以下に引用します。
チケット予約
八代目市川染五郎の演技を生で見てみたいと、以前からずっと思っていました。本当は今年の春、香川照之の息子である市川團子とのW主演(?)のような形で、『鬼滅の刃』が上演されるはずでした。が、本作の総合演出を手がけていた市川猿之助のあれこれがあり、中止となってしまいました。
すっごく楽しみにしていたのでその未練を引きずりつつバタバタした日常をおくっていたところ、たしか5月23日ごろだったと思います、六月大歌舞伎の告知を目にし、そろそろ行っておくか〜ということでチケットをとりました。
今回は、昼の部と夜の部の2部構成で、1部につき3演目が上演されました。6月1日から24日まで、約1ヶ月の開催です。私がぴあでチケットを探し始めたタイミングではすでにほとんどのチケットが売り切れてしまっていたため、わずかに残っていた「6月1日 午前の部 3階A席 6,000円」のチケットを購入しました。座席のグレードによって4,000円〜20,000円で鑑賞できるシステムです。
開演まで
充実した売店
日比谷線の東銀座駅から歌舞伎座に向かいました。駅直通で、すぐに下の写真のような一帯に出迎えられます。
ここではグッズや食べ物が販売されていて、結構な賑わいを見せていました。自分が修学旅行生や外国人旅行客としてここに来たら不要なものをたくさん買ってしまうんだろうな、というような雰囲気の売店です。
奥にはコンビニもあったので、朝ご飯を食べ損ねたままだった私は命拾いしました。その横に一応チケット発券用の機械も設置されていたのですが、それなりに並んでいたのでよっぽどの事情がない限りは最寄りのコンビニで事前に発券しておくことをおすすめします。
客層は、40代〜60代くらいが多いのかな、というイメージです。お着物を召されている女性客も多かったです。どの現場でもどの年齢でも、女性ってやっぱり何かを見に行く/誰かに会いに行くときにはすごく綺麗にしているなと、ちょっとときめきました。
日比谷線駅構内から一旦地上に出ると、いかにも歌舞伎座といった建物が現れますので、ここから中に入ります。
入り口では、演目の解説を聞くことができるイヤホンガイドを有料で貸し出しています。私は、なにもわからないまま行ってみて自力でなにかに気づいて帰ってくるのが好きなので、今回はレンタルはやめておきました。
至れり尽くせり
入場早々、節々から「伝統芸能の名に恥じぬよう……」という気概を感じました。スタッフさんの対応も、施設の設備も、至れり尽くせりでストレスフリーでした。たしかに、特殊な環境で英才教育を受けたプロたちの仕事を、「演者は良かったけど歌舞伎座のスタッフマジでクソだったわー」という感想で台無しにするわけにはいかないですもんね。
もぎり段階からスムーズで丁寧、フロアガイドをしばらく凝視していたら座席まで案内してくれる、トイレ・売店・喫煙所等が必要な場所にちゃんとそろっている、トイレの個室数が明記されている……。音楽系の現場に足繁く通っていると、どう考えても設計ミスだろと思わざるを得ないような会場に度々出会うので、それに比べると歌舞伎座はとても良い施設でした。必要なところに必要な経費がかかっていて良かったです。
ピンチ! 座席が狭い
一点だけ困ったことがあるとしたら、想像より座席が狭かったことです。小柄な年配の日本人にとってはちょうどいいサイズなのかもしれません。観光客は大変だろうと思います。足元にリュックを置くのもキツイレベルな上、幕間(演目と演目の間の休憩時間)も含めると出たり入ったりすることになるので、大荷物であればコインロッカーに預けるのがベターです。
ちなみに、開演ギリギリ5分前くらいに着席してもそれはとくに問題なしでした。
売店で素敵なお弁当が販売されていて、中で食べられますよとのことだったので、もしやサイドからスライドさせるタイプのテーブルある?と勘違いしコーヒーを買ってしまったのですが、失敗でした。テーブルは全然ないです。上演中の飲食は禁止だそうで(普通に考えればそれはそう)、大体は幕間にロビーでみなさん召し上がっている感じでした。
せっかくなので私も幕間に2色のお餅が入っている「めでたい焼き」を3階ロビーで購入し、食べながら次の演目の予習をしていました。
午前の部の演目
1.上州土産百両首(95分間)……幼馴染の正太郎と牙次郎。運命に抗えない男たちを描いた感動作。
幕間35分
2.義経千本桜(26分間)……都落ちする源義経と家臣の鷲尾三郎は、道中で白拍子と傀儡師に出会う。千本桜から生まれた華やかな舞踊。
幕間20分
3.妹背山婦女庭訓(80分)……入鹿の妹の橘姫、求女、お三輪。時代に翻弄された一途な恋。
演目それぞれにバリエーションとメリハリがありました。実は、急用により最後の妹背山婦女庭訓を見ることなく退席してしまったのですが、6000円の席でしたし、どうせまた近々何かしらの演目を見に行くだろうと思うので2本見ただけでも満足でした。
★★★ 素人感想 ★★★
クッソブロマンスじゃねーか
グーグル画像検索で「歌舞伎」と入力すると、以下のようなイメージが出てきます。
お恥ずかしながら、観劇するまでは歌舞伎に対してこのようなステレオタイプを持っていました。しかし、演目ごとに雰囲気がまったく違うということを今回初めて知りました。
とくに1本目の上州土産百両首(じょうしゅうみやげひゃくりょうくび)は、時代設定こそ昔ではあるものの、ほとんど現代の口語に近い脚本となっており、普遍性のある人情ものとして、初心者が見ても比較的わかりやすい演目に仕上がっていると感じました。
衣装やメイクのイメージも、以下のような感じで、結構ラフです。
そして!! あの!!
めちゃくちゃにブロマンスです!!!!
場所は、江戸ーーー。板前の正太郎は、幼馴染の牙次郎と15年ぶりに再会します。しかし盗みから足を洗えずに生きてきた二人は、せっかくの再会にもかかわらず、あろうことからお互いの懐から財布を盗んでいたのです。正太郎と牙次郎は自らの行動を省み、堅気になって10年後にまた会おうと約束。
しかし運命は、二人の味方をしてくれませんでした。
牙次郎に金を渡してやりたい一心で、正太郎は10年間必死に働いてきましたが、貯めた200両をかつての兄弟分にゆすられる始末。武器を手に取り、100両の懸賞金がかかった罪人へと転落してしまいます。これでは牙次郎に合わせる顔がない。ならばせめて彼に懸賞金を、と考えた正太郎は、身一つで約束の場所へ向かいます。
一方牙次郎は、御用聞き(警察の末端のようなもの)としてなんとか身を立てていました。ただ、10年越しに正太郎に示せるほどの手柄はとくになかったため、なにか土産話がないか考えをめぐらせます。そんな時、首に100両の懸賞金がかかっている男がいるとの噂を耳にし、そいつを捕まえて100両を正太郎に渡そうとひらめきました(だからタイトルの上州土産百両首って本当にそのまんまなんですよ)。
あとはもうお分かりのとおりです。牙次郎が捕まえようとした人物こそ正太郎であり、二人は……というお話です。
警察にとりかこまれ、俺はもうこの世に未練はない、あの世まで一緒に手をひいていっておくれと正太郎に吐露する牙次郎。
これをブロマンスと呼ばずになんと呼ぶのか!!!!!
中国ドラマ『陳情令』を見ている時と同じ脳内物質がドバドバ出ていたと思います。
人情ものにおける愛嬌ドジっ子
上州土産百両首は、ラストこそしんみりしているものの、基本的にはギャグシーンの多い演目です。その理由はなんといっても、牙次郎のドジっ子っぷりがふりきっているからです。
塩を投げつけられているのに怒りもせずに「しょっぺ〜な〜〜〜(スロー)」とおちゃらけていた牙次郎の挙動は、爆笑ものでした。活字ではうまくお伝えできないのが非常に残念です。モノマネ癖のある人があのタイプの歌舞伎を見たら、その場ですぐにトレースしたくなって、いてもたってもいられなくなると思います。
「愛嬌ドジっ子」の成人男性というのは、フィクションにおいては相当に使いやすいキャラで、とくに誠実で屈強な男性キャラとの相性が良いですよね。
声がデカい人間に注目するワザ
そして、まさに誠実で屈強な正太郎を演じていたのは、中村獅童です。
あの、本当にアホみたいな感想で申し訳ないのですが、中村獅童、マジで声がデカい。
3階席から見ていると、初めてで慣れない環境というのもあって、なかなか集中できない場面が多くありました。演者の声が3階まで届ききらないから、というのも理由の一つです。BGMで三味線の生演奏がかかっているのがまた、聞き取りづらさに拍車をかけています(素敵なんですけどね)。とくに、にぎわいを演出しているだけのセリフがさして重要ではない場面などでは、ホニャホニャホニャ〜という感じに聞こえて、なんだかよくわかりません。
しかし、中村獅童の声は別です。いつなんどきも通っていて、迫力がありました。声がデカくて存在感があってどんな化粧をしていても獅童だとすぐにわかるというのは、舞台に立つ人間としては相当なアドバンテージなんじゃないかと想像します。
また、他の演者も、観客に聞かせたいセリフ(ストーリー上重要な発言や笑わせどころ)がある時はやはりピンポイントで声を張っていましたね。
序盤でも触れたとおり、事前知識なしで歌舞伎に触れたので、演目の良し悪しをどう測るかイマイチ自分のなかに評価軸がない状態で観劇していたのですが、まずは声がデカい人の話をちゃんと聞こう、と思った次第です。
歌舞伎にも客降りがある
あと、驚いたのは、歌舞伎にも「客降り」の概念があることです。
3階席から、下はよく見えなかったので何が起きていたのかは不明ですが、下の座席表のように花道もあって、演目によっては観客との距離が縮まるもの、ファンサービスのあるものなどがあるようです。客降りにおける「最前」席も、人気ですぐに売れてしまうのでしょうね。
上州土産百両首では、10年後に会おうと二人が別れる場所にたどりつくまでの散歩シーンのようなものを、客降りで表現していました。
ちなみに、歌舞伎には「掛け声」もあります。詳しくは以下の記事を参照ください。この記事の筆者は、それを「寿司のわさび」と説明しています。
美容系インフルエンサーのみなさんにぜひ見ていただきたい
義経千本桜の話に移ります。
こちらは舞踏系で、歌舞伎のステレオタイプに近い、真っ白な舞台化粧と華やかな衣装が印象的な演目でした。
本命(義経の家臣・鷲尾三郎役の染五郎)が美しく舞っているのを見て、我歓喜です!!!
ところで、歌舞伎のおしろいを塗った化粧って、美容系インフルエンサーが見たらどう感じるんでしょうか。気になります。
現代人の日常的なメイクは、下地やファンデーションで肌を均一にしたところから、影や光を入れて顔を立体的(西洋風)に「し直して」いくのが主流だと思います。
歌舞伎の化粧が大変だなと思ったのは、下地のおしろいがあまりにも頑強すぎるがゆえ、シワやほうれい線をハイライトで飛ばすような技術が使えず、厚化粧の割には地で勝負するしかないジレンマが生じる、ということです。
もう少し簡単に言うと、濃い舞台メイクはふつう、演者をさまざまな役に変身させてくれるものだと我々は考えがちですが、おしろいはシワに入りこむと肌の老いを強調するので、結局元の顔の造形通りの役、つまり若い役者は若者役、ベテランの役者は年配の役しか担えず、化粧のせいで役の選択の幅が狭まってしまうのではないか、ということです(ルッキズム&勝手な心配失礼します)。
(それでいうと市川染五郎くんは自前の鼻筋がめちゃくちゃすごく、華やかなお顔立ちなので、華のある役が似合いそうですよね)
また、客席の角度によっても見え方が違ってくるのと、オペラグラスを使って一点集中で見られると見えなくていいものまで目撃されてしまうため、鏡の前で(正面から見た状態で)ヨシッ準備できたぞ!と役者本人が思ったとしても、実際のところ気が抜けないんじゃないかというのも役者目線で大変だなと感じました。
ふだんタトゥーの入りまくった外国人(韓国アイドルやラッパー)を追っている身としては、タトゥー入ってたら終わりじゃん、などと思っていましたが、タトゥーを入れている歌舞伎役者っているのでしょうか?(いないだろうね)
3階席からだと、かなり着物がはだけて見えます。白塗りの役、とくに女形は、襟の部分に丸みが出るように着付けた後に帯でしめると思うので、首・肩周りが上からガン見えなんですよね。上半身ぬかりなくおしろいをはたいてるんだな〜と感心します。逆に、染五郎は耳の後ろにはおしろいをつけていなくて、あれはああいうもんなのか?といろいろ気になってしまいました。
巻きグソのように(ほんとすいません)まとまった黒々としたカツラは、集合体恐怖症の人がオペラグラスで見るとキケンかもしれません。
ベイマックス最強説
素人目線では、染五郎の舞はとても美しいものでした。が、あれって界隈ではどのように評価されているのでしょうか?
歌舞伎にとってうまい踊りって、どんなものなんでしょう。
染五郎の踊りは、線が細く丁寧で、やわらかいものだったと感じました。元々のスタイルも良いので、スッとした印象です。
ただ、かさばる着物衣装との相性を考えた時、胴がふくよかなひとの踊りはより舞台映えするんじゃないかという直感もありました。これは歌舞伎に限らず他ジャンルにも共通することかもしれません。理想は、胸と胴に幅があって、手が長く足は長すぎず、手先だけ細い体型です。
それで思いつくのは一人しかいないんですよね。
そうです、ベイマックスです。
古典における「子ども」概念と、若手役者に振る役あるのか問題
染五郎めあてに歌舞伎人生を始めた私ですが、古典が題材になりやすい年功序列の伝統芸能にとって、2005年生まれ現在19歳をうまく扱うのは難しいのではないかと考えました(本当に知識ゼロで言っているので何本か見たら考えが変わるかもしれませんが)。
古典文学に疎いのでテキトーなことを言うことになってしまいますが、昔って「子ども」の概念が曖昧じゃないですか。未成年だから教育を受けさせて大人が守ってあげなければ、という価値観はほぼなく(?)、家計を支える「数」の一人として働かせていく。そういった価値観が根付いたストーリーのなかで、子役たちをどう使っていくかというのはなかなか難しい話ですよね。
市川染五郎くんクラスのポテンシャルとなると、世界の映像界では、なにかしらの恋愛ドラマに出演してインスタフォロワーウン千万人ということも夢じゃないと思います。「今もっとも油の乗った役者」と押し出すこともできる年齢です。しかしながら、歌舞伎界では若造なので、ベテラン演者の数が多い演目では端役となることが多そうです。
だからこそ、序盤に挙げた『鬼滅の刃』コラボのような、主演を張っている企画モノを見に行きたかったわけです。ただしばらくはそういったものもなさそうなので、八月納涼歌舞伎での娘役を見に行きたいなと検討中です!
おわりに
序盤でも書いた通り私は、なにもわからないまま行ってみて自力でなにかに気づいて帰ってくるのが好きなタイプです。初期衝動といったら大袈裟ですが、初めに目にした時にしか持ち得ない感情を、とても大切にしています。
とくに、作品そのものだけでなく、作品が誰にどう受容されているかにも高い関心があるので、歌舞伎においても同様、場所の雰囲気や観客の振る舞いを観察するのも楽しみの一つでした。
今後も、暇を見つけては歌舞伎座におもむければと思いますし、別ジャンルでまた「はじめての〇〇」シリーズを更新できればと思います。
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