独りよがりの世界から、目の前の人との対話がある世界への移行。 流れるように、一つも無理がなく進んでいく。ー『花の子ども』感想ー
早川書房さんが募集をしていた
「アイスランド女性文学賞受賞。〈男らしさ〉と家族のかたちを見つめ直す青春小説『花の子ども(仮)』読者モニター募集」
に応募し、読者モニターに当選したので、本書を発売よりも一足先に読ませていただきました!
当選者の発表は現物送付によって知らされるため、忘れた頃に突然の「送付しました」メールが来たかと思えば、翌日自宅ポストに届いたゲラ。
わ〜!出版社からの送付物だ〜〜〜〜!!!
自宅ポストに発売前の文章が入ってる。
この特別感があるから、報酬がなくてもつい応募しちゃうんですよね。
出版物に少しだけでも関わってる感じ。
『花の子ども』概要
気になる『花の子ども』、概要は以下の通り。
『花の子ども』 (2007年発表)
オイズル・アーヴァ・オウラヴスドッティル (Auður Ava Ólafsdóttir) 著
アイスランド女性文学賞受賞
温室育ちの青年の成長を、飄々としたユーモアで描く長篇小説。 母が遺した珍しいバラをもって、僕は旅に出る。めざすは、外国の修道院にある庭園。ところが、世間知らずで、妄想がちな僕を待ち受けるのは、トラブルと空回りの連続だった!?
機内では腹痛にもだえ、森でさ迷う。旅で出会った女性たちとの関係を妄想してしまうけれど、彼女たちは僕の期待をすり抜けていく。ついに到着した修道院の庭園は荒れ果て、やがて、おもいがけない訪問者が現れる。かつて僕と一夜だけ関係をもった女性が、赤ん坊を預けにきたのだ。こんな僕が父親に!? バラと僕は、この地に根を下ろせるのか?
ざっくりいうと、22歳の青年の成長ストーリーです。
読み心地
小説で気になるポイントは、なんといっても「一気読みしたくなるほど没頭させてくれるかどうか」。
『花の子ども』はかなり没頭できます!
ふり子、推しちゃう!
あらすじも含めてどういったところが良かったのかを、もう少し書きますね。
前半では22歳の情けなさが、これでもかってくらい詰まっています。
例えば、虫垂炎で弱ると「自分はもう死ぬ」と思い込み、手術後に回復したら「死と復活を経験した」と思う。
なんて過剰な...!!!
また、少し関わっただけの女性と"寝られたかもしれない"可能性を妄想。
しかも、その相手ってのが"看病してくれた看護師さん"だったりするんですよ。
いや、それ仕事だから!
お前に何の脈もねぇから!!!!
などなど、ツッコミどころが盛りだくさん。
こんな調子で、おバカエピソードが続きます。
読みながら「体調不良の後、ちょっと回復すると性欲が急に存在感を主張し始めるの、わかるなぁ〜」と自分のしょうもない部分と重ね合わせて共感するシーンもある一方、ずっと独りよがりで、目の前の相手ときちんと向き合っていない主人公にちょっとうんざりしたり。
そんな情けなさの塊のような彼が、"一夜だけ関係を持った女性"アンナや、0歳9ヶ月の娘と生活を共にすることで「目の前の相手」ときちんと対話するようになります。
・・・おぉ〜〜〜っと!あらすじ紹介はここまで!!
わたしが良かったと思ったのは、ここからの成長ストーリーの運び方!!!
独りよがりの世界から、目の前の人との対話がある世界への移行。
流れるように、一つも無理がなく進んでいく。
この話運びの美しさのおかげで、気づいたら一気読みしていました。
この、本にのまれる感は他の何物にも替え難い。
何度体験しても、本にのめり込んで、ふっと終わってる瞬間って気持ち良いよねー!!!
これ以上なく優しく描かれる「男ってバカ」
ネットの文章では対象のことをちょっと突き放して、"短く鋭い言葉で斬る""うまいこと言う"エッセイなどが目立ちますが、この作品は真逆で、ゆっくりと丁寧に愛で包んでいる感触を受けます。
読み手に対して対象(主人公)をグッと引き寄せて、読み進めるごとに、ごく当たり前のように主人公を愛させる。
ネットの短い文章や動画と比較すると、「愛するためには言葉と時間をかけてじっくり向き合う必要があるんだ」と、文字数や紙の厚みで教えられているかのようでした。
先述の通り、物語の前半では読んでいてうんざりするくらい、一人の恋愛対象と向きあわずに独り相撲を取る主人公。
一言で済ませるならば「男ってバカ」なのですが、後半の成長パートまで通して読むと、過去にないくらい「男ってバカ」が慈愛を持って、優しく描かれていたことがわかりました。
未熟さを含めて読者が思わず愛してしまう。
それほどの優しさと慈愛を持って描かれていることが、アイスランド女性文学賞受賞の理由の1つなんじゃないかな?
もちろん、主人公が育児を通して成長していく本筋を考えると、「男が仕事して家を支える!」といった旧来の"男らしさ"ではなく、赤ちゃんの面倒をしっかり見ている姿も、2007年という時期を考えるとアイスランドでも新しく、評価されたのだと推測できます。
※後日、出来上がった製本を読んだ際に、解説に下記のように記載がありました。
>『花の子ども』がアイスランド女性文学賞を受賞した際には、「アイスランド文学において、新たな男性像が描きあげられた」と評され、ロッビ(主人公)と<男らしさ>の一様でない結びつきが注目された。
推測、当たりです!笑
料理とコミュニケーション
わたしが最も印象に残り、たくさんメモをとったのは「料理」に関する表現部分でした。
本作において料理に取り組む姿は「登場人物(主人公、年老いた父)の他者との関わり」を表し、相手への想いが深くなればなるほど、料理への関心も高まっていきます。
自分のためだけなら料理なんてしないけれど、一緒に過ごす人がいるから、慣れない料理にも向き合う。
「何を作ろうか?」と、準備の段階から一緒に食べる人のことを考え、喜んでもらいたいから相手をもっとよく知ろうとする。
その循環が読んでいてすごく気持ち良い!
日常的に一緒にご飯を食べる人が、自分が一番向き合うべき人なんだと、改めて思い出せました。
また、グルテンだけでなく大豆もアレルギーのわたしにとって、醤油が主な日本食よりも、大豆文化のないヨーロッパ圏の料理の方が「これなら食べられそう」と前向きな気持ちを掻き立ててくれます。
彼らが挑戦した料理をわたしも食べてみたい!
残念ながら日本に野うさぎはそう簡単に売っていませんが、肉の味付けをいつもと変えて、アイスランド風によせるくらいならできそう。
そうやってちょっとずつ、わたしの料理も今の自分に合ったものに変えていきたいなと思うのです。
みんな、花の子ども
突然交通事故で亡くなった母のことをことあるごとに口に出す、年老いた父と主人公。
急逝した母への未練がたっぷりあるのは2人共同じですが、それぞれのぶつける相手が異なります。
父は子どもたちへ。
主人公は好きになるきっかけを母がくれた園芸へ。
主人公は漁師の父に理解されないまま、園芸の道を母の思い出と重ねて邁進します。
旅に出るのも、母の形見ともいえるような「八弁のバラ」を、憧れの遠く離れた国の庭園へ植えるため。
果たして園芸は本当に自分の夢なのか、先立ってしまった母への想いなのか。
主人公の園芸への熱中度と母への未練は比例しているかのように描かれているので、旅立つこと自体も読んでいてハラハラさせられます。
ここまであまり触れられませんでしたが、園芸は主人公が最初に意思を持って行動する大切な要素です。
最初「みんな庭へ出たがらない」と言われていた場所が、草花が豊かに生い茂り、進んで庭に出たくなる場所に変わっていく姿は、花が成長したようでもあり、紛れもなく子どもだった主人公の成長でもあります。
さらに物語が進み、主人公が子どもを育てるようになって生活が変わると、だんだんと母の言葉を思い出さなくなっていきます。
もちろんそれは彼の生命力が失われたわけではなく、"主人公自身が子ども"だったところから"子を育てる親"へと成長し、過去を振り返るばかりでなく、しっかりと現在と向き合うようになったことの表れ。
父や母に頼ってばかりだった青年が自分の目と言葉で人と向き合うようになる、自立の過程も見どころです。
この物語中では、花はすなわち母であるように捉えられます。
『花の子ども』すなわち、「母の子ども」。
みんな等しく、母の子ども。
新米子育てママ目線
主人公が物語中で育てているのは0歳9ヶ月の赤ちゃん。
わたしが本書を読んだときに育てていたのは0歳10ヶ月の赤ちゃん。
なんとその差わずか1ヶ月!
いい時期に読めたな〜!!!と嬉しく思います。
主人公は結婚もしていない、子育て経験ゼロで突然9ヶ月の赤ちゃんと過ごすことになるので、急ピッチで育児のあれこれを学びます。
育児を学ぶ過程に、パパを阻む壁が全くない様子で描かれるのは、ちょっとファンタジーなのか、それともアイスランドでの「普通」なのか。
日本だったら、男親が蚊帳の外にされている様子をたびたび見るので、そんな文化背景も気になりました。
裏帯にも注目!
「ジェンダーギャップ指数11年連続世界1位でお馴染みアイスランドで生きている人が小説を書くとこうなるのか〜」とジェンダーギャップ差による価値観の違いも味わえる『花の子ども』。
この小説の、裏帯に、なんと!わたしグルテンふり子が!
コメントを提供させていただいてます〜〜〜!!!!
裏とはいえ、自分のコメントが本の帯に印刷されて書店に並ぶなんて、人生で初めて!
嬉しいなぁあああ!
今回は「いい事書いたから」で載せていただいただけなので、いつかご指名で任されるようになってみたいなぁ、なんて野望もちらり。
いやまぁ、自分の本を出版することを目標にしろよ!って話なんですけどね!はっはっは!
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ゲラ読みを体験させていただいた、早川書房さんに感謝を。
出版社ごとに扱っているジャンルを把握していないため、前回読んだ『月の落とし子』のSFミステリと、全く毛色が異なる純文学までカバーしているのか!と、驚きながらも楽しく読ませていただきました。
この投稿を読んで『花の子ども』を読みたい!と思った人が一人でもいますよーうにっ!
2021年4月14日発売です!
早川書房公式で、冒頭部分が公開されているので、読みたくなった方はこちらからどうぞ〜!👇