パン職人の修造134 江川と修造シリーズ パン職人NO,1決定戦 Shapen your five senses
「勝つのは俺だ」鷲羽は江川に向かって言った。
しかし江川の奴、細い体でよくあの生地を持ち上げられたな。基礎体力と体幹が大事なんだ、細い奴でも体幹が強ければ持ち上げられる。
「そういえば北国で育ったって言ってたな。やっぱ雪国の人って足腰が強いのか?江川」
「えっそうかな?わかんない」
「ふん」
ふんだって、相変わらずだな鷲羽君。
ところで残ったのは5人の中の誰なのか?それはそこに立ってる5人共が思ってる事だ。
はあはあ言って横に立っている人物なのか?相当急いだのか息切れがひどい「重かった」と汗を拭きながら言っている感じがする。
「あっ」電光掲示板が光った「18番だ」信じられない。「俺の方が早かったのに」と声がしたがさっきみたいに急いで現状を把握する為に次に行きたい「ごめんね」と振り向いて言った後、江川は痛む足を庇い片足飛びで飛んで行った。
「いたたた」足がズキズキする「捻挫かな」
次の現場には3人が選ばれた、鷲羽と江川、そしてもう一人は多分息を切らしてた男だ、日に焼けた肌に黒髪の青年だった。スラリと足が長くて歯が白い。
青年は江川に知り合いに挨拶する様にニコッと笑った。「あっ」見たことある。
この人、パンロンドのお客さんだ。
しかしそんな事を考えている暇は無い、次に江川が驚いたのは大坂が立っていた事だ。
「江川さん」
「大坂君どうして」
「訳は後ですよ江川さん」
見ると鷲羽には園部が、もう一人の青年には同じ年ぐらいの女の子が組んでいた。
電光掲示板が光った
2人で50人分のタルテイーヌを仕上げて次へ
見るとさっきより少し広い室内の奥には広くスペースをとってあり、2台の冷蔵ストッカーに肉やハム、魚介類と4台のテーブルの上に野菜、各調味料、洋酒などあらゆる食材が並べられている『2人で』と書いてあるので一緒に作ると言う意味だ。
「お題には2人でって書いてあるから自分で勝手にやるなって事かな」しかし話し合っていると時間が足りなくなってくる。できた者から出口に行かなければならない。2人はとりあえず食材の前に立つ。
「いたた」
「足をくじいたんですか」
「うんそうなんだ」
「そこから指示して下さい」
「うん、大坂君あれとこれと、、」
江川が食材の調達を頼んでる間、鷲羽と園部は息がピッタリで話もせずアイコンタクトだけで食材を決めて運び終わっていた。
もう一組は寄り添って食材を選んで運び出した。
江川と大坂は時間のない中細かく何をどう使うかを話し合い、ソースに関しては材料を選びながら大坂が提案したものを採用する事にする。
食材を大慌てで集めた後、必死になってソースの量を計算した。
慣れて無い場所でのソースを50人分作って最後足りなくなるのは本当に困る、おまけに勝てる物を作らなければいけない。
ソースの次は具材の切り出しを2人で始める。
「大坂君出来たソースを等分に塗って、僕がトッピングするからどんどん手前と入れ替えて」
「はい」江川は大急ぎで食材を切りながらどんどん大坂とトッピングしていった。
「早く綺麗に!」
後の2組が終盤に差し掛かった時女の子が指を怪我した「いたーい」
「咲希大丈夫?はよ手当せな」そう言うと青年はタオルを指に巻いた。そして咲希を端に避けて驚く速さで盛り付け出した。
「どんなものを作ってるんだろう?」
江川は手を動かしながら青年の会話を聞いて思い出した事があった「咲希ちゃん?そうだ、あの子高校生の時パンロンドでバイトしていたんだ、あの男の子はその時お客さんとして通っていたんだった」
鷲羽が「俺達はできたぞ江川!お先に!」と言いながら片付けを始めた時、大坂も作業に慣れてきて2人してどんどん追い上げていった。
「できた!」急いで片付けて大坂の背中に飛び乗った「走ってー!」と出口を指さしたのと同時に大坂が「うおーーーっ」と走り出した。
その時俊敏そうなあの青年が咲希を抱えて先に滑り込んだ
「あっ」
大坂は江川を背負ったまま滑り込んだが間一髪間に合わなかった。
「3位になっちゃいましたね、江川さん」
「うん、頑張ってくれてありがとうね大坂君」
6人はその場でしばらく待たされた。
「咲希ちゃん久しぶり。元気だった?」
「あ!江川さんだあ。早太郎、パンロンドの江川さんだよ」
「佐久間早太郎です、お久しぶりです」
挨拶しあう4人を見て鷲羽が「江川、この人佐久間シェフの息子さんだよ」と言った。
「えっそうだったの」佐久間シェフと言えばパン王者選手権の時に修造が戦った超有名ブーランジェリーサクマのオーナーだ。
「なあ咲希ちゃんさっきの怪我大丈夫やった?」
「うん早太郎の心配症さん、ちょっと指の先を切っただけだから大丈夫」
「だって咲希に何かあったら俺どうしたらいいねん」
「何言ってるのうふふ」
急に2人の世界に入り込んだのをみて鷲羽が「何しに来たんだよ」と呆れた様に言った。
その時電光掲示板が光る
全員で移動
突然扉が開いた「今度はなんだ」鷲羽と園部は確認しようといち早く扉の向こうに行った。「行こう咲希ちゃん」と早太郎達も続く。
「俺達もこのドアから出ていいんですかね?」大坂は江川をおんぶしたまま「ひえ~」と怖がっていた。「何がおこるの?」江川もキョロキョロした。
広いスタジオに観客席があり、そこに50人程の老若男女が座って拍手して6人を出迎えた。その前には審査委員席があり、知り合いのシェフ達が座っていた。
そのまた前には広いスペースがあり、テーブルが置かれている。
その反対側に修造が立っていて6人に手招きした。
6人は緊張の面持ちで横一列に並んで立った。
江川は痛い方の足を少しあげたまま大坂の腕に掴まり立っていた。
心臓がバクバクする。
突然四方に設けられた大きなモニターに文字が現れる。
「五感を研ぎ澄ませ!パン職人頂上決定戦!」それを見ながら売れっ子司会のアナウンサー安藤良昌が大きな声を張り上げた。
「観客の皆さん、テレビをご覧の皆さんこんばんはNNテレビが総力を挙げてお送りするパン職人頂上決定戦のお時間が始まりました!パン職人の皆さんには何時間も前から戦いを繰り広げて頂いておりましたが、その中から選ばれた3人のシェフと助手の3人に並んで頂いています」
つづく
3組はどんなタルテイーヌを作ったのか?そして勝敗は?
以下次号!
マガジン1〜55話はこちら
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