地産地消を輸出しはじめたフランスの取り組みとその独自メソッド N50
ヨーロッパの地産地消の取り組みは伝統的文化を守る信念があり、根深い歴史の中で積み上げられた人間の知識の集大成であることをさまざまな分野で触れることができる。
もっとも大きな意味合いとしてはアンチグローバル、アンチアメリカ、アンチ大量生産大量消費だ。マクドナルドに対抗するために作ったスローフードという食文化は食事にかけるお金や時間に比例して豊かさを増やした。「大陸ヨーロッパのレストランのウェイターは呼んでもすぐ来ない。それは会話を楽しんでもらうためだ」ということわざがあるように食事と過ごす時間の質を圧倒的に高めた。
まず食事の質を高めるために食材にこだわった。新鮮さはもちろん、顔の見える人から買うことによって安全な食材を使うことができた。これが農薬などを使わないオーガニックにつながっていく。また夏野菜冬野菜があるように旬の野菜を食べることで免疫力を高め健康に良い効果もあった(例えばきゅうりは夏野菜で体を冷やす効果があり冬は食べない方が良いという考え方がある)。もちろんこれはグローバル化によって世界中から安い食材が届くことで地元の経済を守る意味もあった。
さらには観光業だ。オーベルジュをはじめニューツーリズム文化が続々と新しい形のツーリズムが生まれた。田舎体験、古城宿泊体験、歴史遺産訪問など現地でしかできない差別化の理由を作り、実際に訪問をして収益を上げるアウトバウンドモデルを作った(日本も大いに参考にして今のブームがある)。
しかしながらこれらが生まれた背景にはグローバル化が進展することで特に田舎を中心とした第1次産業従事者や観光業をはじめとするサービス業の従事者は失業の恐怖と物価が上がり続ける二つの荒波をどう乗り越えるかという状況下で知恵を振り絞って生み出してきた背景がある。結果論ではあるが、値段を下げるのではなく値段を上げて高級路線で攻めることを選択して今の付加価値、つまりフランスブランドやイタリアブランドがあるということを日本人は参考にできると思う。決して相手の懐の予算に合わせる値下げをしても意味はないと私はあえて言いたい。
最後にこの洗練されたブランドと食体験を輸出するという行為に出た。ワインはわかりやすい輸出品だが、私がこの10年くらいで注目しているのがフランスパンだ。フランスで食べるパンは日本あるいは他国で食べるパンとは全く別物で圧倒的に美味しい。日本のお餅を食べている食感で深みある味わいだ。これを食べるだけのためにフランス旅行を私は毎年1回ないしは2回していたと言っても過言はない。そしてこのフランスでしか食べられない地産地消の代表であるフランスパンが今世界で食べられるようになってきている。
フランスでパンが美味しい理由は様々な要因があり(特にヨーロッパ圏外の)他国では困難である。例えば日本でパン作りが難しい理由は多湿で乾燥しているヨーロッパと比べてどうしても味わいが変わってしまう。それでも美味しいパンを日本人は頑張って作っているのは日本人のお家芸だが。気候や地元で採れた小麦粉、あるいは伝統的なノウハウを持った機械業者、さまざまな人や企業で形成されたエコシステムがあってフランスのパンは美味しくなっている。アメリカやオーストラリアも気候的には似ているがどうしてもフランスの味を出せないのは歴史が足りないためかといつも思わせられる。だからこそ地産地消の代表格としてフランスパンなのだ。
そしてその輸出メソッドは冷凍パンだ。フランスでパン作りを最終工程の1歩手前で冷凍させて輸出する。つまりパンをこねて焼くところまで行うのだが、半焼き状態で取り出して最後の半焼きは輸出先の国の家庭でおこなってくださいというメソッドだ。おそらくこねた状態のパンを凍らせて輸送したものの気候の問題などで美味しくできなかったのだろう。半焼きまで仕上げて最後だけオーブンで焼いてくださいという究極の地産地消型料理を輸出しはじめたのだ。
実は日本では昔から有名ホテルがフランスの冷凍パンを使っていたところがある。東京でもフランスの冷凍ヨーロッパパンの専門店ができたが、フランスパンの美味しさ(価値)を知っている人が少なかったためか、残念ながら店は閉まってしまった。そして個人で手に入れようとすれば個人輸入で箱買い(業務用の取り扱いのみだった)をするかしかなかった(冷凍庫全てを占拠してもはみ出た)。
だが最近はフランスが本腰を乗り出したため、各国のスーパーでも手に入れられるようになってきた。ネットを見る限り日本だとKaldiにもあるようだ。また楽天のようなネットショップでも売られている。
是非興味のある方は試していただきたい。またこの半焼き冷凍輸出モデルは日本の料理にも適応できるだろう。食品は検疫や規制がいろいろあるため面倒だがフランスの戦術はとても参考になるはずだ。
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