#5 定期的にビヨンセになりにいく
育休中、地味に辛いのはイヤホンで音楽を聴けないこと。
抱っこ紐やベビーカーで歩いているとき、周りに気を付けないといけないので私はイヤホンをしない。家でBGMで音楽をかけることはあっても、育休中ほとんどイヤホンを使うことはなかった。
娘の育休中から復帰したとき、通勤途中久しぶりにイヤホンで音楽を聴いた。周囲に注意を払わず耳にイヤホンを入れる。Bluetoothが接続した音。私の中で、細胞がザワザワした。永い眠りから久しぶりに目を覚ましたような。
音楽をかけた瞬間、音楽が体中を駆け巡った。別に高いイヤホンじゃないのに、血管の中に血液とともに音楽が流れだして、身体が「待ってました!」と震えた。出産後、初めてビールを飲んだときと同じ。一口目からビールが身体中に沁みわたっていく感覚。BGMではなんとなくしか感じられなかったベース音が、お腹の中でズンズン騒ぎ出す。
よく、心が折れそうになったときは心の中に「ギャル」を飼うといいと聞く。ポジティブで多少のことでもへこたれない「ギャルマインド」で乗り越えられるそうだ。
私は「ギャル」をさらに進化させて「ビヨンセ」を心の中に飼っている、いや、飼わせていただいている。
私は音楽の力を借りて、1日の自分の気分を作る。気合を入れたいときは、ビヨンセの「Run the World」
「Run the World」のリズムで、ギラギラした衣装を着たビヨンセが、めちゃめちゃ高いピンヒールをはいて歩いていくイメージだ。私はビヨンセの後ろを小走りでついて行って、「Girls!」の歌詞のところでジャンプする。
ビヨンセが私の小さな悩みを、ブルドーザーのように蹴散らしながら歩いていく。
娘がいまだにオムツでないとウンチをしてくれないこと。
夫との家事育児の分担が不公平なこと。
図書館の本の返却期限をだいぶ過ぎていること。
8キロの息子と15キロの娘を同時抱っこしないといけないこと。
産後ダイエットの一環でヨガに何回か通った。
優しい波の音や、ヒーリング音楽は気持ちを整えてくれるけど、気持ちはあがらない。
育児中はとにかく「無理」なことが多く、一度負の思考のループに入ると、そのままダークサイドに闇落ちしてしまう。気持ちを整えるだけでは足りず、ぶち上げてノリと勢いで突き進んでいくシーンも必要だ。
そんなときはギャルを超える「ビヨンセ」を心の中に飼うことを、すべてのママにお勧めしたい。
ハイヒールはもう何年もはいていないけど、心の中のビヨンセが私の代わりに高いヒールをはいて、すべてを蹴散らしてくれるから。