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msy03
詩)妄想客室Ⅲ
明るいラテンの音楽が流れるバーで
王族の一人という男は
手のひらをしっかりと握って
真っ直ぐにわたしを見て
言った
「駱駝40頭をあげるから嫁に来ないか?」
ぎゅっと握り締められた手のひらは
脂っこく
わたしはこのまま
とんでもない世界に行ってみようかと
半ば思っていた
あのまま客室に戻って
あのまま 彼の横で
駱駝の瘤に挟まれる夢を
見ていたら
わたしはあの時48歳
もう何も起きないと思っていたから
それからなぜか
不思議ことが連続して起きた
駱駝の王子とはお別れし
海外の仕事を辞めて
親が立て続けに亡くなり
古本屋を引き継いだ
よくわからない世界の中で
黒のTシャツにジャケットを羽織った男が
即売会の参加の方法やら
ネットでの売り方やら教えてくれた
若そうだなあとは思ったが
実は歳上だった
ホテルの客室で
商談が終わり二人で飲んだ
お互い好きとか嫌いとかもう
どうでもいいけれど
キスをした
嬉しかった
一生懸命に喋るわたしが
自分でかわいいと思った
あれはもう
ずいぶん昔になってしまった
つい 昨日のことのよう
わたしは婆さんになり
彼はもういない
あの時の客室で
今
独りいる
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![高細玄一(げん)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/153187459/profile_376f3b4f20edab624cf3e9c401acea14.jpg?width=600&crop=1:1,smart)