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レスキューキャット

私は今サンフランシスコに住んでいます。工場でケーキを焼き、日本レストランに週2回卸す仕事をしています。

片道30分、店まで自分で歩いて運んでいます。

火曜と金曜

住んでいる場所がMISSIONという、まるでメキシコのような地域で、ホームレスピープルがとても多いです。コロナ禍でさらに治安が悪化。気をつける意味でも必ず明るいうちにデリバリーを心がけています。

配達途中の近道に、大柄で赤ら顔のおじさんが住んでいます。いつも破れた緑の上着を着ているのでとても目立ちます。大人数の彼らホームレスピープルのいる道は敬遠するのですが、おじさんは周りのホームレスピープルとも距離を置き、孤立しているようでした。ほとんど寝ていているので、あまり気にせずそっと通り過ぎます。

それが、一ヶ月ほどから、そのおじさんに異変が起きました。とても活動的になったのです。

誰かが彼の側を歩いただけでも『来るな!来るな!』と手で追い払うような仕草をします。近づくと威嚇するような声が聞こえます。
、、、、どうやら、あまりきちんと話せない人だということがわかりました。

ジェスチャーで威嚇

次におじさんを見かけたのはフードバンク(コロナ禍で困ってる人に食料を提供するボランティア、野菜、肉、卵、ミルクなど用意)に並んでいる姿でした。

以前までは寝転んだままボランティアの方が配ってくれるお弁当をめんどくさそうに受け取るだけだったのに。フードバンクの長い列に辛抱強く並んでる姿は不思議に映りました。

大柄で目立つ

帰りにその理由が分ります。

おじさんが浅い皿に入った牛乳を注意深く運んでいるのが目に入りました。彼のテントの後ろに破れた金網があり、無骨な手で牛乳の入った皿を押し込む先に

二匹の仔猫がいました。

そうーっと運んでいました。


実はサンフランシスコではほとんど野良猫を見ません。子供の数より多いと言われる犬は散歩する姿を毎日何十匹と見かけるのですが、猫は見ません。もちろん飼われてる猫は誰かの家の中にいるのでしょうが、私がこの3年間で外猫を見たのは2度目でした。

私は犬を飼っていますが、猫も大好きです。知人が保護猫を飼い始めたのを知ってわざわざ見に行くほど好きなんです。

猫のyoutube大好きです


『あ!』と気づいた顔をした私におじさんが反応しました。
『カッ、カッ、カッ、』と意味をなさない声で私に向かってきます。

これは避けたほうが良さそうだと判断して、走ってその場を去りました。

カッカッカッ

再びケーキの配達日、前回怖い思いをしたものの、チラリと見えた子猫が気になって、恐々おじさんのテントの横を通ります。彼は金網の前に座って、奥にいる子猫を後ろ手に撫でていました。

落ち着いた様子だったので、チラリと視線を投げると、彼が姿勢をズラしました。目に入ったのは

仔猫の大きな欠伸をしながらの伸び!

後ろ手で撫でているおじさん

『まさか、まさか、私に猫を見せてくれた?』
動揺しながら通り過ぎ、彼の行動を確認したい一心で、帰りもおじさんの道を選びます。

彼はもう私の顔を認識していたのでしょう。近づいてくる私を察知すると、金網を塞いでいる自分の体を動かし、子猫を完全に見せてくれたのです!

白い仔と縞の仔、ガリガリに痩せていました。ですがおじさんの分厚い手がしっかりと二匹を守っています。

すごく小さい

二人ともマスクをしているので断言はできませんが、私たちは初めて笑顔を交わしました。

多分笑顔だったと思う

それから配達日に、おじさんは身体を動かして私に仔猫を見せてくれるようになりました。言葉は交わさずもお互い猫が好きというので通じ合うものがある気がしていました。

ところが先週、いつものようにおじさんの場所を目指していると、何か揉めてる様子が見えました。アニマル保護の方が仔猫を連れて行こうとしています。

きちんと喋れない人で何を言っているかわからない

おじさんは言葉にならない声で抗議をしていました。

おじさんに肩入れしたい気持ちはあったものの、どういった状況で仔猫が保護の対象になるのか、どういう人に飼う資格があるのか、

それ以前にまともな英語が喋れない私が力になれるはずもなく、ただ車に乗せられる猫を見ていることしかできませんでした。

おじさんは私に気づいて『マ、カッカッ、、』と以前の聞いたような声を発します。

やっと分かりました。

『My cats has gone』 僕の猫が行っちゃった。


マイ キャッツ ハズ ゴーン


おじさんはキャッツって言ってたんだね。
見つかったら連れて行かれることを予想して隠していたんだね。

おじさんは猫がいた場所でぼんやり座り込んでいました。

夜になっても、おじさんの事が頭から離れず、保護猫を飼っている知人に聞いてみた私。

ひとりぼっちの家がない人が世話していた仔猫、保護センターの人が連れて行っちゃったの。どういう人なら猫を買ってもいいの?

おじさんを気の毒に思う私はもう泣きそうでした。

大丈夫、そのうち帰ってくるよ。

えっ?帰ってくる? 予想外の答えに驚きます。

彼女は二匹の保護猫を引き取りました

多分去勢するために連れて行ったんじゃないかな?

去勢?なんのために?

猫ちゃんは彼のレスキューキャットになるんだよ。人の心のケアに一役買えるんだ。そして本当にいなくなったりした時に探せるように認識タグを入れてくれてるよ。そしたら飼い主がいるから絶対に殺されない。

家がない人でも返してもらえるの?

もちろん、ここをどこだと思ってる?
サンフランシスコだよ。


うわー!もう大好き、サンフランシスコ、涙が止まらない←結局泣いてる。

物価が世界一高くても、道にゴミが溢れていても、動物と人の繋がりをこんなに大事にしてくれる。

動物に本当に優しいサンフランシスコ

この話を聞くまでは、もうあの道を通らないようにしようと思っていました、気落ちしたおじさんを見るのが辛くて。

ですが、仔猫は帰ってくるんです!

私は3年前に渡米してきて、盲導犬を始め、身体だけでなく精神をも助けてくれる動物を、サービスアニマルとして認める制度がサンフランシスコにあることは知っていました。レストランや美容室、映画館ですら、一緒に行けます。ですが、家がない人もこの制度が受けられる可能性があるという事を分かっていなかったのです。

それだけでなく動物に関するサンフランシスコのボランティアは、交通費も食事代も全て無給で 毎日施設に通えることが条件、をクリアした人ばかり。そんな方達が一匹でも一人でも幸せになれるように、日々、動物の世話をしてることも聞きました。

ああ、よかった、私はまたあのおじさんに会えるんです。

あとは私の英語力のみ

おまけ。
レスキューキャットを教えてくた知人からの話。

ホームレスピープルが彼女の所に『生活が苦しいので、猫を引き取って欲しい』と言ってきたことがあったそうです。バックパックを見ると、中に痩せた猫が二匹。とりあえず、引き取って、獣医に連れて行き、健康診断。ですが、すでに認識タグが挿入済みで、、、、猫たちは元のホームレスの方に返されたそう。

命を預かるなら最後まで、というポリシー

それからはきっちり覚悟を決めて飼ってるという良い話。

良い時もそうでない時も一緒に生きて行く事に意味がありますよね。人もその他の生き物も。

とにもかくにも、サンフランシスコ万歳!
生きているものみんなにバンザイ!!















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