7インチ盤専門店雑記459「デオダート」
ブラジルの奇才、エウミール・デオダートですが、70年代のサブカルを語る上では重要人物ですね。ヘッダー写真はデオダートのファーストとセカンドですが、私的にはトークイベントでも頻繁に登場する重要アイテムです。ラジオでもかけましたねぇ…。
特にセカンドのヴィジュアル的なインパクトは特大ですが、音的にももの凄いインパクトが当時ありましたね。初めて聴いたときの驚きは忘れられないものがありました。「歌が無いんかい!」と…、生まれて初めて接するインストものでしたからね。今だから沁みるメンツの豪華さも、当時は全く理解しておりませんでした。スタンリー・クラークにビリー・コブハムにジョン・トロペイとかいったあたりです。ファーストの方にはロン・カーターやアイアートとかまでおります。凄いです。
しかも、最初に聴いた「ラプソディー・イン・ブルー」、えらく格好良い曲でした。両盤とも1973年リリースの作品ですが、先にセカンドを聴いてしまったんですよね。グラムロックが人気絶頂期で、自分も夢中になってましたけど、全く違う世界観に憧れたようなものでした。「自分にはまだ早い」という妙な感覚も同時に持っておりましたね。
後々になって、クロスオーヴァー/フュージョンの非常に早い段階でのヒット作とみなされるようになるわけですが、当時はジャズにしては聴き易いし格好良いと思ってましたね。またブラジル人のヒット曲としても、歴史的な偉業の一つでしょう。70年代前半まではイタリアやフランスなどの英米以外の国のアーティストが随分売れた時代ですからねぇ。…後半も西ドイツはボニーMとか、シルバー・コンベンションとか、アラベスクとかいますけどね。…ミュンヘン・ディスコのブームは侮ってはいけません。
また、デオダートの7インチ盤はカフェを始めてから入手したものですが、高音質で驚かされた数少ない盤だったりもします。CTIは1973年の時点でこれだけのクオリティのマスターが作れる技術があったんですね。よくぞこの録音を生み出してくれました。感謝したいくらいです。
今となっては、むしろオリジナル・アルバムの方ばかり聴いておりますが、一時期ライヴ盤にもハマりましてね。そもそもプロデューサーやコンポーザーとしての評価が高く、演奏者としての評価ではなかったのですが、このライヴの天才肌のひらめきに満ちた演奏にやられましたね。「こんな凄い人だったんか」という感覚、他のミュージシャンより格上にみてしまう感覚を子どもの時分から抱いてしまったんですよね。
ふと、デオダートってライヴに行ったよな、…間近で観たよな、…なんか凄くいいライヴだったな、と思い出しましてね。チケットをチェックしたら出てこない…、そうかコットンクラブだとなって、昔のブログの残骸を調べたところ、ありましたよ。2008年8月16日に行ってますねぇ…。トリオであの名盤の曲をやってしまった、もの凄いライヴでしたね。…あれは本当に凄かったですね。5mほどの距離で斜めうしろからデオダートのプレイを観ることができたので、アイ・コンタクトの様子などもよく分かり、猛烈に感動したものでした。
さて、今回のイベントではフュージョンの萌芽としてご紹介するのと合わせて、もう一つ役割があります。哲学ブームというものがあった70年代の空気感として、ニーチェからユングに至るまでの当時のポストモダニズムと相まった哲学ブームを語る取っ掛かりの役目を担ってもらいます。後に「シンクロニシティ」という、ユングの共時性をタイトルに持つザ・ポリスというバンドの登場まで繋げます。
世紀末思想とオカルトブーム、UFOブームまで包含するユングの人気は、この時期の重要な世相の一つと考えます。私ねぇ、大学で心理学の講義がとても楽しみだったんです。でもねぇ、ユングの共時性とか共通する無意識とか、サラッと流されてしまったんですよね…。あれは悲しかったなぁ…。