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江戸料理 「蒟蒻百珍」「新⋆鬼平犯科帳 鬼火」より〜狸汁 一汁三菜

気が向いたらパラパラと愛読書の 江戸料理読本 のページをめくっている。
何品か作りたい食べたいレシピを決めて、献立を決め、そして器を考える。
あゝ愉快です。


睦月 江戸料理を作るなら
そりゃね

狸汁たぬきじる

いやいや、野山の狸じゃありませんから。
蒟蒻こんにゃくですから。

一月。
宝蔵院流槍術の正月稽古始めには「狸汁」を供するという伝統があり、日蓮宗池上院家・昭栄院でも正月にはたぬき汁をふるまうそうだ。

やはり寒さが一段と厳しくなる睦月こそ、狸汁です!




山茶花さざんか一輪
冬 微笑む


狸汁たぬきじるのレシピは江戸の料理本にも幾つかある。

1643年寛永20年成立の「料理物語」では本物の狸を使った狸汁のレシピが紹介されていて、臭い抜き方法や野はしりアナグマ・ムジナみたぬきについてそれぞれの下拵え方法など詳細な記載もあれば、 蒟蒻百珍こんにゃくひゃくちんにあるような蒟蒻で作る精進狸汁のレシピもあり、他の料理書では蒟蒻に大根、午房、焼き豆腐を加えたりと中々の人気料理だったようだ。


私が作ってみたいと思ったのは
蒟蒻百珍こんにゃくひゃくちん」掲載の蒟蒻とおからで作る狸汁


狸汁たぬきじる
湯煮し乱にちぎり 香油ごまのあぶらにて揚もつとも色のつくほどよろし 味噌しる 大こんおろし又はきらずおからなど せり二分きりはらりと入べし 吸物にもよし

1846年弘化3年成立「蒟蒻百珍」より

それでは!

狸汁たぬきじる、作りましょうか


蒟蒻こんにゃく250gは手で切り落とし肉のように千切ちぎ
1/3量は冷凍して蒟蒻こんにゃくにする
(前夜冷凍しておく)

解凍した蒟蒻こんにゃく蒟蒻こんにゃくをゆでてザルにあけ
フライパンで蒟蒻こんにゃくがキュッキュと鳴くまで乾煎りする
(写真手前が蒟蒻こんにゃく


❷ 鍋にごま油を敷き、蒟蒻こんにゃくを炒める
(乾煎りした➊の半分の蒟蒻を使用)


❸ ➋にパックだし(煮干し・鰹節・昆布・乾椎茸)を入れて
だしが取れたらパックを取り除き
おからパウダーを加えて弱火で少し煮る
火を止めておからパウダーがなじむまでしばらく置く 
供する前に温めて、好きな味噌を加えて溶けば出来上がり!
これでたっぷり二人分


❹ お椀についで三つ葉を飾る
せりが超高かったのでお正月の残りの三つ葉で)



狸汁たぬきじる 一汁三菜 献立
狸汁たぬきじる
麦ごはん
芋豆腐いもどうふ
春菊くるみあえ
蓮根 梅肉にくあえ


漆器に盛り付けた料理は春菊くるみあえ
くるみをおろし金で粉にして、鰹出汁と塩麴で和えた一品
生の春菊も少し加えて香りと彩りを足しました


狸汁
おからは最近はほとんど見かけなくておからパウダー使用
狸汁の見かけはほんと!肉です!
蒟蒻だけというのは物足りないかしら?
と思いきやこれが濃厚で旨いっ!
ごま油の力もありますが、おからがポイント!
蒟蒻を二種類にしたのもよかったかな?
凍み蒟蒻は味わいより食感を楽しむので、少な目にしています)


蓮根 梅肉にくあえ
1803年享和3年
成立「素人包丁」より
皮付きのままゆでて薄く銀杏切りにし
梅干しと白砂糖を梅びしお煮切り味醂に代えて和えました
これも旨いっ


芋豆腐いもどうふ
1764年宝暦14年
成立「料理珍味集」より
湯豆腐にとろろをかけた一品

三日とろろの残りの自然薯に濃い目の鰹出汁生醤油で調味したとろろと湯豆腐の組み合わせが最高!
酒の肴にも◎


江戸後期の伊万里染付撫子なでしこ文なます皿などで江戸料理の雰囲気⤴
伊万里染付茶碗と伊万里色絵小皿は明治


(ちょっと物足りないお昼ごはんになるかも?)
と案じていたけれど、そんな心配は無用の満足ごはん!

狸汁たぬきじる、化かされたと思ってぜひ!


そして!忘れちゃいけないのが、あのスーパーヒーロー小説に出て来る狸汁たぬきじる


「池波正太郎  鬼平料理帳」
なる本もあるほどで、江戸料理と言えば池波正太郎!
池波正太郎と言えば鬼平犯科帳!


「よし、よし。ともかくも佐嶋、酒井。ここが正念場しょうねんばとおもい、構えて油断すな」
「はっ」
「それから、明日の朝、わしに虚無僧こむそうの支度をととのえて、此処へ届けさせてくれ」
「心得ましてございます」
「ま、一杯引っかけていくがよい。今夜は、まるで、冬がもどって来たようじゃ。おい、婆さん、婆さん・・・・・・」
すると店の方から、お熊の威勢のよい声が、
「ちゃんとわかっているよう、銕つぁん。さかなは何だとおもう?」
「肴の支度もしてくれるのか?」
蒟蒻こんにゃく千切ちぎったのをたたっこんだ、舌の千切れるように熱い・・・・・・」
と、いいかけるのへ、
「ふうん、狸汁たぬきじるか・・・・・・」
平蔵が、なつかしげな眼の色になった。
酒井祐助が目をみはって、
「あの、狸の肉でございますか?」
といったものだから、佐嶋忠介が、めずらしく吹き出した。

池波正太郎著 「新⋆鬼平犯科帳  鬼火」 丹波守たんばのかみ下屋敷しもやしき  三 より引用


本に描かれたシーンの狸汁を翌晩の酒の肴に作った。


と言っても表記された食材は蒟蒻のみ。
前日の狸汁一汁三菜昼ごはんと同じ狸汁レシピというのも、ちょっとね…

冬がもどって来たような寒さ、いや、いよいよ本格的な冬の晩です
茶店笹やに籠る鬼平たちも事件の正念場を控えて一杯引っかける
我が家でも冷酒を江戸中期の蕎麦猪口にとくとくと


銕つぁん平蔵の好物は言わずともわかるお熊婆さん
冷えた酒舌の千切れるように熱い狸汁!
いや、これが平蔵でなくても令和の我々でも心底あったまるんだわ


具材は蒟蒻と午房、大根
(といっても主役は蒟蒻なので牛蒡、大根は少な目です)

鍋にごま油を敷き、蒟蒻小さく細めの乱切りにした牛蒡と大根を加えてしっかりと炒める
パックだし(好きなだしでどうぞ)を入れて具がやわらかくなるまで煮る
煮えたら煮汁で溶いた酒粕(けっこう多めに加えました)を加え、ひと煮立ちする
仕上げに味噌を入れて溶き、調味したら出来上がり

薬味に長葱黒七味


酒粕がいいのですよ。こんな冷え込む晩にはいいのです。
酒屋でもらった酒粕があったから加えたのだけど、きっとお熊婆さんもこの時期には酒屋から酒粕をもらったかもしれない。
ならば銕つぁん平蔵たちのために酒粕入れたかす汁仕立ての 狸汁たぬきじるを作って、「はいよ!」とふるまっただろうと妄想。


「ほれ、あそこです」
録之助は、墓地の彼方をゆびさした。
そこは、ちょうど、お浜の墓標があたりで、青白い燐火りんかが一つ、ふわふわと暗夜の闇にただよっている。
ときがときだけに、四人とも押しだまって、じっと見入った。
「お浜が、供養をよろこんでいるのでしょうか・・・・・・」
と高橋勇次郎。
「いや、なに・・・・・・」
長谷川平蔵が、かぶりを振って、
「墓のあるところには、よく鬼火おにびがただよっているものじゃ」
その声も、何やらしみじみとして、
「おれはなあ、お浜のような女に、滅法めっぽう弱いのだ」
ゆっくりと、歩み出したのである。

池波正太郎著 「新⋆鬼平犯科帳  鬼火」 汚れ道  七 より引用



きれいに終わるラストというのは、落語の名人芸に通じる爽快さを感じ、鬼平ってほんと、かっこええわぁ!と「新⋆鬼平犯科帳  鬼火」を読み終えたのだった。

あゝ 面白いぞ!江戸料理




さて
次回は春
さ~てと
なに作ろうかしら。


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