エリ (ショートストーリー お題:接吻代行)
(610文字)
エリ、柔らかな頬が上気している。熱があるのだ。
しっとり額に張り付いた髪をエリの耳の方へ流してやる。
エリは幼い額にすっと、透明な筋をたてた。
夢をみているのね。
自由をー泳ぎなさい。そして穏やかな空を。
沙耶は幼子の夢に、そう語りかけた。
ミサイルは攻撃対象にはならない筈の、産院を襲った。
そして、浮かび移ろう光線の意味すら知らぬ幼い瞳からその母を奪った。
モザイク ほどけたままの 光の綾
エリには母の文様がどんな風に映っていたのだろう。
母親は新たな命を初めてその腕に抱いたとき、盾になった。
砕けた壁の破片は母の肩から心臓へ抜け、娘の手前で止まった。
故郷からの避難中に攫われ、人身取引をされる子供たちを保護するため、エリの祖国は外国との養子縁組を緊急に差し止めた。
沙耶は伝を頼りに日本に避難したエリの祖母から、この美しい魂を託されのだった。
いつか、家族になろう。紗也はエリに呟いた。
孫娘のエリが清潔な毛布と紗也の眼差しのなかで睡るのを見た祖母は、故郷にー戦う夫のいる地へと道を引き返した。
熱に浮かぶエリの瞳、淡く絶望を閉じ込めたような虹彩がふと、沙耶を認めた。
いるわよ あなたの側に。
お母ちゃまの願いを私は生きますよ。
その瞳に接吻し、そっと希望を注ぎ込んだ。
参加させて頂きます
たらはかにさま
よろしくお願いいたします。